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第二十四章:誰がショーを盗んだのか?

主役のいない舞台、血塗られた観客席。

サイラスは死を運ぶ影となり、一族の罪を暴き出す。

老テオドロの死は「開演」の合図に過ぎない。

溶けゆく主催者の叫びをBGMに、少女はカビたパンを囓る。

若者は、大峡谷グラン・カニオンの一派やボロを纏う者、そして各一族の追手から身を隠しながら突き進んだ。

「……一体どうなってやがる? 今はこの豚小屋を誰が仕切ってるんだ?」

サイラスは呟いた。視線の先では、特徴的なパニョレタ(首巻き)で識別される衛兵たちに護衛され、一人の太った男が到着したところだった。その背後には、欠陥品の人形のように微動だにしないラテックスの男たちが、太った男に従っていた。

男は、周囲を急かしている者に厳しい言葉を浴びせているようだった。風の囁きほどしか聞こえない長い議論と気まずい沈黙の後、太った男の表情が恐怖に歪んだ。

「……違う、そんな……あともう少しなんだ……。嫌だ! 現場監督カパタスに殺される!」

男はパニックに陥り、自らが指揮していた者たちに捕らえられた。そして、即席の共同墓地と化した火葬の穴へと投げ込まれた。

彼の悲鳴はサイラスにとって絶好のチャンスとなった。サイラスは死体から煤けた汚い布を奪い取り、自らのおぞましい姿を隠した。

「……誰だそこにいるのは!? 止まれ! 姿を見せろ!」

移動の途中で、衛兵たちに見つかった。彼らは近づいてきたが、何も言わずに佇むサイラスの不気味な影を見て、たじろいだ。粘つく体の上にボロボロの布を纏ったその姿は、あまりにも恐ろしいシルエットを描いていた。

「……何か言え、この化け物め! ……本物か? それとも幽霊か? トリックに決まってる!」

衛兵は相棒の顔を伺いながら、疑心暗鬼に陥っていた。

「……こいつ、霧を出してやがる……悪魔だ! 聖職者か誰かを呼べ……テオドロを呼んでこい!」

布がサイラスの体に触れ、熱でゆっくりと焦げ、微かな煙が立ち上るのを見て、相棒が叫んだ。

「……誰も呼ぶ必要はない。そいつはヘルナンデス家の使用人……いや、新入りの一人だろう。あの連中が操ろうとしている『アノマリー(異常体)』の一つに過ぎん」

一人の老人が威厳を持って近づいてきた。布に覆われたサイラスは、その声を認識した。テオドロだ。

若者は沈黙を守り、屋敷で見た光景を思い出していた。

「……テオドロ……テオドロ……」

サイラスは、上の立場の人間たちが使う威圧的なトーンを模倣し、深く病的な声を絞り出した。

衛兵たちは、嫌悪感を露わにする老人を振り返った。

「……言え、忌々しい獣め。あの呪われた……。私に一体何の用だ?」

テオドロは毅然とした態度で話しかけたが、途中で遮られた。

「……テオドロ! 話せ、テオドロ! 状況。進捗。テオドロ! 進捗! アノマリー!」

サイラスが耳にした言葉を並べ立てると、テオドロの表情は嫌悪と羞恥に染まった。ずっと監視されていたのだと悟ったからだ。

「……あの呪われた魔女め……。いいだろう、教えよう」

老人は目をこすりながら言葉を選んだ。サイラスは冷徹な態度で言葉を繰り返したが、その傍らで仮面が、押し殺した笑い声や逆再生のような囁きといった、不安を掻き立てる音を漏らしていた。

「……失敗フォールだ! アノマリーは耐えるはずだったが、そうはならなかった。数体を安定させるのが精一杯だったが、設備に問題が起きてすべて崩壊した。プロトタイプは標準プロトコルに従っている。私のせいではない!」

老人は不安げに額の汗を拭った。

「……失敗。失敗。失敗……。責任者。進捗。……ダイアナは何と言った?」

サイラスは、かつて共にいた異様な姿の女の名前を思い出そうとした。その名前を口にした瞬間、老人は明らかに動揺した。報告が家族の間だけでなく、自分自身の家族にまで及び、致命的な失策として刻まれることを恐れたのだ。

