第二章 -虹ー 1
私は突然の父の死を受け入れることが出来なかった・・・
だって・・お父さんが死ぬわけがない・・・そう思っていたから・・・
どんな時でも私の味方でどんな時も私を守ってきてくれた・・・
お父さんがいなかったら・・私は私でいれなかった・・・
突然の悪夢は私を狂わせた・・・
そして何もかも歯車が音を立てて壊れていくような気がした・・・
「虹」 -柴田 淳-
空が紅くても 虹が黒くても
そばにいてほしいの・・・
ほぉら見て 私のすべてを
こんな顔で 頷かせてきた
この世で頼れるものがあると言うなら
今ここで見せてよ
信じるこころさえ いつか
自分を騙していると
あなたはまだ気付いていないのね
こんな私、責められない日がくるから
よぉく見て 私のすべてを
こんな両手で 手に入れてきたの
あなたの信じてるもの
それで私は 壊されてしまったの
愛とかこころというものくらい
不確実なものはない
永遠というものがあるなら
ねぇどうして?
こんな私になってしまうの?
くだらないものに夢見て
時を越え微笑みかける
若き日の私の言葉を
つぶやいた夜
空が紅くても 虹が黒くても
そばにいてほしいの・・・・
父が私に隠していたこと・・・それは私の為を思い時を見て伝えようとしていたことだと後から知った・・
だけど、その時の私は受けることも出来ずにただ・・ただ・・哀しみの底へ墜ちた・・・
私だけが辛いのではない・・そう考えれなかった・・・
ただ、ただ・・哀しくて・・哀しくて・・・世界が終ってしまえばいい・・・そう思った・・・
「生きる」という事に絶望と嘆きしか感じれなかった・・・
だけど・・父が最後の最後まで私の事を気遣い投げかけた言葉は・・・
「人生の最後に後悔しない生き方をしろ」と言っていたような気がする・・・
ひとみはどう頑張ればいいの?
どうしろって言うのよ・・・お父さん・・
お父さん・・・
ひとみを一人にしないで・・・・
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父の死を目の当たりしたひとみは病室で倒れれてしまいそのまま数日間の入院を余儀なくされた、元々の病気の兼ね合いもあり主治医がそう判断した
入院中、ひとみは食事は殆ど取らずただ病室の窓から外を眺めるだけだった・・・
抜け殻のようになり話しかけても返答すらする事はなかった
主治医はひとみ自身の体の事もあり食事をとらないのならばと点滴を行った、いつもなら少し恐がりながらも慣れた風に話すひとみだったが、父の死を迎えてからは無表情でまるで体に力が入ってないような感じで手をだらんとさげていた・・・
『今は仕方がない・・だが、いつもまでもそのままではいけないよ、お父さんの為にも君は元気に健康に過さないとダメなんだ。今の君を見てもお父さんは喜ばないぞ・・・』
主治医はそう言い、病室を出て行った・・・
「・・・・」
誰の言葉も心まで届かなかった・・・
それから数日後、ひとみは体調的には問題ないということで退院をした、だが、自宅に戻っても生きる気力が抜けているような感じだった・・・学校に登校する事もなく部屋に閉じこもったままだった・・・
そんなひとみを見て家族は出来るだけ気が紛れるようにひとみを気遣った、家族の中でも幸人(兄)は父親が亡くなったことで自分がその役割をしなければならない・・強くそう思っていた。
ひとみだけじゃない、母や妹(亜衣)の為にも今までのようではなくて家族を守るという強い意志を持たなければいけない。きっと父さんはそれを願い俺に託したはずだ・・・
小さな頃、父が俺に言った・・・
「幸人、男って言うのはな、ここぞ言う時に力を発揮できるようにしなければならない」
「うん」
「そして、家族を守るんだ」
「うん」
「父さんがもし死んでしまったら、それはお前の役目にかわる」
「お父さん死ぬの?」
「人間はいつか必ず死ぬだろう(笑)その時の話だよ」
「じゃあ、まだまだ先の話だね!」
