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決着、そして決意②

 数時間後。王国騎士見習いの五人の一団が、俺たちの村の広場に現れた。


 今度という今度は、本来の王国騎士像に沿った誠実な人たちだった。


 彼らは、処刑から逃亡した王国騎士──ジャルカットを探しに来たと村のみんなに言ったそうだ。


 どうやらアイツは、予想以上の大物だったらしい。


 件のジャルカットを、王国騎士を目指している若者2人(若干の齟齬がある)が倒し、拘束したと知った彼らは、大きく驚嘆し、大層な心配をし、ちょっとだけ怒り、仕事が減ったことに感謝した後、傷ついた俺たちに手厚い治療を施してくれた。


「なんて無茶を!死ぬ可能性は考えなかったの?」


 俺の傷を治療してくれた、隊のリーダーであろう赤髪の女性の言葉が、何故か印象に残っている。


 実際、そうなってもおかしくない戦いだった、


 俺とガイが生き残れたのは、数多の幸運のおかげだ。


──大きな犠牲は払いましたけどね。


 俺はリーダーの女性にそう言いかけたが、実際に言葉として出ることは無かった。傷を主張するのは男らしくないし、その傷が……アレでソレだったら尚更だ。


 というかキモい。普通に。


 治療も一段落し、大人達が深刻そうな顔を揃えて今後の動向を話し合っていた頃。


 子どもたちが、憧れの王国騎士が来ているとどこからか聞き、広場に駆けつけた。一瞬にして広場はごった返しになり、喧騒具合が飛躍的に増す。


 子どもたちは騎士の装備やら何やらに目を煌めかせ、彼らの周りをぐるぐる周り、わあきゃあと騒ぎ、各々の親に叱れ、離される。


──平和だ。


 帯剣した人間が村の中にいるというのは異常ではある。しかし、それでも俺は、平和というものを噛み締めていた。


 ひとしきりその様子に微笑んだ俺は、てんやわんやしている村の一角にひっそりと座る人物に向け、軽く手を挙げた。


「よっ」


「フーマ」


 ガイが顔を上げる。少し声のトーンが低いが、それ以外はいつも通りだ。傷も残っていない。


 おおかた、治療と聞き取りが終わり、手持ち無沙汰になったのだろう。俺もそうだ。


「人気だな、王国騎士って」


 ガイの隣に座り、広場の方を見つめながら言う。


「そうだね。無駄に美人ってのもあるだろうけど……」


 視線を動かせば、先程俺たちを治療してくれたリーダー格の女性が、子ども達と戯れている。その様子を、呆けて眺めていると、ガイが口を挟んできた。


「フーマ?ぼーっとして……どうしたの?」


 俺は、慌てて思いついた疑問を口走っていた。


「あぁいや、その……女性って騎士になれないんじゃなかったっけ……?」


 俺の誤魔化しに、ガイは気づくことなく頷いた。


「俺も思った。まぁ、聞いたのは何年も前だし、情報が古くなったんだろうな……」


 その言葉に、ふと、俺は違和感を感じた。ガイがどこかソワソワしている。視線が泳ぎ、落ち着きがまるでない。


 何か聞きたいんだろうなと汲み取った俺は、しぶしぶながら、完璧なパスを渡す。


「どうした?」


「…………なぁ……本当に無くなっちまったのか?」


 遠慮なしに股間を凝視してくる親友を軽く睨みつつ、いっそこのままズボンを下ろし、見せつけてやろうかと考え──やめた。


「綺麗さっぱり……な。なんだか不思議な感覚だ」


「術で治せたりは……」


 俺は、首を振ってお手上げのポーズを取る。


「無理だった。あいつが透明になったのと同じで、どうやら存在そのものを消すタイプらしい」


 笑い混じりに俺がそう言うと、どういうわけか、真剣さを感じる声音で、ガイが小さく叫んだ。


「これからどうすんだよ!お前、このままじゃ子供の顔も見れず、死ぬまでこの村で1人ぼっちになるんだぞ!」


 やけにリアルな未来予想図を提示され、少々面くらう俺。


 いや、事実ガイはこの子作り……じゃない、後継ぎ問題に長いこと苛まれていたのだ。


 だからこそ、その発想に当人である俺よりも早く至ったのだろう。


 何より、俺の身を案じてくれているのだ。"やけに"は表現が適切ではない。 


 そうと分かっていながら、俺はこんな答え方しか思いつかなかった。


「……考えてない!!」


「考えてないって……あのさぁ……」


 ガックリと肩を落とし、まるで自分のことのように落ち込むガイ。逆に、俺は他人事のように励まそうとしていた。


「まぁ子供のことはいいとしてさ、死ぬまでこの村で1人ってのは、なんとかなるだろ」


「……?いや、1人になるだろ……俺いなくなるし」


──しれっと俺をぼっち扱いしたね。


 そう言いたくなるのを堪えつつ、俺は、親友に向き直った。


「ガイ。俺は……」


 声が震える。咳払いして仕切り直そうにも、上手く言葉が出てこない。

 

 ガイは、そんな情け無い俺の様子を口を挟むことなく見守っていた。


 俺はたっぷり十数秒をかけて喉を宥め、ようやく口を開くことができた。


「俺も……王国騎士になりたい。お前と、一緒に」


 俺がそう言い放つと、ガイは瞳孔を大きく開かせた。


「…………本当!?」


 俺は、ゆっくりと頷く。


 決して、誰かを救いたいとか、今回の件で弱者をにじる悪に対する怒りが湧いたとか、そういう褒められた動機ではない。


 俺が救いたいのは、俺自身だ。


 定められた道を、促されるまま呆然と歩いていた俺は、親父が死んだことで、路頭に迷った。


 当時の俺は、その道から離れようとしたが──出来なかった。剣や華の法を忘れて生きることが出来なかったのだ。


 だが、俺は背を向けるのではなく、立ち向かうべきだった。


 他者から与えられた呪縛の中で、己が最も納得し幸せになる道を作る。


 今日、俺があの呪われた指輪を使い、親父に与えられた発想から、全く違う選択を掴み取ったように。


 俺は戦う。王国騎士だった親父に真っ向から挑み、それを超える。


 そうして初めて、俺は救われるのだ。


「ハハっ……そうきたか……なら、1人ってのは間違いか!!」


 柄にもなく、大口を開けてガイが笑う。


「改めて……宜しくな!相棒!!」


 あいも変わらず後ろめたい、ナイーブな動機で動く俺を、無二の親友は、笑って受け入れてくれたのだ。

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