「……一族の懸念は理解している。だが、首飾りの石や、下層階での出来事で変質したアノマリーがなければ、送り込んだ者たちからの返答は得られない」

老人は、親族の死後にマルタが身につけていたものを思い出しながら言った。

「……ダイアナ。回答。ヘルナンデスの首飾り。ヘルナンデス。一族。説明しろ。なぜトゥルガルは欠陥品デフェクトなんだ?」

サイラスはこの対話から何を得られるか分からなかったが、全員が関与していることは明白だった。老人に確信、あるいは目的を吐かせずにはいられなかった。

「……ダイアナ、彼女は警告していた。だが損傷したトゥルガルは便利な器だった。劣化を補うために、この事態が起きることは彼女にとっても都合が良かったのだ……。しかし予期せぬ事態が……私は、私は……」

老人はうわ言のように話し、自らを取り巻く残酷な真実と状況に息を詰まらせた。彼の心臓が狂ったように鼓動するのが聞こえ、ついには喘ぐような呼吸が漏れた。

「……あいつ、触れもせずに……殺したぞ……。黒魔術だ!」

衛兵たちは恐怖に震えて後ずさりした。サイラスは動かずに立ち尽くしていた。老人が頭を打ち付け、痙攣する様子を、誰も見ようとはしなかった。現場はさらに凄惨なものとなった。

サイラスは、それ以上言葉を発することも動くこともなく、背を向けて歩き出し、部屋の闇の中へと消えていった。

誰の目にも触れなくなったところで、サイラスは階段に寄りかかった。

「……カジキマグロよりぶっ飛んでやがる。……ショック死かよ! 俺、そこまで不細工じゃないだろ!」

若者は誰か追ってこないか確認したが、何も起きなかった。ただ、サイラスの戸惑いを嘲笑うかのように、仮面の笑い声だけが響いた。

「……ここにはいられない。何か手を打たないと……」

サイラスは視線を巡らせ、再び下層階へと下りていった。

衛兵たちは注意散漫で、以前よりも数が減っていた。どうやらルーファスをヤブ医者のところへ連れて行ったらしい。

「……さて、あのバカどもがいなくなったところで。最後から二番目の新人は、どうしてあんなことになったのよ?」

一人の女が、義足の仕込み瓶から酒を煽りながら尋ねた。

「……二番目に古株だからって、俺が何でも知ってると思うなよ!」

年配の男が瓶を奪い取り、豪快に飲み干した。

「……エリアスの爺さんなら、こういう時にどうすればいいか知ってたんだがな。……あるいは適当にでっち上げるか」

男は義足を振り回しながら唸った。

「……チクショウ、空っぽだ!」

彼は中身のなくなった義足を投げ捨てた。相棒の女は、彼の愚かさに呆れた顔をした。

「……瓶、捨てちゃったの?」

女が不快そうに聞くと、男はゲップと共に忌々しげなジェスチャーを返した。

「……この、のろまの片足野郎! どうやって歩くつもりよ!」

男は困惑したように自分の脚を見た。女の罵倒はもう耳に入っていないようだった。

「……このサルダナ(化け物)め! 忌々しい悪霊め、俺の脚を返せ!」

酔った男が叫び、ふと黙り込んだ。

「……待て……」

男は銃を構え、おぼつかない手つきで義足を投げた方向を狙い、数発放った。

「……どうしたのよ!? 気が狂ったの!?」

女が叫び、相棒の恐怖に満ちた顔を見た。

「……落ちた音がしなかったんだ……。あそこに何かがいる……誓ってもいい!」

それを聞いて、女はランタンを掲げ、銃を構えた。

二人の前には、投げ捨てたはずの義足が、丁寧に「直立」した状態で置いてあった。

二人は顔を見合わせ、影の中に潜む追跡者の影を探した。だが、その捜索は無駄だった。サイラスは、彼らが気づく前に、音もなくその場を去っていたからだ。

若者は再び下へと向かい、闇と部屋を抜け、サーカスへと続く金属の柵を越えた。しかし、闇は以前とは違っていた。潜んでいる者は誰もいなかった。何も残っていなかった。

「……完全にメチャクチャだな。……見逃しちまったよ!」

サイラスが呟くと、その言葉は闇の中で悲しげに踊り、消えていった。しかし、遠くから足音が聞こえてきた。

「……生きてる……。行ってなかったんだね……」

甘く、悲しみに満ちた囁きが聞こえた。目の前に、小さな「跳ねっ返り(サルタリーナ)」のシルエットが現れた。彼女の二つの瞳は傷ついていたが、その表情に悲哀や憐れみはなかった。

