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第2章 大会当日

あっという間に、時間は翌週の金曜日の朝になった……


「これを持っていきなさい」


「テント……?何のために持っていくんですか?」


「まさか、道端で寝るつもりですか?」


「待ってください。まさか俺たち、三日間ずっと【仙境】にいるんですか?」


「そのほうが攻略効率は一番高いですから。いいから、持っていきなさい」


指導者さんはそう言うと、二張りの新しいテントを半ば強引に俺の手へ押しつけ、自分の部屋へ戻って荷物を整理し始めた。


えええ?


俺たち、まさかキャンプまでやるのか……?


——————


指導者さんと一緒に、事前に決めていた集合場所へ到着すると、他のみんなはもう大きな荷物を抱えて、早くからそこで待っていた。


「ダーリン、どうしてそんなに驚いた顔してるの?もしかして……私のこの服が可愛いから?」


リンは期待するような目で少し顔を上げ、褒められるのを待つみたいに俺を見つめてきた。


挿絵(By みてみん)


「すごく似合ってるぞ。そういえば、髪型変えたのか?」


「えへへへ……似合ってる?」


「ああ、なんだか新鮮だな。その髪型もよく似合ってるし、すごく可愛い」


「じゃあ、これからはたまにこの髪型にしよっかな〜」


可愛いやつだ。


「ところで、お前たちはこれからキャンプするって知ってたのか?」


リヤと同じテントで寝る予定のレイを除いて、他のみんなはそれぞれ自分のテントを持ってきていた。


「昨日、先生がこれからの予定を全部教えてくれました。それに、このテントも先生が買ってくれたものなんです!私、最近お小遣いが足りなくて……そんな時に先生がわざわざテントを用意してくれて、本当に助かりました……」


「気にしなくていいですよ、アイリーン。ついでにまとめて買ってきただけですし、そこまで高いものでもありません」


嘘だろ……


俺の記憶だと、このテントって結構値が張るはずなんだけど?


家を出る前に、俺はこっそりテントの値段を調べていた。


俺が持っているこの二張りのテントは、どうやら一つ最低でも八万円くらいはするらしい……


「世間知らずみたいな顔をしないでください、エミール。あなたたちがきちんと休める環境にいてこそ、全力を発揮できるのです。これは必要な投資です」


この人、相変わらずお金の使い方が豪快だな……


将来、本当にお金が必要になった時に困らないといいんだけど。


いや、もしかしたら俺の心配なんて余計なお世話なのかもしれない。


だって、彼女はあの指導者さんだぞ?


「あの……私、テントを持ってくるのを忘れてしまいました。すみません……」


「マリー、あなたの家はここからかなり離れた富裕層の住宅街にあるのでしたね?」


「はい……」


指導者さんはみんなを一通り見回したあと、最後にアイリーンへ視線を向けた。


「アイリーン、マリーと一緒に寝ることになっても構いませんか?」


「もちろん構いません。彼女は私の恩人ですから」


「よろしい。ではマリー、あなたはアイリーンと同じテントで寝なさい」


「すみません……ありがとうございます、アイリーン」


「大丈夫大丈夫。これくらい、全然たいしたことないよ」


人員の割り振りも完璧だな……


彼女はきっと、アイリーンがかつて俺とマリーに助けられたことも考えたうえで、こういう配置にしたんだろう。


「実は、マリーがあなたと同じテントで寝ても、別に問題ないんじゃないですか?」


俺は指導者さんを少しからかうつもりで、こっそり彼女の耳元に近づき、小さな声でそう尋ねた。


「わ、私は……寝ている時の顔を、他人に見られるのがあまり好きではないので……」


本当か?


明らかに嘘だろ?


