2.日曜昼下がりの大爆発
――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!
「どわあああああああッ!? ちょ、何何なになにっ!?」
「爆発した、わね……。というか御削、ちょっと焦り過ぎじゃない?」
「神凪が落ち着きすぎなんだよ! すぐ近くでいきなり爆発騒ぎがあったらそりゃ普通焦るだろ!」
日曜日の昼下がり。『前はアタシの家に来たんだから、今度は御削の番でしょ?』と言われた事もあって、上鳴御削は、神凪と二人で他愛もない雑談でもしながらゴロゴロしていた。
流行りの相手をふっ飛ばした時がとても爽快な格闘ゲームをして、遊んでいたりもしたのだが、神凪があまりにも強すぎるせいで一方的な試合が続き、挙句の果てに『弱すぎて飽きてきたんだけど』とか言われてしまって今に至る。
そんな二人きりの時間をぶち壊すかの如く。あろうことか、隣の家が爆発したのだった。突然の出来事に飛び上がってしまった彼は、そのまま爆発音のした窓の外を見て。
「ってか、爆発したのって楓の家だよな? いや、無事だといいんだけど……」
彼がふと漏らしたその名前に、別の女の気配を感じたのか。こんな状況にもかかわらず呑気に床へと寝っ転がっている神凪が、獣のような赤い瞳でギロリと睨みながら口を開く。
「うん? ……誰よその女? 御削とはどういう関係なの?」
「え? ああ、隣の家に住んでる幼馴染だよ。元々親同士、仲が良かったから、自然とその繋がりでーって感じかな」
「ふうん。いや、それならいいんだけど」
それを聞いて安心したのか、神凪は元の穏やかな表情へと戻って。だが、御削はあの爆発がどうしても気になってしまい、複雑そうな表情のままだった。
神凪には悪いと思いつつも、ついに我慢の限界に達してしまった彼は。
「ごめん。やっぱり心配だし、ちょっと様子を見に行ってくる。神凪はここで待っていて――」
立ち上がった彼を追いかけるように、だらしなく寝転がっていた神凪もひょいと立ち上がって。
「いや、アタシも行くわ。いきなり隣で爆発だなんて、何だかキナ臭いし……それに、万が一にでもその幼馴染とやらに、アタシの御削を奪われたらたまったものじゃないしね。その気がないか見定めないと」
「まあ、楓とは別にそんな関係じゃない、本当にただの友達なんだけどな。まあ分かったよ。正直、そっち側に関わる事だと、神凪がいてくれたら正直心強いし」
上鳴の言い放った『そっち側』というのは、言うまでもなく。『ファンタジー』に関わる事柄についてだった。いきなり爆発するなんて非日常、どちらかといえばファンタジーの方が縁深いだろうし。
エルフという存在をこの目で見た事があり、なんなら彼女である隣の赤髪にルビー色の綺麗な瞳を持つ少女、神凪麗音は《竜の血脈》なる血筋を継いでいるらしく、そこらの人々よりはまだファンタジーな事実や現象に理解がある方だとは思っている。
とはいえ、その世界に足を踏み入れてしまったのもつい数日前であり、まだまだ知らない事の方が多いのは当然だ。
そこで、ファンタジーな事柄に対しては上鳴なんかよりも明るいであろう、神凪の知識があれば心強いのも確かだ。付いて来てくれるというのであれば、それを断る理由も特にないだろう。
「ああ、そうだ。幼馴染の――比良坂楓は、ちょっと人見知りな所があるから、あんまりグイグイ行かないであげてくれ」
「ふうん。それはつまり、いざとなったら勢いで押し切ってしまえば――」
「……するなよ?」
上鳴が神凪の秘密を知ったあの日が、状況が状況とはいえああだったので、一応彼女に念のため釘を刺しておいたのだが……あの反応を見るに、不安だ。相手の話を聞かずに暴走してしまうのも、彼女の悪いクセだった。
だが、もしあの爆発で誰かがケガでもしていた時の事を考えると、そうモタモタしてもいられない。二人は、彼の幼馴染である比良坂楓が住む、隣の一軒家へと急ぎ向かったのだった。