「……ここにいていいよ。……怖いんだ……一人にしないで。……もう、誰も守ってくれないの!」

少女はサイラスを見て少しだけ喜んだようだったが、この短期間に起きたすべてのことが彼女の心を蝕んでいた。

「……ガキ……いや、サルタリーナ。会えて良かったよ。……ショーはもうないんだ、分かってるだろ?」

サイラスは自分を刺した彼女を殴り倒したい衝動に駆られたが、少女の姿に哀れみを感じ、精一杯の共感を示そうとした。

「……おいで、おいで……。マリポサがひどい怪我をしてるんだ……。お別れを言いたいんだと思う、たぶん」

少女はサイラスを誘うようにジェスチャーをした。

「……つまり、ついてこいってことか。……どこへ行くんだ、小さな影法師よ」

若者は妙な苦みを感じていた。誰のこともどうでもいいはずなのに、胸のつかえが取れない。少女に導かれた先に現れたのは、「衣装部屋」の成れの果てだった。

すべてが瓦礫と化していた。ボロを纏う者たちの襲撃により破壊し尽くされていたが、一方でラテックスの男たちの残骸も散らばっていた。彼らは中央で何かを、あるいは誰かを取り囲んでいた。

少女が蝶を探している間、サイラスはサーカスの団員たちを見た。彼らは敗北したが、立派に戦ったのだ。サイラスは倒れた者たちには興味がなかった。中央には「主催者アンフィトリオン」が立っていたからだ。

ラテックスの男たちに囲まれた彼は打ちのめされていたが、彼の怪力によってラテックスの男たちの無残な姿の方が際立っていた。

「……貴様……ミミズ……見世物め……。なぜ死んでいない?」

彼は苦悶の表情を浮かべ、かろうじて聞き取れる声で絞り出した。

「……交渉は決裂したようだな。ヘルナンデス家に逆らおうとすれば、こうなるのは目に見えていたはずだ」

サイラスは、膝をついて項垂れる主催者の周囲を歩きながら言った。

「……我々は……決して……一族を……裏切ってなど……」

彼は必死に答えようとしたが、サイラスの方が速かった。サイラスは、調教師ドマドールの時と同じように、彼の肩甲骨の間に深く突き刺さっている「何か」を見つめた。

「……テオドロは、欠陥のあるトゥルガルを過信して無様に失敗した。ダイアナの言う通りだったな。……それでお前は、なぜそんなものを突き立てられてるんだ?」

主催者は怒りに顎を震わせ、動こうとしたが、体がそれを拒絶した。

「……お前という投資が成功することに賭けていた連中が、負けたからといって黙って引き下がると思っていたのか?」

サイラスは彼の背中に足をかけ、突き刺さった物体を揺さぶった。主催者の口から鋭い悲鳴が漏れる。

「……違う……。奴らと組んでいたわけじゃない。……奴らは裏切ったんだ。……私を裏切ったんだ」

その声は惨めで、罪悪感と挫折に満ちていた。サイラスは固着した物体を引き抜こうとした。

「……無駄だ……。私は死ねない……。この階層で、永遠にこのままだ……。放っておけ!」

主催者の嘆きを聞き、サイラスは高笑いした。

「……そうか。じゃあ、もっと『消化しやすい』形にしてやろう。……ショーは続けなきゃならないからな!」

サイラスが嘲笑うと、仮面の笑い声が重なった。

サイラスの手から溢れ出した液体が、突き刺さった物体に滴り落ちた。凄まじい火花と、煙に混じった死の異臭が立ち上る。

「……何をする!? やめろ! 止せ、このミミズめ! 止めるんだ!」

主催者は、背後で何が起きているか見ることができなかった。ただ、酸性の液体が触れた場所から、自らの肉体が食い荒らされていく感覚に絶叫した。

少女は隠れたままだった。サイラスが主催者を助けているのか、それとも罰しているのか、彼女には分からなかった。ただ、凄惨なステージで繰り広げられる二人の混沌とした音だけを聞いていた。

少女は背を向け、座り心地の良さそうな場所を作るために瓦礫をどかした。そしてポケットを探り、カビの生えたパンを取り出した。

「……おいしい……」

彼女は独り言を言いながら、サーカスでよく流れていた歌を口ずさんだ。主催者の最期を、無関心に眺めながら。

彼女の頭にあるのは、カビの生えたパンに「糖蜜」でもかかっていれば良かったのに、という、ただそれだけのことだった。

テオドロとの対峙、そして主催者の無惨な最期。

サイラスの「酸」が、かつての権威を文字通り溶かしていく描写が印象的です。

「ダイアナ」という名前が引き起こした波紋、そして「現場監督カパタス」の影。

物語は、かつてのサーカスの崩壊から、新たな支配構造の誕生へと移行しています。

少女サルタリーナの空虚な振る舞いが、この地獄の日常化を象徴しているかのようです。

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