数日前、キャロリンが俺の家に泊まりに来た時、彼女は夜中に指導者さんと少し話をしに行こうとしていた。


けれど、部屋の前まで行ってみると、指導者さんの部屋の扉にはしっかりと鍵がかかっていたらしい。


しかも本人は、夜十一時になると面会謝絶モードに切り替わる。


キャロリンがどれだけ呼んでも、指導者さんは絶対に部屋へ入れてくれなかったそうだ。


……それにしても、こんなふうに後ろめたそうな指導者さんは、なかなか珍しいな。


「さて、行きましょう」


「「「「「「「おー!」」」」」」」


——————


探索委員会の入口は、もうとっくに人で溢れ返っていた。


「まだこんなに早い時間なのに、もうこんなに参加者が集まってるのか……」


「ちっ、長蛇の列というのは本当に苛立たしいですね……どうして人間の効率は、もう少し速くならないのでしょうか……」


指導者さんは先が見えないほど続く列を眺めながら、露骨に不機嫌そうな顔になった。


「ん?リヤ、エミール。来たのか?」


お?


クレモンおじさんだ!


「パパ!」


リヤとクレモンおじさんの仲は相変わらずよくて、彼女はすぐに駆け寄って彼を迎えた。


「こんにちは、クレモンおじさん」


「この子たちが君たちの仲間か?」


彼は俺とリヤの後ろにいるみんなへ視線を向け、少し興味深そうに「おお〜」と声を漏らした。


「こんにちは、クレモンさん。私は指導者です。今回の大会参加を提案した者であり、同時に彼らの教師でもあります」


「あなたが、セレイアがよく話している指導者さんでしたか。あなたのご活躍は、娘やギルドからいろいろと聞いています。お会いできて光栄です」


……


クレモンおじさんは、俺にとって半分育ての親みたいな存在でもある。


今がちょうどいい機会だな……


「クレモンおじさん、紹介したい人がいます。彼女はキャロリンです。数週間前から付き合い始めた、俺の彼女です」


「伯父様、初めまして!キャロリンです!」


「君に彼女ができたのか?えっ!?」


いや……


どうしてクレモンおじさんがそんなに驚くんだよ?


「私はてっきり……」


「パパ、先に手続きをしに連れていってもらえますか?ここの列が長すぎて、少し足が疲れてしまって……」


「で、できるとも。では皆さん、私についてきてください」


クレモンおじさんがその続きを言う前に、リヤは声を出して彼を遮り、それ以上言わせないようにした。


そのせいで、彼は困惑した様子で、頭の中に疑問符を浮かべながらリヤを見つめていた。


“気にしないで”


けれど、リヤがそのまま首を横に振ったので、彼もそれ以上は言わなかった。


彼は少し考え込んだあと、俺たちを連れて人混みを抜け、そのまま受付へ向かった。


それにしても、探索ランキング一位の面子って本当にすごいな……


人混みはクレモンおじさんが俺たちを連れて歩いてくるのを見ると、自然と道を空けてくれた。


そのおかげで、俺たちはすぐに小隊の登録を済ませ、他の誰よりも先に【仙境】へ入ることができた。


——————


「みんな、安全には気をつけるんだよ?頼れる先生がいるとはいえ、常に警戒しておいたほうがいい」


「心配しないで、パパ。私たちは自分たちの実力がどの程度なのか、ちゃんと理解しています」


「ただ一応、注意しておきたかっただけだよ。そうだ、セレイア。君の【武装化】を見せてもらってもいいかな?ほら、ちょうど破劇者(Breaker)が一体、こちらへ突っ込んできている」


遠くから、茶色い猪のような破劇者――胡椒猪(ペッパーボア)がこちらへ向かって全力で突進してきていた。


あれは走りながら、刺激性のある粉末を撒き散らし続ける猪型の破劇者だ。


この厄介な破劇者は、突進速度が非常に速いだけでなく、その粉末で編織者の目を開けられなくしてくる。


すぐに倒せなければ、編織者はそのまま吹き飛ばされてしまう。


「それでパパが安心できるなら、わかりました。【武装化】」


【武装化】を終えたリヤは、自分の剣を持ち上げ、地面に突き刺した。すると次の瞬間、胡椒猪の足元から、鋭い荊棘が何本も突き出した。


宙に吊り上げられた胡椒猪はそのまま生命反応を失い、俺たちの前から消えた。


「え……?これだけ?」


「はい。【武装化】状態では、私の『荊棘魔法』は【武装化】スキルである『荊棘(Thorned)王座(Dominion)』によって強化されます。ですので、スキルの威力が上がるだけでなく、より扱いやすくもなるのです」