「そうだな(笑)、お前ら残して父さん早死にするわけにいかないからな!」
「そうだよ!」
「幸人、頼んだぞ。男と男の約束だ女どもには内緒だぞ!」
「うん!」
小さい頃によく家族で行った小高い丘のある公園の野原で二人でこっそり話した・・・
「父さん・・早過ぎるじゃないか・・・俺だって・・まだ父さんから学びたいことが沢山あったんだ・・・でも・・俺は約束を守るよ・・男だからね・・・」
幸人は父親との約束を思い出していた、そしてひとみの部屋の前に立った・・・
「コンコン」
『ひとみ、生きてるか?』
幸人はふざけるように声を掛けた
『・・・』
『入るぞ』
「ガチャ・・」
幸人はひとみの部屋のドアを開けた
ひとみは布団にくるまりベットに蹲っていた・・・
『いつまでそうしているつもりだ?』
『・・・』
『ひとみ、気持ちはわかるよ・・・今は好きなようにしててい、でもな・・皆お前を心配してるのは忘れるな・・母さんも亜衣も学校の友達も・・・・父さんもな・・・』
『・・・・』
『皆、頑張っているんだ。本当は俺だって泣いて騒ぎたいくらいだ・・・でもな、約束したんだ家族を守るってな・・・だから俺は泣いてられないんだ。父さんとの約束だからな・・・』
『約束・・?』
布団の中からひとみのかぼそい声が聞こえた
『あぁ、お前も何か父さんと約束をしてないのか?』
『・・・言いたくない・・・』
『そうか・・なら言わなくても、でも父さんの子供ならそれを守れ・・・』
『・・・出て行って・・・』
幸人は何も言わずに立ち上がった・・そしてドアの前まで言った時に一言いった
『たまには気晴らしに外でも出てきたらどうだ・・・昔、家族で行った公園とかさ・・・』
『・・・』
「バタン」
幸人は部屋をあとにした・・・・
多くを語らずに自分を気遣ってくれている兄の優しさを感じた・・・
でも、どうしても前のように振る舞う事が出来ない・・ファザコンとか思われてもいい・・
甘えん坊だと思われてもいい・・・
お父さんはいつも私の傍にいて笑ってくれていた・・・もうその笑顔を見ることはない・・・
今はそだけで押しつぶされそうなくらい苦しいの・・・皆だって(家族)辛いのはわかっている・・
でも、私の病気のせいで一番時間を取らせ一番神経を使わせたのは事実・・・
お父さんだけではない家族にもどんな顔して顔を合わせたらいいかわからない・・・
皆、私の事を心の中では疎ましく思っているんだ・・・お前さえ健康であればお父さんは・・・って・・・
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「約束・・・」
兄が父とかわした約束の話をしていた・・・
ひとみもお父さんと何か約束してたんじゃないのか、お父さんの子供ならそれを守れ・・・
兄の言葉が心の中に残った・・・
ひとみは布団をはいだ、そしてベットに座り考えた・・・
「行ってみよう・・・」
誰にも気づかれないように家を出たかった・・・家族にどんな顔して顔を合わせればいいかわからなかった・・
静かに着替えをしてこっそり階段を下りた、家にはいつも母が居る、そして今日は仕事が休みなのか兄も居た
姉は姿は見えなかっった多分学校だろう、気づかれないようにしないと・・・
静かに玄関を開け外へと出た・・・
久しぶりに出る外の景色はどこか懐かしい感じがした、少し肌寒く風が冷たかった
ひとみは兄が言っていた「公園」へと向かった・・・何故かそこに行くと父と会えるような気がしていた・・・
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父が死んでも世の中の動きは何も変わることなく、いつも通りの日常が繰り返されている・・・
当然と言えば当然の事、人の命とは儚くも愛おしいもの・・・
「ひとみが死んでも世界は何も変わらない・・・」
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