21.テキスト
「嫌だ、これどういう事?」
休みの日、遅い朝食を食べていたら、向こうで新聞を読んでいた母が妙な声を上げた。何かあったのかと尋ねてみれば、奇妙な話をする。
先週位の新聞にね、大学の教授が書いた本の紹介が載っていたんだけど、面白そうだと思ったからスマホの写真に撮っておいたのね。本屋行ったときに忘れてたりすると嫌だから、メモ代わりにと思ってね。
それから二三日してその写真なんとなく見てたら、ほら、今写真から文字を取り出せるじゃない、わかる?
そうそう、その画像からテキストをコピーってやつ。
なんとなくやってみたの。どうなんのかなって、別に深い意味はなかったんだけど。
そうしたら、おかしな文字が出てきてね。
うん、たまに間違うのはわかるのよ。めとぬとか、捨てると拾うが混ざってるとか、そういうのはさすがのスマホも完璧じゃないんだなあ、で納得できるんだけど、そうじゃなくて。
……なんか文章の後ろの方に行くにしたがって、全然関係ない単語がいっぱい出てきて、しかもそれが妙にネガティブなのよ!
つらいとか、ふざけるなとか……最終的には、絶対許さない、なんてのもあって。そこまで言うなんて何があったのかと思うじゃない。
怖いよね。気持ち悪いから全部消しちゃったんだけど。見たかった?
……それで、それが3日くらい前のことで、今日の新聞、見てこれ。
そう言って母が指さした記事の見出しにはこうあった。
『大学教授 准教授への暴行で逮捕
パワハラ常態化 半年前の院生の自殺にも関与か』
「……この大学教授って……」
「そう、その本書いた人よ」
そんなことする人だとは思わなかったんだけどなあ、と母は無責任に言う。知り合いでも何でもないだろうに。
「怖いわよね、白い巨塔ってやつ?」
そう言うと母はまた新聞に目を落とした。
それを言うなら象牙の塔ではないかと思ったが、母の方はもうそんな事は忘れたかのように別の記事に見入っている。
自分もこの記事で同じことを試してみようか、などとふと考える。しかし、出てきた文章がネガティブだったとしてももちろん嫌だし、快哉をさけぶような内容でもやはり恐ろしい。そう思うと、試す事はちょっと出来そうになかった。