「【武装化】すると、それほど強力な戦闘力を得られるのか……それなら、私も多少は安心できるな」


これでようやくクレモンおじさんは満足したように、俺たちへ手を振り、立ち去ろうとした。


「エミール」


俺のそばを通り過ぎる時、彼は俺の耳元で小さな声で話しかけてきた。


「私情を挟んだ頼みになるが、セレイアのことを少し気にかけてもらえないだろうか?あの子は最近ずっと剣の稽古をしていて、かなり自分を追い込んでいる。だから、君に代わりに見ていてほしいんだ」


「え……?わかりました。気をつけておきます」


「ありがとう。これは父親としての私情だ。(セレイア)のことを、よろしく頼む」


彼は俺の肩を軽く叩くと、格好よく上着を肩にかけ、エレベーターの入口へ向かって歩いていった。


いや……


娘を嫁に出す老父親みたいな言い方をしないでくれ!


残念ながら、俺の心の声が彼に届く前に、エレベーターの扉はそのまま閉まってしまった。


残された俺は一人その場に立ち尽くし、心の中でクレモンおじさんに静かにツッコミを入れていた。


「エミ、さっきお父様はあなたに何か言っていましたか?」


「い、いや……別に。ただ、君の安全に気をつけてほしいって言われただけだ」


「はぁ……だから言ったでしょう。お父様は心配性すぎるのです」


それは君も同じじゃないか?


ブーメラン、綺麗に戻ってきてるぞ。


——————


「よし、今日はここまでにしましょう。先に休みます」


「「「「「「「おお……」」」」」」」


俺たちは第二十一層から第二十九層まで一気に駆け抜け、その途中で大量のオークを倒した。


長時間にわたる高強度の攻略を終えて、俺たちは全員すっかり疲れきっていた。


指導者さんから今日はようやく休めると聞いた瞬間、みんなは安堵と疲労が入り混じった表情を浮かべた。


俺は本当は非常通路のことも考えていたのだけれど、指導者さんにあっさり却下されてしまった。


「私たちは委員会側の監督者の目がある中で、正々堂々と下の階層へ進んでいく必要があります。ですから今回は、自分たちの実力で突破しましょう。それに、ここの怪物の危険度は階層が下がるにつれて上がっていきます。まさか近道をした結果、危険度が急激に上がった怪物に全滅させられたいのですか?」


彼女はさっき、そう言っていた。


たしかに、彼女の言い分にもちゃんと筋は通っているんだけど……


でも、俺は本当に少し楽をしたかったんだよ……


「前に相談したとおり、料理は私たち女子組が担当するね。テントを張るのは、男子二人に任せるよ〜」


リンは持ってきた大きな袋の中から鍋といくつかの調理器具を取り出すと、キャンプ地に残った俺たち二人に手を振った。


その後、彼女は女子組のほうへ向かい、みんなと一緒に夕食の準備を始めた。


「じゃあ、夕飯までに終わらせるか。コリン、手伝ってくれ」


「はぁ……面倒くせえ。今の技術はこんなに発達してるのに、どうして自動で組み立てられるテントを作らねえんだよ」


地面にしゃがみ込んだコリンは、まだ開けてもいないテントの袋を手に取り、やる気なさそうに手の中のテントちゃんへ文句を垂れていた。


「ちゃんと組み立てなかったら、俺たち夕飯を食べられないかもしれないぞ?」


「夕飯を食べられなくなるのは俺だけだろ……キャロリンが、自分のダーリンを腹ペコにさせるわけねえしな?」


えへへ……


で〜す〜よ〜ね〜


リンは俺のことを一番甘やかしてくれるからな〜


「はぁ……なあ、お前」


「何だ?」


「俺、自分の【武装化】の発動条件が何なのか、たぶんわかった気がする……」


何だって!?


「聞かせてくれ。そこまでわかったなら、【武装化】も発動できるんじゃないのか?」


「いや、今はまだ無理だ……【武装化】の条件って、“自分の心に欠けている部分と正面から向き合うこと”なんだろ?俺の【武装化】条件は……たぶん、“生きる目標を見つけること”だと思う……」


生きる目標?


