表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

第6話 奇種

 二回気を失ったせいか、本来なら夜ぐらいの時間のはずの外はとても明るかった。

 昼前ぐらいの感じだろうか。洞窟の外には草原が広がっていた。

 風が野原を揺らしている光景を見ていると、なんだか心が和む。

 俺は茜とラーニャに北へ進むことを伝えて、一緒に歩き出す。


「えーっと、俺の憶測で方向を選んじゃったけど、君は北から来たのかな?」

 洞窟を出てすぐに、俺はラーニャに聞いた。

 ラーニャは一瞥だけこちらへ寄越して、目線を前へと戻す。

「知らない」

「さいですか」

 まあ、読めていた答えだ。


「……というか、なんでここまで来ちゃったの?」

「山で、でかい鳥にばーって捕まえられて、火を噴いたら落とされた」

「火ぃ吹けるのか……」

 流石、混種(多分)とはいえドラゴンだ。コミュニケーションには気をつけようと心で誓う。


 というか俺、弱すぎないか? 一応勇者候補なんだけど。

 基本スペックが足の速さと体力だけって……あ、一応もうひとつあるか。大したもんでもないけど。


 何の話だったか……そう、でかい鳥だ。

 でかい鳥となると、やはりサシーダだろうか。

 渡り鳥型のモンスターのことだと思う。

 この時期になると、大きな鳥のモンスターが東から西に空を駆けていくのだ。

 その姿は、さながらドラゴンが飛んでいるようである。

 あのモンスターならば、ラーニャの体を持ち上げるのも不可能ではないだろう。


 となると、俺達の目的地はやはりフィグラ霊山となる。というか、今もそこへ向かっている。洞窟からは真北にあるのだ。

 

 正直、フィグラ霊山へ行くことに、気は向かない。霊山の方へ向かった冒険者は、みんな帰ってこなかったという噂すら存在する山である。

 いくらドラゴン(らしきもの)を引き連れているといっても、未知数すぎる場所だった。


 けれど、流石にラーニャを放っておくのはマズいような気がしたのだ。

 あの火山洞窟には、俺と同じように旅をする人が普通に通る。

 もしも冒険者がラーニャと出会ったならば――その冒険者がラーニャに殺される可能性だって存在するのだ。

 まあ、ラーニャがどれくらい強いかは、俺は知らないけれど。


「でも、あっさりと霊山へ行くのを茜が許してくれたのは意外だったかも」

 なんだかんだと理由を付けて、反対するような気がしたのだ。杞憂だった。


「だって、他にやることないし……あんまり反対して常葉くん困らせたくないし」

 まあ、納得はいってないらしいが。

 それにしても、茜は俺と一緒に居ることを、もはや当然だと認識しているのか。それは困る。

 一緒に居るだけで、身動きの取り難さが半端ない。


「それに、わたしもこっちに寄りたいところあったし。あ、あと、この娘の尻尾、なんかわたしの尻尾に似てない?」

 茜はそう言って、ラーニャの頭に手を置く。ちょうど乗せ易い位置にあったらしい。

 ラーニャは怒ったのか、その赤眼を剥くが、茜には一切見えていないらしい。華麗にスルーしていた。


「は、はぁ」

 ま、まあ、色は違うが、うろこ状なところとか、似ている気がしないでもないが。

「だから……その、まるで、子供が出来たみたいっていうか」

「蛇女。何を言ってるの」


 流石ラーニャ嬢。怖いものなしだった。

 まさか茜を蛇女呼ばわりするとは。感服します。


「いや、あくまでみたいって話だから! わたしと常葉くんとは、そういうのまだ早いって言うか」

 いや、両人差し指をこつんこつんさせて上目遣いされても、俺はその姿にどきっとすることしかできないから。

 というか、あくまで対象は俺なんだな。

「童顔もデレデレしない」

 童顔じゃねえし。


「それにしても、なんというか。平和すぎるというか……」

 二人のモンスターの少女と出会って、交わすやり取りにしては、いささか間抜けだ。


 俺がそう呟やいていたときに、彼女達の目の色が突然変わった。

 良くも悪くも緩んでいた茜とラーニャの双眸は、にらみつけるように進行方向の北へと向けられていた。

 この草原は折りたたんで開かれたように坂の層が出来ていて、上り坂の向こうは見ることが出来ない。


「なんだ?」

 俺は少し、トーンを落とした声で聞く。大きな声で尋ねることは出来なかった。

「――来る。常葉くんは下がってて」

 右側を歩いていた茜が、俺を制するように左手を上げた。

 しかし、そう言われても。敵がやって来るならば、俺もなんとか戦わなければならない。

 俺は前方の様子を伺いながら、右手で剣の柄を握った。


 ――何が来るんだ?

 俺には、何の気配も感じ取ることが出来ない。彼女達が気付いたのは、野生の勘からなのだろうか。……それとも。


 やがて、姿を現した。

 ――そいつは、簡単に言えばウルフだった。草原によくいる、フェンウェイウルフというモンスター。

 そのはずなのに。そいつは何かが違った。そう、オーラだ。

 そいつの体は、黒いオーラのようなものが発していた。


「なんだよ、こいつ。なんなんだよ」

 さっきから、変なことばかりじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