表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/148

回想 世界を傍観する存在

 以前、ある少女が《破滅の錬金術(ロヴァス・アルケミー)》に溺れた際、助言をしてくれた同級生がいた。天河一基(あまかわ いつき)。そんな彼が明らかに只者ではないと思い、神凪が彼を問い詰めた結果、一つの解答に辿り着く。


『「天使」……なの?』

『直接的な答えは、傍観者であるオレの口からじゃ言えないが……ここから先は、神凪(かなぎ)。お前が思う「オレ」と仮定したうえで聞いてくれればいい』


 傍観者と名乗っているだけあって。なにか事件が起こり、それを知っていてもあくまで直接的な介入はしなかった……というよりは、できなかった。


 彼が自らの正体を直接、その口から明かさないのもきっと同様の理由だろう。彼自身は別に正体がバレても構わない。しかし、自ら明かすのは立場上難しいだとか、そんなところか。


 なのでここから先は、彼――天河一基が『天使』であるという前提で、神凪は話を進めていく事にした。


『ああ、ちなみに。これから話す内容もオフレコで頼んだぜー? ……特に、御削には絶対に』

『その内容によるけれど。御削やアタシにとって、マイナスになるような内容なら容赦なく伝えるわ』

『手厳しいねえ。ま、聞けば納得してくれるだろうし、そもそもこれは神凪、お前にも関わる内容だ。迂闊に話を漏らせば自分が、そして御削を危険に晒す事になる』


 御削の身の安全をエサに釣られているようで少々不愉快だったが、ここで文句を言っても話が進まないので神凪はスルーして。


 対する天河は、不承不承といった表情の彼女に気づきつつも続けて話す。


『まず聞いておこう。――上鳴に、お前の正体が知られた事。新たな《竜の血脈(ドラゴン・ブラッド)》を生み出す儀式のために狙われた事。比良坂(ひらさか)が《破滅の錬金術》に触れた事。これら一連の出来事が、偶然だと思っているか?』

『そうね、薄々感じていたわよ。……アタシと関わったばかりに、御削をファンタジー(こちらがわ)の世界に引き込んでしまったって』


 ただの高校生であるはずの上鳴を、エルフとの戦い、そして幼馴染が錬金術師になるという『ファンタジー』な事件に巻き込んでしまったのは紛れもない、特異な体質と境遇を持つ自分のせいだろう。と、そう思っていた。……だが、天河は首を横に振る。


『いや。……じゃあ、上鳴と神凪が繋がった――それさえも偶然じゃないとしたら? この一連の騒動の中心は一体、誰になるんだろうな?』


 彼は、御削(みそぐ)が神凪のドラゴン姿を目撃した事。それさえも必然だったと考えているらしい。


『まさか。だって、御削はただの高校生じゃ……』

『アイツに自覚はねえだろうさ。だが、アイツの周りにはこれからも「ファンタジー」が寄り付いてくる。……そういう体質なんだよ、上鳴御削という存在は』

『体質、ねえ? イマイチ信用ならないけど。だって、アタシと出会ったのが、御削にとって初めての「ファンタジー」じゃないの? 仮にその体質だとして、御削が生まれてからアタシの正体を知るまでの一六年は何?』

『体質、その全てが先天性だと思ったら大間違いだし、一定の年齢に達したら発現する体質という可能性だってある。……ま、別に今は信用する必要もねえさ、これから嫌でも信じる事になるだろうしさ』


 訝しげな表情で訊いてくる神凪に向けて、天河はそう返す。


 そう言われれば。と今は納得するしかなかった神凪は、これ以上言葉を返すことはない。それを見た天河は、さらに先へと話を進めていく。


『んで、そんな御削の体質を利用した、オレの目的は――アイツを「()」に据える事だよ。ドラゴンにエルフ、精霊。魔法使いや魔術師、錬金術師。全部挙げればキリのないまでのファンタジーが世界に溢れ、それぞれの領域(テリトリー)を持ち、お互い侵食しないようバラバラになっている。それらを纏め、一つの勢力として束ねるのが「王」ってヤツだ』


 王とやらの役目は分かった。仮に、上鳴に「ファンタジー」な存在を寄せ付ける体質が備わっているのなら、その役目に向いているというのも頷ける。だが。


『理屈は分かる。けど、わざわざ「ファンタジー」を一つに纏める理由は? 現状維持じゃダメなの?』

『ああ。知っての通り、何とか世界に溶け込んでいた存在が、次々と表舞台に溢れ出している。このままじゃいずれ、世界が破綻する』


 彼の言葉に、思わず自分の胸にも突き刺さるものがあった。


『それは……アタシが、『異能』を殺さないから?』


《竜の血脈》を継いでいる以上、果たすべき役目。しかし、自身の弱さから――未だ一度として、その役目を果たせた試しはない。それが原因で、世界の秩序が崩れていくというのも分かっているつもりだ。


 ……だが、彼にとってはそれさえも、些細な問題の一つに過ぎなかった。


『それは今の状況が加速する要因の一つであって、根本的な原因じゃない。オレからすれば、この世界が今まで秩序を維持できていたのが奇跡だと思っている。……《竜の血脈》の有無に関わらず、一度「ファンタジー」を一つに纏める必要があるだろうな』

『そこで御削の体質を利用しようって?』

『ああ。オレは「天使」。世界を護り、世界に安寧を与えるという役目はあっても、直接介入はできないからな。だが、ここを天界が認めるほどの安定した世界へと昇華させ、天界の加護を受ける――「神族化」をすれば、永遠の安寧は約束されるんだ。……そこで神凪、お前に頼みがある』


 しかし、天河が言わんとする事は大体想像がつく。


『……言わずとも分かっているわ。御削はアタシが、絶対に守ってみせる』

『やっぱり理解が早くて助かるねえ。……頼んだよ、御削を――世界を守れ、神凪麗音。これが「異能」を殺さずとも世界の秩序を守り、世界に永遠の安寧を与える事ができる、唯一の方法だ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