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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか

無責任な勇者にも困ったものだ ~やさしく寛大な王様はお嘆きになるばかり~

作者: マンムート
掲載日:2026/07/23


困ったことになったものだ。


勇者が逃走してしまうとは。



魔王を倒す過酷な旅におののいて逃げてしまったのだろう。


使者である役人には、手厚いサポートがあることをきちんと伝えろと言っておいたのだが。


だが、勇者と言っても、いやしく無学な平民なので、説明が通じなくても仕方がないところだ。



だからこそ、説得の前に。


忠誠の首輪をつけ、目覚めぬ眠りの呪文でしつけてから、言葉が通じないならその体に教え諭して。


立派な勇者をさせてやろうとしていたのに。



我が王国は、勇者の使命を果たせるように親切心でそうしてやっているのに。愚かなことだ。



しかも、逃走する時に、迎えにいった使者達を全滅させたとあっては許しがたい。


草の根を分けても探し出し、かの凶悪な犯罪者に、勇者をさせねばならないのだ。


魔王を倒したあとは即刻死刑だ。


人を殺したら死刑。しかも18名もの高貴な生まれの使者を殺害したのだから、火炙りのあと、その死体を斬首することになる。


だが、魔王を倒す使命を果たすまで生かしてやるのだから、きゃつも恩を感じて出頭してくるであろう。


わたしは慈悲深い王だからな。




      ※      ※      ※




ついに魔王が現れてしまった!


辺境では、愚民どもが暴れまわり、高貴な領主たちを捕え、魔王軍に門を開いているというではないか!


平民どもは正義と悪もわからんのか!



魔王軍は平民どもから財産をとりあげないだと!? 愚かな!


やはり所詮は魔王。


平民に生きるのに必要以上な過大な財などもたせたら愚かな行為に走ると決まっているのに……。


そのような愚かな者の支配が続くわけがない。



だが、問題は未来ではなく今の情勢だ。


恩知らずな平民どもは、辛うじて逃げた高貴な者達をも、狩りたてているという。


服一枚しか持たせないようにしていらない欲から解き放った清貧な生活を送らせてやっていた恩も忘れて、魔王に協力するとは……。



このままでは王都に避難している以外の高貴な血が絶えてしまう。


しかも最悪の場合、魔王が王都まで来てしまうではないか……。


愛しの妃の笑顔がくもってしまう……かわいい王女は泣いてしまうだろう……苦しむ人々のことを思って心から哀しむやさしい子なのだ。




ええい、勇者はまだ見つからんのか! 勇者さえ使命を果たせば全てがうまくいくのだ!




勇者さえいれば、なんの苦労もなく魔王は倒せる。


勇者が魔王を討伐するのは定められた使命。


最初に木の棒と木の盾さえ渡せば、冒険の途中で聖剣に出会うのだからな。


高貴な人々の血が流れることもない。


使命とはそういうものだ。一切の栄誉を要求しないからこそ輝くのだ。



そういえば前の勇者は、契約書や賃金を要求したそうだな。


先代である我が父王は、その心得違いを哀れに思い、懇切丁寧に人の理を教えてやったと聞く。


忠誠の首輪で座らせ、三か月に渡り繰り返し繰り返し教え諭し、ノート100冊に「わたしは国に全てを捧げる勇者です」と寝る間もなく繰り返し書かせて、ようやく理解させたそうだ。


なんという慈悲! なんという忍耐深さ!


その話を母から聞かされた時、わたしは感動の余り泣いたのを覚えている。



わたしも父のような慈悲深い王になろうと決意したのだ。



だが、なぜだ……?


なぜ勇者は平民から現れるのだ。


わたしなら、使命の重さに打ち震え感動し、我が身を投げ出して勇者となるだろうに……。


忠誠の首輪や、即死の呪文にも頼ることなく、立派な勇者となるというのに。



われわれ王族や貴族の慈悲によって生きているということすらわからぬ平民たち。


そんな犬畜生にも等しい出の者を、勇者として認めるという栄誉をさずけるだけでもありがたく感じるべきだ。



前の勇者もその前の勇者も、その前の前の勇者もそうだった。


ここ200年余りの勇者はすっかり質が落ち、逃亡したり報酬を得ようとしたり裁判に訴えようとしたりと大変嘆かわしいばかりだ。


だが、みな最後は、素直に勇者としての生をまっとうした。


彼らは名誉以外はなにも要求しなかった。


魔王を倒しても、褒美など受け取ろうとしなかった。


そんな彼らに褒美をさずけたら、その純粋な心をけがしてしまうことになる。


彼らは、我が国に生まれた以上、全てを我が国に捧げるのが当然なのだ。勇者なのだから。



全ての勇者は、魔王を倒すという使命を立派に果たしたあと、目覚めぬ眠りの呪文でやすらかになってもらう。


勇者であったものが、万が一晩節を汚してしまってはいけないからだ。



しかも我が王国は親切なことに、その使命から勇者が逃げ出さないように、手厚くサポートさえしているのだ。


勇気がくじけてひきかえさないように、親類縁者から知り合いにいたるまでを王城の地下で保護し『おまえが引き返したら彼らは国を救う尊い犠牲になる』と教え諭し。


忠誠の首輪や、目覚めぬ眠りの呪文で、勇者の使命を果たすようにさせてやっている。


平民ごときにまでなんという行き届いた配慮とサポート!



勇者よ!


