8.二人で行くか、ここに残るか
「一基が『天使』……か。あいつ、何かあるとは思っていたけど、想像以上だな……」
神凪から話を聞いた上鳴は、思わずそんな薄っぺらい感想を漏らしてしまう。
神凪も、ずっと隠してきた秘密を色々と話す事ができたからか、どこかスッキリした表情を浮かべていた。……ただ。そんな彼女にも、一つだけ彼には伝えなかった事があった。
それは、天河一基の目的――『上鳴御削を「王」に据える』という内容について。ファンタジーな事柄を引き寄せやすい体質の事までは伝えたものの、世界のファンタジーを統べる存在になる事を天河から期待されている、とまでは流石に話せなかった。というよりは、話したくなかった。
そもそも、神凪だって上鳴には普通の高校生として生きる道を選んでほしいと思っているのに。今のこの日常が一番だと思っているのに、話す踏ん切りが付かないのも当然だ。
かといって、今すぐにあの天使と敵対してでも、その野望を阻止するという訳にもいかない。
相手が天使なら、ただのドラゴンである彼女では当然勝ち目もないだろうし、仮にいい勝負が出来たとしてもだ。世界の命運が掛かる選択を、彼女の一存で決められるほど、神凪は精神的にも強くなかった。
一方の上鳴は、そんな彼女の思いも知らずに。また別のファンタジーへと首を突っ込んでいこうとしていた。
「じゃあ、俺はあの魔法少女を探してくる。麗音はあの男に会ったらまた狙われるだろうし、ここで待っていてくれ」
「……ダメ」
立ち上がり、勝手に一人で準備室を出ていこうとする彼の手を、神凪はがしっと掴む。
「ここで動かずに待てって言われたでしょ。どうしても行くっていうなら、アタシももちろんついて行くわよ?」
「何言ってるんだ。あの男の狙いは麗音だぞ!?」
「それなら御削だってたった今ターゲットになったじゃない。『天使』を知っているんだから」
「……あ」
神凪が狙われていたのは、あくまで『天使』を知っていたから。だが、上鳴もその天使の正体を知ってしまった今、彼も彼であの男に狙われる理由が生まれてしまったのだった。
「それで、どうするの? アタシと御削、二人で行くか、二人でここに残るかのどちらかから選んで……っていってもまあどうせ御削のことだもん、どっちを選ぶかなんてわざわざ聞くまでもないだろうけど」
「分かった。それじゃ――」




