#01発芽前夜
【あらすじ】
人には、誰にも訪れるかもしれない「目覚め」の瞬間がある。
首の後ろに現れる、小さな種。
それは成長の証なのか。
それとも、自分自身を変えてしまうものなのか。
十代のある夜、少女は自分の中に眠る種と向き合うことになる。
失うことで守れるもの。
変わることで得られるもの。
「自分でいる」とは、一体どういうことなのか。
これは、種と共に生きる世界で、自分自身を探していく物語。
第一章
首の後ろが、むずがゆかった。
ほんの小さな違和感。
気のせいかもしれない。
でも、私は知っていた。
この年齢になると、誰もが一度は考えることだった。
「……もうすぐ、私にも来るのかな。」
思わず、独り言がこぼれた。
年頃になると、種は目を覚ます。
それは決まって、満月の夜。
赤い光が、首の後ろで静かに灯り始める。
早い子は十代前半。
多くは十五歳から十八歳。
でも、誰にも分からない。
半年後かもしれない。
一年後かもしれない。
もしかしたら、私には来ないのかもしれない。
二十歳を過ぎても発芽しなかった人は、生涯そのままだと言われている。
それを幸運と呼ぶ人もいる。
何も起こらないことを、普通と呼ぶ人もいる。
でも、本当にそうなのだろうか。
大人たちは言う。
「発芽する前に手術を受けなさい。」
「あなたがあなたでいるために。」
不思議な言葉だった。
わたしでいるために。
種を取り除く。
その代わりに、大切な記憶を失うかもしれない。
自分を作ってきた小さな思い出。
好きだったもの。
誰かと交わした約束。
忘れたくない時間。
それらを失ってまで、私は私と言えるのだろうか。
でも、発芽すれば。
今度は別の意味で、自分ではいられなくなる。
だからみんな選ぶ。
失うものを。
大人になるということは、何かを諦めることなのかもしれない。
そう考えると、種はただの現象ではなかった。
大人になるための変化として、誰もが一度向き合わなければならないものだった。
窓の外には、まだ蒼い月が浮かんでいた。
静かな夜だった。
でも、もうすぐ紅い月が訪れる。
その夜、眠っていた種が目を覚ます。
この時の私はまだ、自分のままだった。
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限りある人生の時間の中で、この作品に時間を使って読んでくださったこと。
本当にありがとうございます。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
誰の中にも、まだ眠っているものがあるのかもしれません。
それは、いつ目を覚ますのか。
何を変えるものなのか。
本人にも、誰にも分からない。
ただ一つ言えることは、目覚めた瞬間から、今までと同じ日常ではいられなくなるということ。
少女はまだ、自分の中にあるものの意味を知らない。
赤い光の先に待っているもの。
そして、種が本当に与えるものとは何なのか。
物語は、ここから少しずつ動き始めます。
次の夜に、何が芽吹くのか。
気になる方は、次のページへ。




