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01-始まりの詩章 第9章 歯車が回り始めた。

「……!止まれ。先に横へ隠れよう」


目の前の通路に、全身を岩で覆われた巨大な破劇者が現れた。驚いた俺は慌ててキャロリンを引っ張り、岩陰に身を隠した。


「あれは岩石巨人(がんせききょじん)だ。背中にある、少しひび割れた隙間が見えるか?」


「うん」


「あれが弱点だ。君の短剣をそこに突き刺せば、核を砕けるはずだ」


「OK、任せて。『時間・加速』」


キャロリンがスキル名を唱えた瞬間、彼女の背中の紋章がほのかに紫紅色の光を帯びた。


次の瞬間、彼女の姿が消える。


肉眼では捉えられない速度で、キャロリンは岩石巨人の背後へ一気に回り込んでいた。


キィン——!


俺の指示通り、彼女の短剣が細い隙間へ突き刺さる。


直後、岩石巨人は音を立てて崩れ落ちた。


「やった!本当にこの大きいやつを倒せた!」


「すごいスキルだな……よくやったぞ、キャロリン」


「うん!エミールさん、これ見て。すっごく綺麗!結構いい値段で売れそうだよね、えへへへ……」


キャロリンは岩石巨人の核を拾い上げると、両手のひらに大事そうに乗せて、うっとりと眺めていた。


岩石巨人の核は、サファイアのように美しい石だった。


この素材は、市場でもなかなか価値がある。


「そうだな。そうだ、君は戦闘担当なんだから、素材は俺に持たせてくれ。せめて、戦闘以外のところで役に立ちたい」


「ふふ、ここで一緒にいてくれるだけで、もう十分助かってるんだけどね!了解〜。ところで、岩石巨人って強いの?なんで私、一撃で倒せちゃったんだろ?もしかして……実は私って強い!?」


この子、少し目を離すとすぐ自信に酔ってニヤけるな。


「正面からまともにぶつかっていたら、俺たち二人ともここで死んでいたかもしれない。さっきあれだけ楽に倒せたのは、弱点を突けたからだ。だから、これからの戦闘でも油断するなよ?」


「はい、主任!」


いつから俺は君の主任になったんだ?


     ◇


どれくらい歩いたのかわからなくなった頃、俺たちはようやく「第十三層」と書かれた、ぼろぼろの階段の前に辿り着いた。


「俺たち、第十三層にいたのか……というか、なんで急に階段を上る必要があるんだ?俺たち、エレベーターで【仙境】に入ったんじゃなかったのか……?」


「わかんないなぁ……もしかしたら、非常通路みたいな階段なのかも?」


ここは【仙境】であって、君の家の隣にあるスーパーじゃないんだぞ?


まあ、キャロリンの言うことも、あり得ないわけじゃない。


何しろ【仙境】の内部は、今でも謎に包まれている。どんな妙なものが出てきても、おかしくはないのだから。


「まずは気を引き締めて、ゆっくり上へ進もう。いつでも逃げられる準備はしておけよ?」


「了解!」


コツン——コツン——


俺たちは、まるで長い間放置されていたかのような階段を、一段ずつ慎重に上っていった。


周囲には俺たちの足音だけが何度も反響し、まるでホラー映画の中に迷い込んだような雰囲気になっている。


どんどん怖くなってきた……


「エエエエミールさん、手を繋いでも……あ、いや、服の裾を掴むだけでいいから、いいかな……?」


キャロリンはもう恐怖に耐えきれないのか、全身を小刻みに震わせていた。


もちろん、俺だってかなり無理をしている……


けれど、こういう肝心な時くらいは、少しは男らしく振る舞おう。


「え……?」


「こうして手を繋いでいれば、少しは安心できるか?敵が出たら、すぐに手を離すからな?」


「うん……少し安心した。ありがとう、このままでお願い……」


キャロリンは最初、目を見開いて驚いたような表情を浮かべた。


けれど、その驚きはすぐに、温かく柔らかな笑みに変わった。


タタッ——


タタタッ——


「「……!」」


何かが近づいてくる!


