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「マル、見事な部屋になりましたね。さすが、ハムスター」


 昼前の暖かな日差しを受けた部屋の中、エイデンがマルの頰に手を添えながら、うっとりと新緑色の目を細める。


「うん。ハムスターは、巣作りが大好きだからね」


 マルたちは、朝から旧家畜小屋に来て働いていた。

 新しく「花嫁の間」と呼ばれるようになったこの場所の家を綺麗にしているのだ。

 家の建て替えは、エルフたちが率先して行ってくれている。

 綺麗な内装の準備をするのは、獣人や人間たちだ。


 マルも割り当てられた部屋を綺麗に掃除し、予算内で選んだ家具を設置した。

 ここへ来た花嫁の女性が、少しでも心穏やかに過ごせるようにと祈りながら。

 そんなに豪華ではないが、暖かい雰囲気の部屋に仕上がったと思う。


「さて、花嫁の間の整備も完了しましたし、病院へ戻りましょうか」

「うん。お昼は、サラミに教えてもらった卵料理を作るよ」

「マルの手料理ですか、嬉しいです。では、僕はサラダとスープでも作りましょうか」


 エイデンとの何気ない会話が嬉しい。

 マルは、彼と手を繋ぎながら家路を急いだ。


 あの後、白鳥獣人のメイドは、エルフたちに捕獲されて一時的に「暴れた者を収容する施設」へ入れられた。以前カフェで暴れた羊獣人も、そこへ入れられているらしい。

 白鳥獣人のメイドは看守をしていたエルフと仲良くなり、一緒に彼の生まれ故郷へ帰ったのだとか。


 しかし、カフェで暴れていた獣人はあのままで、エルフの国にもまだまだ課題は多い。

 今回獣人の国に出した要求で、彼女のようになる者が少しでも減ってくれれば良いと思う。


 花嫁の間から戻り、家に着くと同時に、エイデンがマルを強く抱きしめ、キスの雨を降らせて来た。

 近頃、彼の行動がだんだんと大胆になっている。


「ちょ、エイデン、お、お昼、作らなきゃ……!」

「もう少し後でも大丈夫でしょう?」


 そう言って、マルの頭の上に出ている耳をモフモフする。


「ひゃあっ!」

「ああ、可愛いですね。こんなに可愛らしい獣人と結婚できるなんて、僕は本当に幸せ者です」

「エイデン……!」

「そんな涙目で見ても逆効果ですよ。却ってゾクゾクしてしまいます」

「……!?」


 笑顔のエイデンに捕獲されたマルは、そのまま寝室へ運ばれて行った。

 エルフは愛情深い種族で、獣人や人間とは違い、途中で妻を変えることは考えられないという。


(エイデンと一緒にいれば、何があっても大丈夫。二人できっと乗り越えていける)


 今のマルに迷いはなかった。



 マルとエイデンの結婚から二年が経過した。今年も、獣人の国から花嫁たちがやってくる。

 新しい花嫁の間は、彼女たちに好評だったようだ。

 だからといって、獣人女性がエルフを警戒していることに変わりはないが。


 花嫁の間には十分な食事が送られ、綺麗な家もついている。

 以前とは異なり、エルフの国へ嫁いだ獣人たちが、花嫁の間に入れられた女性たちの元を訪れて相談に乗ることもある。

 彼女たちは、優しいエルフたちのことを花嫁に説いて回った。ある意味、洗脳かもしれない……

 その努力が実を結んだのか、獣人の国の女性が進んで花嫁の間に来る事例もあったという。

 マルたちの年のような混乱は見られなかった。


 病院の庭では、たくさんのひまわりが空に向かって伸び始めている。

 ひまわりの種が好物だというマルのために、エイデンが用意したものだ。

 マルは野菜も好きだが、一番の好物はひまわりの種なのである。

 ハムスター姿のマルをモフモフしながら、ひまわりの種を与える至福の時間を、エイデンは今から楽しみにしていた。


 薬部屋は、すっかりマルの管理下に置かれている。

 あれから毎日猛勉強したマルは、立派な薬剤師として働いていた。エイデンも、嬉しそうだ。

 そんなマルのお腹には、新しい命が宿っている。多産なハムスターだけあって、マルは早くも子供を授かっていた。


「マル、そろそろ薬部屋の仕事を休んだらどうですか? お腹も大きくなってきたでしょう?」

「もう少しだけ、やらせて」

「……高い場所のものを取るときと、重いものを持つときは僕に言うんですよ。あと、妊婦に悪い薬もありますので気をつけてください」

「わかっているよー」


 夢のように穏やかな生活に、マルは毎日幸せを噛み締めている。


「エイデン、ありがとう」


 日に日にエイデンのことが大好きになっていく。何度好きと伝えても足りないくらいだ。

 過保護で心配性の夫を見つめたハムスター獣人は、小さく背伸びして彼の頰にそっと親愛のキスを落としたのだった。

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