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737 遠 征 2

「というわけで、クランハウスの管理は駆け出しハンターか見習いの子供達を適宜雇ってくれるようギルドに依頼を出してカギも預け、王都を出て主街道を西進しているわけですが……」

「マイルさん、相変わらずですわね。誰に言っているのか分からない、その説明台詞を口にする癖……」

「「「あ〜……」」」


 このマイルの不思議な習性は昔からなのかと、マルセラの言葉に何だか納得した顔の、レーナ達『赤き誓い』。

 マルセラ達やレーナ達と出会うまでは、前世の家族以外に普通に会話できる相手がいなかったため、海里みさとの時もアデルの時も今のマイルになってからも、独り言が多いのである。

 エクランド学園時代には通い猫のかぎしっぽ相手に話し込むことがあったが、あれも『独り言』のうちであろう……。


「王都から徒歩で数日の圏内では、ちょっと難度が高い依頼は王都支部に廻されますから、町や村に寄っても意味がありませんからね。

 とりあえず一週間くらいは、どこにも寄らずに野営しながら真っ直ぐ進みましょう」

 マイルの言葉に頷く、クランメンバー達。


 ……というか、それくらいのことは、出発前に相談済みである。

 まあ、何度も確認するのは間違いをなくすために有効な手段なので、誰も鬱陶うっとうしがったりはしないのであるが、マイルのこの確認好きは、少々度が過ぎている。

 慎重な性格だと言えばそれまでであるが、地球ならば強迫性障害(O C D)と診断されそうである。

 人の顔を覚えるのが苦手だという、軽度の相貌失認と併せて、客商売にはとことん向いていない、マイルであった……。


     *     *


「もう6日目ですよね。そろそろ、町に寄りましょうか……」

 マイルが、皆にそう提案した。


 王都を出て、既に6日。

 歩き続けるのにも、少々飽きた。

 ……というか、そろそろポーリンが限界のようである。


 マイルは言うまでもないが、レーナはみんなと出会う前に既にハンターをやっていたし、メーヴィスは騎士になるための鍛錬を続けていた。

『ワンダースリー』の3人も、一人前のハンターになるために学園時代から鍛錬を続けていたし、オリアーナは農作業、モニカは荷馬車からの荷下ろし、そしてマルセラは貴族女性の嗜みとして護身術の訓練と、皆、幼い頃からそれなりに身体を鍛えていたのである。

 ……中堅商家のお嬢様であった、ポーリン以外は……。


 なので、『赤き誓い』単体の時と同じく、クランとして動く時も、移動速度はポーリンに合わせることとなる。

 そしてそれが分かっているポーリンが皆に迷惑を掛けたくないからと思い無理をして、そのせいで早く潰れる。


 しかしポーリンは自分からはなかなか『もう限界です!』とは言わないため、他の者が、自分が疲れた振りをして休憩を提案するのであった。

 勿論、それくらいのことはポーリンにも分かっているが、さすがにそれに異を唱えるだけの余裕はないようであった。

 なので、今回もマイルが町に寄ることを提案し、それに反対する者はいなかった。


 別に、野営だと疲れが取れないというわけではない。

 それどころか、マイルがアイテムボックスから取り出すベッドは宿屋のものよりずっとふかふかであり安眠できるし、料理も美味しいし、トイレやお風呂も快適である。

 ……しかし、もう町や村に寄る必要など欠片もない、というわけにもいかない。

 町のギルド支部に寄らなければどんな依頼があるか分からないし、受注もできない。


 それに、町に寄れば、暗くなるまで(・・・・・・)歩き続けなくてもいい(・・・・・・・・・・)

 まだ昼前であろうと、町へ着けば、もうその日は歩かなくていいのである。

 ……まあ、ポーリン以外の者も、疲れていないわけではない。

 6日も歩き続ければ、そろそろ休養日を入れてもいい頃である。

 そういうわけで、出発後最初の逗留地が決まったのであった。


     *     *


 キイ……。


 スイングドアをそっと開け、するりとハンターギルド支部へ入る、クランメンバー達。

 本格的な修行の旅というわけではないので、名乗りや挨拶はしない。

 そんな名乗りをして、もしハンター歴を聞かれて『数カ月です』とか答える羽目になると、騒ぎになるのが分かっているからである。


 普通、そんなハンター歴で修行の旅に出る者はいないし、もしいても、すぐに死ぬ。

 これが男性パーティであれば皆放置するであろうが、魔術師の少女達となれば、ギルド職員もハンター達も、全力で止めに来るに決まっている。

 ……一人前になるまで、この町に居着いて腕を磨きなさい、とか言って……。


 ハンターになろうなどと考える魔術師はそう多くはないし、それが若い女性となると、無駄に死なせるなどというのは勿論、この町から出て行くことも全力で阻止したいと考える者が多いのは、仕方のないことであった。