「えっと……趣味とか、心の底からやりたいと思えること、って解釈してもいいのか?」


「たぶん、お前の言うとおりで合ってると思う。けど……ダメなんだよ。俺、今は本当に迷ってる。今の俺には、興味を持てるものも、やりたいことも何一つない。毎日、廃人みたいに時間を無駄にしてるだけだ」


いつも騒がしいコリンが、珍しく沈んだ表情を見せた。


彼は手元にあった小石を拾うと、立ち上がって、それを横へ思いきり投げ捨てた。まるで、心の中の鬱屈を吐き出すみたいに。


嘘だろ……


俺には少し想像しにくい。


やりたいことが何一つない人間って、普段どれだけ退屈な日々を過ごしているんだ?


「アニメは?」


「前に何本か見たことはある。最初は少しハマったけど、しばらくしたらアニメとか漫画とか小説みたいなものも退屈に感じるようになった。だから、今はもう見てない」


「えっと……スポーツは?」


「俺はインドア派だ」


本当にインドア派には見えないんだけど?


「音楽は?」


「ギターを習ったことはある。でも上手くできなくて諦めた……普段から曲を聴く習慣もない」


マジか……


お前、普段どうやって生きてるんだ?


「まさか、アダルトビデオとかか?お前、普段そういう話をしてる時は、やけに楽しそうだった気がするけど」


「最近の作品は全部見終わった。今じゃ、そういうものにも何の面白みも感じなくなってきた」


なんてこった!


こいつ、最終的には女の子への興味まで失うんじゃないだろうな?


まずい……


まさか、俺が標的にされたりしないよな?


俺に近づくなあああああ!


「お前の問題、ちょっと深刻かもしれないな」


「だろ?俺としては、それが自分の【武装化】の発動条件だって、けっこう確信してるんだ。ただ、本当に条件を満たす方法が何もない。お前とキャロリンみたいに、はっきりした目標を持ってるのを見るたびに、すげえ羨ましくなるんだよ……」


「ゆっくり探せばいいさ。もしかしたら、あと何日かしたら、自分が本当にやりたいことを見つけられるかもしれないだろ?」


「よいしょ。はぁ、そうだといいけどな……」


コリンは手元のテントを組み立て終えると、立ち上がって大きく伸びをした。


「ねえ、二人とも!ご飯できたよ!」


少し離れたところで、リンが手に持ったお玉を高く掲げ、その場でぶんぶん振りながら、夕食の準備ができたことを知らせてくれた。


「わかった!最後のテントももうすぐ組み上がるから、すぐそっちに行く!」


「OK。じゃあ、先に二人の分のシチューをよそっておくね」


そう言って彼女は、横に積んであった食器の中から黒い小さなお椀をいくつか取り出し、湯気の立つ野菜シチューをたっぷりと注いだ。


うっ……


さっき視界の端で見えたけど、あのシチューはリンが手作りしたものだ!


そう思っただけで腹が減ってきた。


よし、俺もペースを上げるぞ!


「とにかく、今は一歩ずつ進んでいこう。ここで焦ったところで、すぐに解決策が見つかるわけじゃないんだし、それなら先に少し気を抜いて、頭を冷やしたほうがいい」


俺は最後のペグを地面に打ち込むと、立ち上がって、まだ隣でしゃがみ込んだまま考え込んでいるコリンにそう言った。


「……お前の言うとおりだな。行こうぜ、夕飯を食いに行こう」

【セレイア – プロフィール更新】


セレイア


紡がれた物語 - 長髪姫(Rapunzel)


編織者スキル

——————

『囚われの檻』

『荊棘魔法』

『体力剥奪』


追加スキル - ???


【武装化】発動条件 - 自分の本心と向き合う


【武装化】スキル -『荊棘王座(Thorned Dominion)』*New!


【武装化】スキルの効果 -【武装化】状態において『荊棘魔法』を強化し、威力だけでなく操作性も大幅に向上させる。*New!

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