738 遠 征 3
「やめんかっっ!!」
「冗談でも、言っていいことと悪いことがあるだろうがっ!」
「他の新人ハンターの皆さんに悪影響を及ぼすようなご発言は、お控えくださいますよう……」
他の先輩ハンターやギルド職員達から、非難殺到であった。
「……え? いや、私達は別に、冗談を言ったりは……」
慌ててそう弁明するメーヴィスであるが……。
「冗談じゃないなら、なお悪いわっ!!」
言われ放題である。
まあ、仕方あるまい。
この大陸では、『赤き誓い』と『ワンダースリー』はただの『下駄を履かせて無理矢理Cランクにしただけの、実力は駆け出しハンターに毛が生えた程度の新米』に過ぎないのだから……。
「貴重な魔術師や女性ハンターがこの町の依頼を受けて大量に死んだなんて噂が広まっちゃ、大迷惑なんだよ!」
そんな言い方をしているが、本当はただ『若者を無駄に死なせたくない』という先輩ハンターとしての心遣いなのであろう。
しかし、今のマイル達にとってはありがた迷惑、余計なお世話であった。
なので、レーナが吠えた。
「ハンターの受注は、自己責任よ! 報酬もリスクも自分で選び、自分で責任を取る。
……この町じゃあ、違うの? 誰か別の者が責任取ってくれるって言うの?
私達の受注に口出しするってことは、あんた達が代わりに受けて、報酬は私達に渡してくれるってことなの?」
「「「「「「…………」」」」」」
レーナの指摘に、反論できず黙り込むハンター達。
更にそこへ、メーヴィスが追撃を……。
「私達『赤き誓い』と『ワンダースリー』は、どちらもCランクパーティです。
オーガの数頭くらい、問題なく狩ることができますよ。
……皆さんと同じように……」
「「「「「「…………」」」」」」
その言葉に対する返事はなかった。
メーヴィスは忘れているようであるが、このあたりの魔物は、皆の出身地である東の旧大陸のものよりかなり強い。
なので、旧大陸であればCランク上位のパーティでオーガ数頭を倒すことはそう難しくはないが、ここではそうはいかない。
それに、『Cランク上位』と言えるのは、たくさんいるCランクハンターのうちの、一部だけである。
少なくとも、経験の浅い小娘達のパーティが名乗れるようなものではないし、この場にいる地元パーティの中でも、自他共にそう認められているパーティは、そう多くはなかった。
「……受注申請、受け付けていただけますよね?」
この流れだと、受付の時にまた揉めそうである。
そう察したメーヴィスが、受付嬢に拒否されないようにと、一番気弱そうな者が座っている窓口に向かってにっこりと微笑んだ。
「うっ……」
そして、威圧ではなく、別の何かにやられたらしき受付嬢が、反射的に頷いてしまった。
……そう、頷いてしまったのであった……。
「「「「「「ああっ!」」」」」」
「ばっ、馬鹿! 何やってんのよ、アンタ!!」
お上品な口調も忘れ、つい頷いてしまった受付嬢を怒鳴りつける、先輩受付嬢達。
(……あ、マズい……)
このままでは、後であの受付嬢が先輩達に絞られる。
そう思ったメーヴィスが、慌ててフォローした。
「騎士たるこの身、オーガ如きに後れを取ることはありません。
どうぞ、御安心を!」
そして、にっこりビーム、まばたきショット付きを放つ、メーヴィス。
「「「「「「…………」」」」」」
静寂に包まれる、受付窓口周辺。
((あ〜……))
(メーヴィスさん、恐ろしい子!!)
(((…………)))
いつものこと。そう思い、肩を竦めるレーナとポーリン、そしてネタに走るマイル。
『ワンダースリー』の3人は、ただただ、メーヴィスの無自覚の恐ろしさに震えるのであった。
* *
あの後、喧々諤々の騒ぎとなったが、受付窓口ではCランクのパーティが自らの意志で受注するのを拒否できるだけの根拠を示すことができず、また、この依頼がちょっと特殊なものであり、ノルマや違約金が発生しないこと、そして複数のパーティが重複して受注できることから、無理に事前受注しなくとも事後申告で充分であること等もあり、やむなく、嫌々という様子ではあったが、メーヴィス達による受注が受け付けられた。
少しでも危険を感じたらすぐに撤退すること、と何度もしつこく念を押されたが、そもそも新米の小娘達が複数のオーガに近付くということ自体が、既に充分危険なことである。
なので、それは何の意味もない忠告であった。
……とにかく、無事受注できた。
なので、心配そうな顔のギルド職員やハンター達を後に、意気揚々とギルドを後にするクランメンバー達であった……。
昼過ぎにこの町に着いて、最初に来たのが、ハンターギルドである。
なので、まだ宿も取っていないし、暗くなり始めるまでにはあと数時間しかない。
そのため、メーヴィス達が間引きに出掛けるのは明日以降であろうと考えていたギルド職員とハンター達は、また明日、間引きに出掛ける前にギルドに顔を出すであろう新米Cランクパーティの少女達を説得しようと考えていたのかもしれない。
このクランを、『普通の7人パーティ』だとでも思って……。
* *
……そして、夕方。
小さなドアベルの音と共に、再び現れた7人の少女達。
昼過ぎにギルドにたむろしていたハンター達は、毎日朝から夕方まで必死に働くような必要のない、割と余裕のある連中である。
今日は休養日にして一日中ギルドでだらだらして、酒を飲んだり他のハンター達と駄弁って情報収集に努めたり、親睦を深めたり……。
なので、あの時にいたハンター達の多くは、今もまだギルドにいた。
「え? 嬢ちゃん達、なんでまた来たんだ?
……あ、やっぱり思い直して、別の依頼を受けることにしたのか!
いや、ノルマも違約金もないんだ、それがいい。
別に、無謀なことに気付いて取りやめるのは、恥でも何でもないんだ。自分と仲間達の命を護るための正しい判断を下すことが、真の勇気というものだぞ!」
何だか御高説を垂れている先輩ハンターを無視して、受付窓口ではなく、納入窓口へと向かう一行。そして……。
「獲物は直接解体場へ納入しました。これ、代用貨幣です。換金と記録をお願いします」
そう言って、懐から取りだした代用貨幣……解体場が出してくれる、換金用の金属札……を提出する、メーヴィス。
「……お、おう……、って、こっ、これは!!」
納入窓口のオヤジが驚くのも、無理はない。
それは、小娘数人が数時間の狩りで持ち込むには、明らかに異常な額の代用貨幣であった……。