 7人というのは、大人数である。いくら静かに滑り込んでも、それは目立つ。

 ……そもそも、そっと開閉しても、ドアベルを完全に無音にすることはできず、皆の視線を集めてしまっているので、どうしようもなかった。


 皆の視線を集めながら、受付窓口へ向かうことなく、情報ボードや依頼ボードの方へと向かう、一行。

 まずはこの辺りの状況を確認しないことには、どうしようもない。

 受付嬢に何か聞くとしても、その後の話である。


「う~ん、特に変わったことはなさそうね……」

「そりゃ、王都の近くで大事件や珍しいことが起きていれば、王都支部にも伝わっておりますわよ」

 レーナの言葉に、当たり前でしょう、というような顔で肩を竦めるマルセラ。


「わ、分かってるわよ、それくらいのこと! ただ、軽く感想を呟いただけじゃないの!」

「あ~、ハイハイ……」

 ムキになるレーナを軽くあしらう、メーヴィス。

 ここは、マルセラ自身ではなくメーヴィスがなだめた方が丸く収まる。

 メーヴィスの人徳というか、何というか……。


 そして情報ボードを確認した皆は、次に依頼ボードの前に。

 ボードに貼られた依頼票を確認する7人であるが……。


「面白い依頼はないわね……」

「だから、レーナさん、言い方!!」

 慌ててレーナを注意する、マイル。

 余所者の若造にこんなことを言われれば、地元のハンターやギルド職員にとってはいい気はしないであろう。なので、身内の者がちゃんと指摘し叱らないと、地元の者に不愉快な思いをさせたり、絡まれる原因になったりする可能性がある。


 王都支部であれば、特に問題はない。

 ……王都であれば何を言ってもいい、というわけではない。

 王都支部のギルド職員やハンター達は、既にレーナの言動には慣れている。

 ただ、それだけのことであった……。


 そして、ティルス王国やその周辺国においては、救国の大英雄、……いや、救世主である『赤き誓い』が何を言おうが、腹を立てる者はいない。

 しかし、ここ、新大陸においては、『赤き誓い』も『ワンダースリー』も、ただ収納魔法持ちがいるというだけの理由で無理矢理Cランクにされた新米ハンターに過ぎない。

 ……ギルド職員やハンター達にとっては……。

 だから、言動には注意を払い、職員や先輩ハンター達に嫌われないようにしなければならないのである。


「……悪かったわよ……」

 他のハンター達に対してではなく、仲間達に対して小さく呟いただけであるが、先程のレーナの言葉もそれ程大きな声ではなかったため、あの言葉が聞こえた範囲の者達には充分届いたようである。

 それに、新人が調子に乗って大言を吐くのはよくあることなので、皆、それくらいで気を悪くするようなこともない。

 ここにいるハンター達も皆、若い時には調子に乗った言葉を吐いて粋がっていたものである。

 なので、昔を思い出して、少し恥ずかしそうに視線を逸らすくらいであった。


 そして、話を変えるべく、マイルが貼り出された依頼票のひとつを指差した。

「これなんか、どうですか?」

「え? どれどれ……」

 そして、マイルが指し示した依頼票に顔を近付ける、メーヴィス。


「ええと……、オーガの間引き、報酬額は討伐数に応じた出来高制で、素材は別途、相場価格にて買い取り、と……。常時依頼に近い条件みたいだね。ノルマや違約金もないし。

 一応、事前の受注手続きは必要、と……。

 うん、いい感じだね」

 普通であれば、いくらオーガを倒せても、そんなにたくさんの素材を持ち帰ることはできない。

 しかし、『赤き誓い』と『ワンダースリー』であれば……。

 そう、とても良い稼ぎとなる。


「じゃあ、みんな、これでいいかな?」

「「「「「賛成!」」」」」


「「「「「「やめろおおおぉ〜〜!!」」」」」」

 受付カウンターの向こう側と、手前側。

 つまり、ギルド職員とハンター達の両方から、一斉に大きな叫び声が上がった。

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― 新着の感想 ―
「ひとりごと」 それは意識を固めるための大切な儀式。不要な人が多いけど、そうでもない人は一部いる。 指さして笑ってはいけない。怪訝な顔をしてもいけない。
お久しぶりです。 ところでどっちの大陸に居るんでしょうか? Sランクと言うなら元の大陸で他国も廻っているし、王都と港付近しかよく知らないなら新大陸でCランクの筈だけれど。
>やめろおおおぉ〜〜!! 全くやな、その辺りのオーガが異世界から供給されるか 群れが大きくなり過ぎてはぐれたのが来ない限り 絶滅一直線やないか(明後日の方を見ながら
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