「キャロリン、まずは深呼吸だ」


「吸って……吐いて……わ、私……頑張る!」


俺たちは互いに手を離し、キャロリンは短剣を握り締めて臨戦態勢を取った。


それから彼女は俺と一緒に、音のしていた曲がり角をじっと見つめる。


張り詰めた空気のせいで、息をするのさえ苦しく感じる。


……


…………


なんで急に音が消えたんだ?


「キャロリン、警戒を維持したまま、ゆっくり前へ進んで様子を見に行こう。いいか?」


「ふぅ……わかった」


悪いな。


ここで立ち止まって待っていても意味はない。だから俺は、前へ進んで探索を続けることを選ぶしかなかった。


前方の通路は異様に薄気味悪く、しかも辺りをぼんやりと照らす薄暗い光のせいで、その先に何があるのかもよく見えない。


ペタッ。


「ひゃああああ!エミールさん、助けて!」


視界の端で、何か白いものが倒れ込んだように見えた。


そのせいで、ただでさえ怯えきっていたキャロリンは、すぐに俺の腕にしがみつき、全身をぶるぶると震わせた。


普段なら、こんなにも可愛らしい女の子に抱きつかれて、少しくらいは喜んでいたかもしれない。


けれど、今はさすがにそれどころじゃない。


何しろ、俺たちの命がかかっているのだから……


「ん?待て、あれは……!」


「何?まさか怖いものじゃないよね!?」


「違う。あそこを見てくれ。白髪の女の子だ」


「え?本当だ!待って、まさか幽霊じゃないよね?」


疑い深すぎるだろ……


幽霊のどこから「ペタッ」なんて音が出るんだよ?


「そんなに怖いなら、俺が先に一人で様子を見てくるよ。ただ、もし何かあったら、その時は絶対に助けに来てくれよ?」


俺は鶏一羽相手でも怪しいくらい非力な、か弱い男子なんだぞ?


羞恥心とか、自尊心とか、そういうものはもう全部捨ててしまおう。


俺だって怖いんだよ!


「ごめん、頼んだよ、エミールさん……」


キャロリンに軽く頷いて応えると、俺は道中で護身用に拾っておいた木の枝を手に、ゆっくりとその白髪の女の子へ近づいていった。


「ハロー?大丈夫か?」


ツンツン。


木の枝でその女の子の腕をつついてみたが、彼女はまったく反応しなかった。


ただ、少なくとも幽霊ではないことだけは確認できた。


「幽霊じゃない。安心していいぞ」


「その子を仰向けにしてみて……今のままだと顔が見えないから、まだ安心できないの」


それ、どう考えてもジャンプスケアが起きるやつだろ。そんなことを一般人の俺にやらせるのか!?


はぁ、俺がこの場で唯一の男なんだから、腹をくくるしかないか……


「失礼するぞ?少し体を仰向けにするから、急に襲いかかってこないでくれよ……ん?」


しかし、俺が想像していたような恐怖展開は起きなかった。


俺の目の前に現れたのは、むしろ一瞬呼吸を忘れてしまうほど美しい少女の顔だった。


ただし、彼女の鼻と口元は血でべっとりと汚れており、もともと真っ白だったワンピースにも、赤黒い染みが大きく広がっていた。


「キャロリン、手を貸してくれ!遭難した編織者みたいだ!」


「わかった!」


——————


「うぅ……」


目を覚ました!


