736 遠 征 1
無事、ハンター資格維持のための受注を済ませて新大陸へ戻ってきた、『ワンダースリー』。
マイル達『赤き誓い』はSランクであるため、そういう義務はとても緩い。
普通はSランクになると小さな依頼など受けないし、貴族になったりもするため、もはや名誉称号とか永久称号とかに近いのである。
大きな犯罪とか、とんでもないことをやって資格を剥奪でもされない限り、その地位は安泰なのであった。
「……王都での立場も安定して、一段落ついたわね。
面白い依頼は滅多にないし、そろそろ飽きてきたわ……」
「「「「「「…………」」」」」」
レーナの呟きに、無言の6人。
呆れているわけではない。
……同感。
皆、想いは同じであった。
オークやオーガを狩ったり、稀少な薬草を探して危険な森の奥深くへと分け入ったり……。
マンネリ。ワンパターン。退屈。……飽きた。
お金は稼げる。
しかし、贅沢をするわけではない『赤き誓い』と『ワンダースリー』は、ある程度稼げれば、それ以上『お金のために、我慢して働く』という必要がない。
他のCランク以下のハンター達が聞けば、助走を付けて殴りかかってくるくらいの『ふざけんな!!』状態である。
「……行きますか?」
「行こうか?」
「「「「行っちゃいましょう!!」」」」
……行く。
特定の目的地へ、というわけではない。
退屈したハンターが『行く』と言えば……。
そう、アレである。
「「「「「「「修行の旅!!」」」」」」」
* *
「クランハウスはどうするのよ?」
「ハンターギルドで、人を雇いましょう。
週に1回、掃除と空気の入れ換えをお願いすればいいでしょう。
大事なものや良い値で売れそうなものは全部私のアイテムボックスに入れておきますから、盗まれたり売り飛ばされたりする心配はないし、Fランクの新人や見習いの子供達にとっては、食べていくための貴重な収入源になるから、喜ばれますよ。絶対安全な仕事だし……」
「うん、新人や見習いでも受注できる安全な仕事で、週に1回の、確実な収入。受注希望者には困らないだろうね」
「……というか、報酬額によっては、奪い合いですわよ……」
マイルの言葉に同意する、メーヴィスとマルセラ。
こういった依頼で報酬額をケチるようなメンバーではないことは、皆が自覚している。
それに、良いパーティ、稼げるパーティと縁ができるということは、新人や見習いにとっては大きな財産である。
将来パーティに入れてもらえる可能性は決してゼロではないし、そうでなくとも、有力パーティと知り合いであるという事実は、新米にとって大きな武器となる。
「修行の旅とはいっても、今回は何カ月もかけて他国を廻るのではなく、ある程度国内を廻っては戻る、という短期間のものを繰り返すということでどうでしょうか?
私達、王都に関しては慣れて飽きてきちゃいましたけど、王都以外はあの港町と漁村くらいしか知りませんからね。
この国のことも碌に知らないのに、他国へ行くのは時期尚早ですよね?」
「そうね。
せっかく快適なクランハウスを用意したのに、長期間留守にするのも勿体ないわよね。
……みんな、それでいい?」
「「「「「「異議なし!!」」」」」」
いつの間にかクランリーダーのような立場になっているレーナの締めに、皆が同意した。
パーティ個別の纏め役は、それぞれレーナとマルセラが。
クラン全体の統率は、レーナが。
……そして対外的な折衝は、メーヴィスが担当する。
最年長であり誠実なメーヴィスは、ギルド職員や他のハンター達、そして依頼人との折衝に最適……というか、他に適任者がいない。
そして、『赤き誓い』のリーダーがメーヴィスであるということは、皆に忘れられつつあった。
メーヴィス本人にさえ……。
* *
「……え? 旅に出られる……と……?」
長期不在となる時は、ギルドに届けを出す。
作戦行動中行方不明だと思われてハンター登録を抹消されては堪らないので、当然のことである。
なので、みんな揃ってハンターギルドへと出向いたのであるが……。
「まだ、修行の旅に出られるのは早すぎるのでは……」
『ワンダースリー』も『赤き誓い』も、経験が浅いのに収納魔法持ちがいるというだけでCランクになった。
そう思っている受付嬢が止めようとするのは、無理もない。
「……いえ、『修行の旅』という程のものでは……。
王都にも少し慣れたので、次はこの国全体に慣れようかと思い、あちこちに足を伸ばそうと考えただけですよ。
ですから、何カ月もずっと旅を、というわけではなく、王都を中心としての遠出を繰り返す、というような感じで……。
なので、ここにもちょくちょく顔を出しますよ」
「……あ、そういうことですか……」
さすが、渉外担当のメーヴィスである。
真面目で誠実そうなメーヴィスがきちんと説明してにっこりと微笑むと、大抵は話が通る。
これがレーナだと感情的に怒鳴りつけるし、マイルだと子供扱いされて信用してもらえない。
そしてモニカは受付嬢を説得しきれないであろう。
ポーリンとオリアーナであれば相手を言い負かすことができるであろうが、今後もずっとお世話になる受付嬢との間に、角を立てたくはない。
……つまり、やはり対外的な折衝役はメーヴィス一択、ということであった。
話を聞いていた他の職員やハンター達も、どうやらただの長期遠征を繰り返すだけであり、修行の旅とか拠点の移動とかではないらしいと考え、特に反応することはなかった。
若い時のそういった衝動には、皆、覚えがある。なので、それを止める資格のある者など、ここにはひとりもいなかったのである。
「……よし、それじゃあ、この国の面白そうな依頼を求めて、冒険の旅に出発よ!」
「「「「「「お〜〜っ!!」」」」」」
若い連中には、よくあること。
そして、この国からは出ないなら、大したことはない。
いや、勿論国内でも危険な依頼はあるし、依頼以外でも、若い女性だけの旅には様々な危険がある。
……しかし、そういう危険を恐れて町から出ないのであれば、ハンターになった意味がない。
安全第一なら、商店の店員にでもなればいいのである。
なので、ハンター達は皆、温かい目で『赤き誓い』と『ワンダースリー』を見送るのであった。




