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平凡DEATHゲーム  作者: 月野 十六夜
5/10

第四話 帰れない!?

 楓は今応接室で待たされている。


『ここで待っていてください』


 そうシリルに言われてから十分ほど経っている。

 それにしても立派な部屋だ。

 楓は左右上下をきょろきょろと落ち着きなく見渡す。

 さっきまでの話が話なので落ち着きが無くなるのも当たり前だ。正直なところ、この状況をまだ半分も理解できていない。


「本当に夢じゃないのかなぁ・・・」


 さっきもやったが、楓は自分の頬を力一杯引っ張る。


「イテテ・・・夢じゃないんだ。はぁ・・・私これからどうなるんだろう?帰れるのかなぁ?」


 そう言って再び盛大なため息をついたとき、足音が聞こえ、部屋のドアが開いた。


「お待たせしました、楓さん。王、こちらです」


 シリルは開けたドアの脇に避け、軽く頭を下げた。


「うむ」


 その人物を見た瞬間、楓は反射的に立ち上がった。

 その王といわれた人がただならぬオーラを発していたからだ。

 まだ三十代前半だろうか。そんなに年を取ってはいないように見える。

 キリリとして済んだ茶色の瞳が印象的だ。瞳と同じ色の髪の毛は綺麗に整えられている。身長は180㎝くらいだろう。


「ようこそ、リベラ王国へ。いや、正確にはこの世界へ、かな?」


「はぁ・・・えっと、お邪魔してます?」


 なんて返事をしたら良いんだ?


「まぁ座りなさい」


 そう言って王様は楓の向かい側の椅子に座る。続いて楓も再び座る。


「さて、まずは自己紹介といこうか。私は国王のエイブラム。よろしくな」


「ほ、星原楓です!よろしくお願いします?」


 何でさっきから疑問系ばかり何だ、と心の中で自分に突っ込みを入れる。


「見たところかなり戸惑っているようだ」


「はい」


「うむ、素直な子だ。シリルから大体の話は聞かされたと思うが、私からもう少し詳しく話をさせていただこう」


 エイブラムはコホン、と一つ咳払いをして話し始めた。


「ここはユートピアという世界。人々が理想を求めてやって来る理想郷」


「理想?ちょっと待ってください!平凡に飽き飽きした人達が来る世界ではないのですか?何か話が違うような・・・」


 楓はさっきシリルから聞いた話を思い返す。理想だなんて一言も言ってなかった。


「いいや、どちらも同じことだ。つまりこの世界には平凡に飽きた者たちが求める『理想』があるのだ。その理想を体験してもらう為の世界だ」


「えっ、でもここは平凡だって・・・」


 楓はそう言いながら横目でちらりとエイブラムの後ろに立っているシリルを見る。

 目が合うとシリルはニコッとして言った。


「ええ、平凡ですよ。でもそれはこの世界に元から住んでいる私たちにとってはの話。あなたにとってこの世界が平凡なわけありませんよね?」


 なんだと!?この男自分目線で話していたのか・・・。

 呆れて言葉も出ない。


「・・・それで、私は帰れるんでしょうか?」


 楓はシリルではなくエイブラムに聞く。


「もちろん帰れる」


 それを聞いて楓の顔がパッと明るくなった。

 てっきり帰れないといわれるかと思っていた楓にとっては奇跡とも言える返事だった・・・と思ったのもつかの間。


「物語をクリアしていただければね」


「・・・は?」


 楓の希望は一瞬にして音を立てて崩れていった。


「おや、まさかただで帰れるなんて思ってたんじゃないでしょうね?」


 シリルがクックックっと肩を震わせて笑う。

 楓は頭の線がブチブチと切れていく感じがした。この男さっきから人の不幸を餌にしているに違いない。


「これ、シリル・・・。いきなりだが、ゲームをしたことはあるか?」


「はっ?えっ・・・と?」


 いきなりの訳の分からない質問に線が切れた楓の頭に、今度はハテナマークが幾つも浮かび上がる。


「ゲームだよ、ゲーム。それもRPGだ」


「あ、あります」


「そういうことだ」


 はい?どういうこと?


「つまりだ。君にはRPGの主人公をやってもらう」


「えっ・・・ええー!!」


 RPGとはロールプレイングゲームのこと。ゲームの主人公がモンスターを倒したり、仲間を集めたり、冒険して物語を作っていく。

 話についていけず線が切れて、ハテナマークが浮かんでいる頭が今度は脳がグツグツ煮えたぎる感じがした。


「あなたにはこの世界で冒険をしてもらう。そして一つの物語を完成させてもらう。それがクリアできなければあなたは帰ることはできん」


「そうですか・・・」


 もう何もかも驚かなくなってきた。思考はショート寸前だ。


「物語の結末だけ私が用意しよう。そなたにはイーオンストーンという幻の石を探してもらう」


「イーオンストーン?」


「その石はどんな願いでも叶えてくれる。ただし一つだけ。その石を見つけた暁には帰りたいと願うが良い」


「えっ?あの扉からは帰れないのですか?」


「残念だがあの扉は一歩通行だ」


 つくづく不便だ。


「さあ旅立つのだ。そなたに最初の仲間を授けよう。シリル・バクスターだ」


「ええぇぇぇーーー!!!」


 楓は思いっきり嫌な顔をして飛び上がる。


「よろしくお願いします」


 シリルは最初と変わらない笑顔を楓に向けた。

 拝啓お父さん、お母さん・・・しばらく旅に出ます・・・。

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