その白髪の少女は目を覚ますと、すぐにまだ弱りきった身体を無理に起こそうとした。


「気をつけて。君はさっき倒れていたんだ。今はしばらく、そのまま横になっていたほうがいい」


「やはり、少し無理をしすぎましたか……ありがとう、少年。それと、そちらの金髪の少女も。私を助けてくれたのは、あなたたちですね?」


挿絵(By みてみん)


「私とエミールさんは、あなたを安全な場所まで運んで、あなたが目を覚ますのを待っていただけだよ。特別に何かをしたわけじゃないの。あなたも遭難した編織者なの?」


「遭難?ああ、ここで迷子になっていたのか、という意味ですね?そういうことにしておきましょう」


「それじゃあ……あなたのことは何て呼べばいいかな?私はキャロリン。あと、そっちの頼れる男の子はエミール!」


ここはキャロリン(陽キャ)に、その社交能力を発揮してもらおう。


「呼び方ですか……そうですね。私のことは、指導者と呼んでください」


「え……?本名は教えてくれないんですか?」


「ごめんなさい。助けていただいた身でこのようなことを言うのは心苦しいのですが、初対面の相手をすぐに完全に信頼することはできません。私の本名と編織者能力については、いずれ改めてお伝えします。無礼をお許しください」


「問題ありません。それで、指導者さん。先ほどは何に襲われていたんですか?」


「……さて、何と呼ぶべきでしょうね。私にも、あれを正確に言い表す言葉はありません。ただ、安心してください。すでに処理は済ませてあります。少なくとも、この先しばらくは問題ないでしょう」


指導者さんは静かに息を整えると、淡々とそう告げた。


「先ほどキャロリンさんが口にしていた言葉が、少し気になりました。“あなたも”遭難した編織者……?もしかして、あなたたち二人は今、迷子になっているのですか?」


「そうです。さっきキャロリンが迷い兎の罠にかかって、俺も彼女が心配で後を追ってきました。俺たちは二人とも【仙境】の初心者なので、ここの地形には詳しくありません。今もまだ、どうやって地上へ戻ればいいのかわからない状態です」


「【仙境】……とは、何のことでしょうか?」


「「?」」


嘘だろ?


指導者さんは編織者じゃないのか?


どうして、まるで何も知らないみたいな反応をしているんだ。


「【仙境】って、この大迷宮のことだよ」


「……チッ。これが【仙境】ですか……?ずいぶん悪趣味な名付け方ですね」


キャロリンの説明を聞いた指導者さんは、不快そうに小さく舌打ちした。


そのせいで、キャロリンは自分が何か失礼なことを言って相手を怒らせてしまったのだと思い、困惑した様子で俺の方を見た。


「失礼しました。今の言葉は忘れてください。私はここにあるすべての道を把握しています。ですから、あなたたちをこの……【仙境】の外まで案内しましょう」


「本当ですか?」


「ええ。あなたたちへの恩返し、ということにしておきます」


ふぅ……


経験豊富な編織者が案内してくれるなら、俺たちが生きて帰れる可能性もかなり上がったはずだ。


「ただし、第十層はBoss階層です。そこだけは、このような緊急通路で迂回することはできません。あなたたちは第十層のBossに勝てる自信がありますか?」


「「……」」


いい質問だ。


そして、俺たちはそこまで考えていなかった。


……もういっそ、正直に打ち明けるしかないか。


「その……実は俺、まだ編織者に覚醒していないんです。だから、戦えるのはキャロリンだけなんです」


「それは困りましたね……今の私の状態では、おそらく戦闘には参加できません。かといって、キャロリンさん一人に任せれば、間違いなく死にます」


ん?


俺がこっそり【仙境】に潜り込んだことは、責めないんだ……?


「……いいでしょう。エミール、取引をしましょう」


俯いて考え込んでいた指導者さんが、ふいに覚悟を決めたように顔を上げ、まっすぐ俺の目を見てそう言った。


「俺と?」


「ええ。私は、あなたを今すぐ編織者として覚醒させることができます」


「え?マジで?」


「あなたの編織者能力がBossを倒すに足るものかどうかは、まだわかりません。それでも、私はあなたに賭けてみたい。ですが、そのためには【代価】を支払ってもらう必要があります」


……


代価……?


