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2.錬金術を志す新入部員

「まさか戻って来てくれるとは。……今度こそ本当に諦めてしまう所だったけど」

(よもぎ)ががっつきすぎなんだよ?」

(さくら)。おまいう」


 蓬と呼ばれているのは、銀髪を肩に掛かるくらいまでに伸ばした、この高校の指定制服のブレザーを脱いだかわりに紫色をベースに様々な装飾が施されたローブをまとう、かなり背丈の小さな女性。

 しかし小柄な見た目とは裏腹に、どこか落ち着いていて、大人びた雰囲気を醸し出している不思議な人。


 もう一人は櫻と呼ばれている、その名前に見合った薄桃色の髪をもはや校則違反では? とツッコみたくなる程に床スレスレまで長く伸ばしている、白とピンクのフリフリ衣装を纏ったコスプレイヤー……ふと比良坂が心の中でそんな事を考えてしまっていたのがまるで筒抜けかのように。


「あっキミ、今ウチのことコスプレイヤーって思ったでしょ。残念、本物の魔法少女でしたー」


 ――どうやら比良坂の予想とは違ったらしい。そういや、彼女が最初にこの部室へ入った時は、制服姿だった気がするが……いつの間に? と自己紹介を聞いているはずだというのに、逆に疑問が増えてしまった。


「ウチは許斐櫻(このみ さくら)、三年生。クドいようだけど、魔法少女をやってるの。まあここまで言っても信じてくれる人はいないんだけど。とにかく、よろしくねっ」

「私は七枝蓬(ななえ よもぎ)、櫻とは同級生で、錬金術師をしているよ。……君は?」


 部室の四人掛けテーブルへ、前方には許斐、左隣には七枝が。後ろと右手には壁と、完全に囲まれるような形で座らされている、二人に比べるとどうしても客観的には平凡に見えてしまう――黒髪ショートの少女が口を開く。


「はいっ、比良坂楓(ひらさか ふう)です。わたし、錬金術に興味があって……」

「オカルト研究部の部長をしている私が言うのもなんだけど。錬金術なんてファンタジーな力、信用しているのかい?」


 比良坂の言葉に、少々驚きの表情を浮かべながら七枝が問いかける。そもそも、錬金術なんてオカルトを本気で信じている人間なんてそれこそ、実際にその力を振るう彼女くらいのものだろうとしか思っていなかったからだ。


 しかし、比良坂楓には、錬金術というオカルトを信じるに値する経験をしている。


「もちろんです。色々とあって、錬金術にちょっとだけ触れる機会があったので」


 ……彼女も彼女で、今はもうあの禁断の術に触れる気はさらさらないが――《破滅の錬金術(ロヴァス・アルケミー)》という、数ある錬金術のうちの一つを扱っていた過去があるのだ。


「それで、ちょうど本格的に錬金術を学びたいなって思っていた所に、説明会でこの部のことを知って、気になって……」

「それならもちろん大歓迎だよ。私に教えられる事なら、いくらでも教えてあげよう」


 とりあえずは見学だけでも、という心構えだった比良坂だったのだが、トントン拍子で話は進み、すっかり入部決定のような雰囲気になる。


 この段階までいくと、今更断るという選択肢は完全になくなったと言っても過言ではないだろう。特に、彼女のような人見知りタイプの少女には。だが、彼女も彼女で入部の誘いを断る理由もない。それどころか、本当に『錬金術師』が存在したことに、表にはあまり出せないでいるが感動してしまっているくらいだ。



 こうして、廃部の危機に瀕した『オカルト研究部』に新たな部員が加わり、錬金術を再び学ぼうとする比良坂は、心強い先輩錬金術師に出会ったのだった。


「ところで、比良坂さん……っていうのもちょっと堅苦しいし、楓って呼んでいいよね。ウチのことも櫻でいいから!」


 フリフリの衣装を纏う魔法少女、許斐が机に手を突っ伏して乗り出しながら言う。


 対する比良坂は、年上かつ初対面という相性抜群のコンボから、つい人見知りを発動しかけるも寸前で耐えつつ。


「わ、わたしの方はせめて先輩付けで呼ばせてもらえると……。それで、櫻先輩、どうしました?」

「錬金術をしたいってのはよく伝わってきたんだけど、魔法少女に興味があったりは――」


 比良坂が入部する事になり、錬金術派が二人。残された一人ぼっちの魔法少女はどうやら仲間外れになってしまうようで悔しいらしい。


「うーん……。何だか大変そうですし、戦うのは流石にわたしには……」

「そ、そっかあ。いや、入部してくれるだけで嬉しいんだけどねっ、魔法少女も少々人手不足みたいだったからさあ」


 だが、比良坂はそもそも運動があまり得意ではないので激しい戦闘なんてもってのほか。それに、そのコスプレ姿は少々気恥ずかしさもあるので――とか言えば真面目に魔法少女をしているらしい先輩に怒られそうなので、彼女は心の中へとしまったままにしておく。


「櫻、フラれた」

「べっ、別に振ったわけじゃ!」

「フラれてないから!」


 つい漏らすように、ぼそっと口にする七枝に対して、ほぼ同時に二人が勢いのままにツッコんだ。そんな二人を見て七枝は、目指す道は違えど、なかなかお似合いのコンビじゃないか――なんてしみじみと思う。

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