第5話 ドラゴニュートのお姫様
再び目を覚ました俺は、茜と一緒に歩いていた。が、
「ちょっと、引っ付きすぎじゃない?」
俺は彼女に指摘する。
茜はくっついて、俺と腕を組んでいた。俺が右腕を引っ張られて、強引に彼女の左腕に組まされているという形だ。
「ん? そんなことないよー」
と、言いつつ、機嫌良さげに鼻唄なんか鳴らしている。
いや、別に文句があるわけじゃないのだが……近いと、ほら、色々当たるじゃん?
というか当たっている。胸が。俺の肘にダイレクトに感触が伝わっていることを、茜は気付いているのだろうか。
彼女は、前世では俺にここまでの行動をするタイプではなかった……思う。
その蛇の姿になったことによって、人格まで変わってしまったのかもしれないし、他に理由があるのかもしれない。
なんにせよ、その辺りは彼女に聞いてみないとわからないことだった。
少しだけ、彼女の今までについて探りを入れてみることにする。
「ところでさ」
「んん?」
「前世……いや、この世界に来る前のことってどれぐらい覚えてる?」
「んー、基本的には覚えてるよ。忘れないように、何回も思い出してたから。それこそ、毎日」
「そうなんだ」
「常葉くんもそうでしょ? わたしのこと、毎日思い出してくれてたでしょ?」
「あはは、そうだね」
だと、よかったんだけど。
「えっと……こっちで生まれたときから、その姿だったの?」
「うん。あ、といっても、小さい頃は今と違ってもっと小さかったの。それこそ、今の尻尾の三分の一の長さもなかったかな」
「へえ。それはそれで、ちょっと見てみたいかも」
「昔のわたしの姿を見たら、常葉くんも襲いたくなるんじゃないかな?」
俺にそういう趣味はないから。ペドじゃないです。あと、ロリコンでもない。
「こっちの世界の名前とかってあるの? あ、一応俺はルークリッドって名前なんだけど」
「……別に、どうでもいいじゃない? そういう話は、好きじゃない」
若干、語気が荒くなった気がする。あんまりにもしつこかったので、不信感を覚えられたのかもしれない。この世界での話はしたくないようだった。
「わたしは茜で、常葉くんは常葉くん。それでいいじゃない」
良くない。俺はあくまでルークリッドだと、そう反論したかった。
けれど、前方で見つけたものに目を奪われて、その気分は霧散した。
ランプの明かりが照らしたのは、女の子だった。でも、ただの女の子ではない。
頭には――深緑色の角がついている。彼女の背からは少し太い緑色の尻尾が伸びていた。
なんだか、ドラゴンみたいだ。
そんな小さな女の子が、ちょこんと洞窟の壁に背中を預けて目を瞑っていた。寝ているのだろう。
彼女の長い水色の髪は、地面に付いている。
服は薄い青色のワンピースのようなものを着ている。
とても綺麗なワンピースで、なんだか彼女はお姫様のようだった。
俺は茜の腕から手をスッと抜いて、その娘の方へと歩き出す。
なんだか迷子の小さな子を見ている気分で放っておけなかった。
いくら火山といえど、ここはドラゴンが住むような場所ではないはずだ。蛇ならばまだしも。
俺は彼女の前に止まって、膝に手をついた。
「ねえ」
茜に会う前だったなら、その娘の姿を見た瞬間に腰が抜けていただろう。人の慣れというのは早いものだ。
俺の言葉を聞いて、その娘はゆっくり目を開ける。すぐに起きた辺り、彼女は耳がいいのかもしれない。
目をこすって、あくびをひとつ漏らす。そのあと背伸びをしていた。童女の振る舞いそのままだった。
「なに?」
「えっと、君、大丈夫? こんなところで寝てるけど」
「大丈夫なやつがこんなところで寝ると思うの?」
「つまり、困ってると」
「そういうこと」
じっと、こちらの目を見つめてくる。その瞳から、困っているという色は一切見えない。
「それで、君はどうするつもりなの?」
「あんた達に家に帰してもらう」
彼女が突き出した右手人差し指は間違いなく俺のほうを向いていて、誤りようがない。
すごく、身勝手なお姫様である。
「そっか……」
一応、ドラゴンが住むという場所に心当たりがないわけでもない。
まあ、そこがこの娘の家とは限らないんだけど。
でも、さあ。なんだか、本筋から外れてないか? 俺は勇者になるために旅に出たはずなんだけどな。
どちらにせよ、茜を連れたまま普通の街へと行くことは不可能だ。
そして俺には、彼女の同行を拒否する手段が思い浮かばなかった。
俺が彼女から逃げるというのは困難だが、彼女が逃げようとした俺を絞め殺すのは容易だ。
「わかった。とりあえず、俺が君を霊山まで連れて行くよ」
フィグラ霊山。この辺りで、ドラゴンが出るという噂の場所はそこしかない。
この娘を放っておくという選択肢は、正直言って選ぶことが出来なかった。
「俺はルークリッド。ルーって読んでくれ」
「ん。あたしはラーニャ。よろしく、童顔」
「うん。よろし――童顔ってなんだよ」
「名前覚えるのめんどい。童顔でいい」
童女に言われると、とても複雑な心境であるし、まず俺は童顔ではない。
「ちょ、酷くないかな? 茜も、そう思うでしょ?」
同意を求めるように、俺は振り向いて茜に話を振った。
先程までずっと静かだった彼女。
その目は蛇そのままに鋭かった。
そして彼女は俺に言い放つ。
「このロリコン」
ロリコンじゃねーし。