なぜ、その深い愛が判らないのだ!



探せ! 勇者を探せ!


一刻も早く探せ! 探すのだ!




      ※      ※      ※



なんということだ……。



勇者がまたも罪を重ねた。


今度は我が愛しい王子までもが、奴によって命を奪われてしまった!



勇者よ! お前がおとなしく出頭しさえすれば、全ては丸くおさまったというのに……。


それすらもわからぬというのか!



おまえが出頭しないから。


おまえが住んでいた村の住民を全て保護し『勇者よ。お前が勇者としての任務を果たさなければ、村人たちは尊い命を捧げることになる』と、全土に布告を出さざるを得なくなってしまったのだ。


布告するにあたって、我が大宮殿の建設工事費や、我が王妃の化粧代や宝飾品費、王家の輝きを示す儀式などの経費を削る羽目になった。


全く許しがたい。愛しの妃は泣き、新しい宮殿を心待ちにしていた王女は太陽のような笑顔を曇らせた。


だが、おまえに栄誉ある使命を果たさせるために涙をのんだのだ。



わが慈悲が、なぜ通じない!



王子に何の罪があったというのだ!


村人たちを丁重に保護しろ、とよくよく言って聞かせたかいあって、王子はそれを守った。


だれひとり、命を奪うようなことは、しなかった。


どんなに無礼な振る舞いをされても、腕や脚や鼻で済ましてやったと報告も受けている。


かわいい王子とその部下達は、わたしの言う事を素直に守っただけではない。


王家や貴族の高貴ある子種さえも、勇者の親族達にくれてやったというのに……。


しかも、勇者の幼馴染には特に気を遣い、勇者がどうなっても最下級の側女として保護してやるという慈悲までみせてやったのだ。


彼らは泣いて喜んだのだぞ!


そんな恩すら無視して、きゃつは、保護していた地下牢を破壊し、守備についていた部隊を皆殺しにしたのだ!


なんという暴虐! なんという残虐!



しかも王子は……その首を地下牢の入り口に置かれていたのだ!



許しがたい!




勇者よ、なぜ罪を重ねる!? 勇者なのに。


我が王国を守るという気高い任務をなぜ否定するのだ!



こうなればやむをえぬ、勇者認定を剥奪し、全国に凶悪犯として指名手配する!



もう許さぬ。


おまえは勇者と言う肩書にあぐらをかき、正義をあざわらう凶悪犯罪者に堕ちたのだ。


王子を含む180名、さらに前回の18名もあわせ、198名。


一人殺しても死刑だというのに……。


勇者よ。お前には恐ろしい運命しかないのだ。


まず手足を痛み止めなしに切断、そして王都の広場にさらし、飢えの極限までおいつめたのちに、性器を切断し、火炙り。


その死体を斬首、亡骸はバラバラにして王都の城壁に並べることになる。



もはや慈悲深い王であるわたしも、おまえに使命を果たさせる気はない!


恐れるがいい! 恐怖におびえるがいい!



だが、三日以内に出頭して来れば、魔王を倒すまでは、生かしておいてやるぞ。


村人たちも処刑するだけにしてやろう。



ここまでの仕打ちをされていながらこのような温情を与えてしまうとは……わたしはなんという慈悲深き王なのだ!




      ※      ※      ※



なに!?


魔王の軍勢がこの王都を包囲した!?


やむをえぬ。


けがらわしい魔王と話すなど口のけがれにしかならぬが、時間を稼ぎ、あわよくば講和の席で正義の裁きを――



レッドドラゴンの軍団の攻撃で城壁が消滅しただと!?



魔王め! なんという礼儀知らず!


交渉さえせぬのか!?


しかも、魔王は勇者とだけ戦うと決まっているというのに!


なのに、この王城を直接攻撃して来るとは!



なんという卑劣さ! おのれ魔王!



我が国の軍は、戦争などと言う卑しい行為はしないのだ!


王家と貴族の威信を示すため、華やかでしみひとつない軍服に身を包み、きらびやかにパレードをしたり。


無知蒙昧な平民をやさしくしつけたり。


獣のような行為にふけり盛って増え過ぎた平民を適切に間引いたり。


愚民が小金をもちすぎて大それたことなど考えないようにそっと取り上げてやったり。


そういった穏やかな任務しかしないうつくしい軍隊なのだ!



魔王との戦争などという卑しい仕事は、勇者の使命なのだから!



お、王宮に火が!


この玉座の間にも煙が! なんということだ!



なにをしている勇者! 我が妃や王女が怯えているではないか! お前には人の心がないのか!


滅びたらお前だって困るのだぞ!


おまえはこの国の国民なのだからな!


国が滅びたら、もう国民でいられないではないか!



なぜ来ない!


今からでも遅くはない!



ひぃっ魔王!


夢だ、夢だ! わたしは夢を見ているんだ! 魔王は勇者とだけ戦っているはずだ!



妃よ! ああ、我が娘よぉぉぉ!


うわぁぁぁぁぁぁぁ!



勇者は、勇者はなぜいない!? なにをしている!?



ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!




たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


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― 新着の感想 ―
魔王なんかいなかったってこったな
むしろ魔王が勇者だったまであるよな、これ。 現役か前任者か、はたまた幹部級まで何人も元勇者がいたとかまではわからんけど。
まぁ勇者もこんな国見殺しにする。村人とちゃんと逃げられたかな。
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