第1話 あくまでそれは記憶の話。
死は数秒の出来事だった。
俺は幼馴染と一緒に居た。空には一面の雲が広がっている、薄暗い午後四時だ。
俺と彼女は1メートルくらいの距離を保ちつつ、岐路の道端を歩いていた。
特筆することといえば、その日は珍しく昼頃に雪が降っていて、極度に寒かったくらい。
ただ、それだけのはずだった。
俺と彼女がちょうど横断歩道を渡っているときだった。
もちろん信号は青。何も車が来るような要素はなかったはずだ。
なのに、そこには来ていた。車。背の高いのトラックだ。近くの都市のナンバー。突然の状況に、その刹那の俺は目に映る情報を判断するばかりだった。
俺よりトラックに近い場所に彼女がいた。
守らなきゃダメだ。そう思って、彼女の方へ駆ける。
トラックは近づいてきている。俺は彼女をトラックの来る場所の外へと突き飛ばした。――いや、突き飛ばそうとした。
俺はそこで強い衝撃を受けて、弾かれるように飛ばされた。
気が付いたときには、地面に体が引っ付いていた。脳は殴打を繰り返された後のように痛い。けれど、気を失うわけにはいかない。彼女が生きていることを確かめるまでは。
視界の隅で、道路の端に倒れている彼女を見つけた。
――間に合わなかった。
彼女の黒い髪は血に染まり、その血は道に流れ出す。
くそ。俺は大事な人すら守れないのか。
心の悲痛に、俺は地面を殴りたい気持ちだった。
だが、拳を作ることすらできない。腕を振り上げることすらできない。体は心に背き、ぴたりとも動かなかった。
俺はそこで、意識を失う。最期の瞬間は悲しみに満ちていた。
◇◆◇◆
俺は、古い記憶を手繰り寄せるのをやめた。
前世の記憶が残っているというのは、割と珍しいことなのだと思う。
そしてその記憶は、間違いなく俺の性格にも影響を及ぼしている。