「そうですね……代価は、【今後、予定の空いている日は私のためだけに動くこと】とします。どうですか?」


それだけで覚醒できるのか?


この提案は、かなり魅力的だ……


「エミールさん、私は受けるべきじゃないと思う。この代価、あまりにも曖昧すぎるよ。私を信じて。私一人でも、きっと何とかするから」


俺が口を開いて承諾しようとしたその時、キャロリンは珍しく真剣な表情を浮かべ、俺を制止した。


「これは私とエミールの取引です。当事者が決めることに、口を挟まないでください」


「私はただ、彼が勢いで頷いた後、あなたに騙されるんじゃないかって心配しているだけです。あなたがさっき言ったように、まだ私たちを信頼できないのと同じで、私もあなたを完全には信頼できません。私に優しくしてくれたクラスメイトが、取り返しのつかない目に遭うところなんて見たくないんです」


キャロリン……


「はぁ……先に言っておきますが、私はエミールに間違ったことをさせるつもりはありませんし、彼の人生に過度に干渉するつもりもありません。私はただ、これから先、私のために動ける人間が一人必要なだけです。当然、エミール、あなたも私に感謝する必要はありません。私たちは単純に、互いを利用し合うだけです」


ずいぶんと刺々しい言い方をするな……


けれど、指導者さんの言っていることも間違ってはいなかった。


「……わかりました。あなたの提案を受け入れます」


「エミールさん!」


「心配してくれてありがとう、キャロリン。俺は自分が何をしようとしているのか、ちゃんとわかってる。だから安心してくれ」


「……わかった」


どうやら、彼女を説得することには成功したらしい……


その瞳にはまだ、ほんのわずかな悔しさが滲んでいたけれど、俺はそれ以上気にしないことにした。


「賢明な選択です。手を出してください」


「こうして、あなたの手に重ねればいいんですか?」


「ええ。『等価交換』」


指導者さんの左肩から、淡い青色の光の粒子が浮かび上がった。


次の瞬間、俺は自分の左手の甲に金色の光が現れるのを見た。身体にも、力が満ちていくのを感じる。


……え?


本当に編織者の紋章が出た!


「えっと、エミールさんの紋章って、マフラーを巻いて、剣を持ったカエル……?」


キャロリンは俺の手の甲にも編織者の紋章が現れたのを見ると、すぐに駆け寄ってきて確認した。


紋章を見た彼女の顔には、理解しがたいものを目にしたような困惑が浮かんでいた。


それから、彼女は顔を近づけ、俺の手の甲に浮かぶ紋章をじっと見つめた。


「『解析』、おおおお、俺、編織者になった!ついに編織者になったぞ!」


「エミール、あなたの編織者能力は何ですか?」


「【カエル王子(Frog Prince)】です。持っているスキルは……『挑発』、『超再生』、それに『交換』?えっと、なんだか俺の編織者スキル、ちょっと地味すぎないか?」


嘘だろ……


せっかく覚醒したんだから、もう少し格好いいスキルをくれてもよかったんじゃないか?


たとえば火球を撃ち出すとか、雷を召喚するとかさ……


「これで十分です。第十層のBoss程度なら、あなたたちにとって問題にはならないでしょう」


「マジですか?どう見ても、このスキルって微妙にしか見えないんですけど……」


「どんなスキルにも、存在する意味があります。実戦を経験すれば、あなたにもわかるでしょう。まずは上層へ向かいます」


指導者さんがそこまで太鼓判を押してくれるなら、たぶん大丈夫……なんだよな?


……だよな?

【指導者(■■■) – プロフィール更新】


指導者(■■■)


紡がれた物語 - ???


編織者スキル

——————

『等価交換』*New!


【武装化】発動条件 - Error code 0xd000d322: file '■■■■■■.Cond.Data' not found

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