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終幕 世界を傍観する存在

 時は比良坂(ひらさか)の合格発表から少しさかのぼり。あの錬金術を巡る戦いから数日後の事だった。


 学校内でも滅多に人が寄り付かない、敷地内外れの草木が雑に生い茂るその場所にて。


「《破滅の錬金術(ロヴァス・アルケミー)》について、教えてくれたのは素直に感謝するわ。けど、一体どこで見つけたのかも想像付かないその知識。そして、アタシの正体まで知っているらしいし。……単刀直入に聞くけれど、アンタは一体、何者なの?」

()()()と同じ事を聞く。流石はお似合いの恋人同士って所だな?」

「……冷やかしは求めていないわよ?」


 明確な警戒心を露わにする、赤髪にルビー色の瞳を持つ少女、神凪麗音(かなぎ れおん)


 その相手は彼女のクラスメートであり、つい先日まではほぼ関わりのない相手であったはずの、長身で金髪の男――天河一基(あまかわ いつき)


 学年中で根も葉もない噂話をされている彼女が言える立場ではないのだろうが、クラスの中でもかなりの変わり者である。いつも明るいが空気が読めず、周囲を思うがままに振り回しまくるお調子者タイプといった所か。


 元々、神凪は比良坂の錬金術について違和感を抱いていたため、色々と調べてはいたのだが。そこへいきなり現れて、今回の一件、その確信を突くキーワード《破滅の錬金術》という言葉だけを告げて勝手に去っていったのが彼だった。


 思い返してみれば、上鳴から聞いた話はあまりに突拍子もなく、半信半疑ではあったのだが……神凪がエルフの少年に連れて行かれた祭壇の場所を、彼が聞いたのもまた同じく天河一基からだったという。


 二つの、それぞれ別の事件を解決する核心部分に関わっておいて、今更『普通の高校生』なんて返答を彼女が求めているはずもなく。それ以外の回答を得られるまでは決して納得するつもりはなかった。


 三日三晩寝ずにでも、どれだけ逃げ出そうと地の果てまで追いかける覚悟で、彼との接触を試みた神凪だったのだが――しかし、対する天河は予想外にもあっさりと。


「『傍観者』とでも名乗っておくかねえ。どうせ今さら普通の高校生を自称したって、納得してくれないだろうしなー?」

「傍観者? 一体、何を傍観しているというの? 適当にそれっぽい事を言えば納得するほど、アタシは甘くないわよ」

「信用ねえなあ。何を、か。そりゃ一つしかねえだろうさ」


 一拍置いてから、彼は――その正体へと迫る道筋にもなり得るであろう彼の目的、そのものを示す単語を口にした。


「『世界』だよ」

「は? 『世界』を傍観? アンタ一体、なに目線で……って、まさかッ!?」

「おっと、流石は《竜の血脈(ドラゴン・ブラッド)》の継承者。察しがいいみたいで助かるねえ。オレはあくまで『傍観者』。世界の行く末を導く必要があっても、この手で直接干渉する訳には行かなくてさあ。面倒な立ち位置だよなあ、まったく」


 直接世界に干渉できない。だから、間接的に神凪へとその()()を伝えようとしたのだろう。ファンタジーな事柄についての知見が広いと信じたうえで。


 そして目論見どおり。世界そのものを傍観する存在と聞いて、神凪には一つだけ思い当たる物があった。


 ただ、それは言葉に出すのも躊躇してしまうほどに。人間なんかとはもちろん、世界でたった一人の《竜の血脈》を継ぐ少女でさえもあまりの格の違いにたじろいでしまう。それほどまでの存在だった。


「だからオレはたまたま出会った御削に、たまたま見つけた祭壇の場所を教えて。たまたま出会った神凪に、たまたま知っていた《破滅の錬金術》という言葉を伝えた。これからもオレは――あくまで『傍観者』として世界を『上』へと導く。それだけだよ」


 神凪はやはり、自分の中の知識と照らし合わせたうえでも信じられなかった。だが、世界単位で物事を見る。それほどまでにスケールの大きい存在など、逆にこれ以外当てはまらないはず。


 天からこの世界を司る使者。つまりは――。


「『天使』……なの?」

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