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勇者:????(仮)  作者: ちきん
第二章
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照らす光と伸びる影

久々にリーネとのイチャラブ回を書こうとしたのに、どうしてこうなった……。

「――今日はこの辺にしておきましょう」


師匠のその一言を聞き、手にしていた短剣をしまい、背伸びをする。今まで体勢を低く保っていたためか、背骨が軽く音を立てる。


「今日は随分と早い上がりだな。この後何か用事でもあるのか?」


今の時刻は太陽が天辺から少し下がり始めた辺りだから二時位だろうか。普段は日が朱く染まるぐらいの時間までやっているから、やっぱり早い。


「ええ、この後少しばかりいかないといけない場所があるのよ。だから、今日の稽古はこれで終わり。ちょうどいいからあなたは休みなさいな」


「休むって……俺はそんなに疲れていないぞ」


一日の疲れはその日の内に解消しておいて、翌日には残さないように心掛けている。

勿論、怪我のことを考慮してでもあるが、普段からそうしておくことで常に最高の状態を維持しておくことができるからな。


「じゃあリーネちゃんでも構ってあげなさい。最近ヒアスと話す機会がないって拗ねていたわよ」


そういえば、訓練を始めて以来リーネと会話した回数は数えるほどしかなかったな。

彼女も彼女で何かしらしていたようだったから、邪魔しないようにと少し距離を置いていたのがどうやら裏目に出ていたようだ。


「……そうだな。じゃあそうさせてもらうか。リーネがいいって言ってくれればの話だけどな」


「あの子なら絶対に快諾してくれるわよ。……あぁ、もう行かないとヤバい時間になってきたわね。じゃ、ひとまず行ってくるわ」


懐から取り出した時計を見て、踵を返し、走り出す。


「行ってらっしゃい」


そんな師匠の背中に向かってその言葉を放ち、彼女の背中を見送る。


「……さて、とりあえず戻るか」



「リーネ、いるか?」


だだっ広い廊下にいくつも並ぶ扉の内の一つを叩き、人の有無を確認する。

しかし、相変わらずここは無駄に広いな……。この部屋の前にたどり着くまでにそれなりに歩かねばならず、少しばかり面倒だ。まあでも、いつの間にか城の中に入るのに一々許可証を見せずに、顔パスで入れるようになったのはいいことだな。……まさか短い人生の中でこんな経験を体験しようとは。本当、人生何が起こるか分からんな。


「――ヒアス!?す、少し待っていてください!」


中から少し慌てたリーネの声が聞こえてくる。……どうやらタイミングが悪かったようだ。


「いや、忙しいんなら無理しなくていいぞ。大した用事もないしな」


「いえ!忙しくなんて全然ないです!むしろ暇過ぎるくらいです!暇暇です!」


テンパっているのか、よく分からない発言をするリーネ。そして、その言葉の後ろで様々な音が聞こえてくる。

大方、部屋の荷物の整理でもしているのだろう。別に俺相手にそんな配慮は必要ないんだけどな。まあ、

折角リーネが手厚くもてなそうとしてくれているんだ。暫く待つとするか。


「――は、入ってきていいですよ」


俺がドアをノックしてから四、五分後、漸く入室の許可が出る。少しばかり息切れをしているようだが、本当に大丈夫か……?

まぁ、お許しが出た以上、ここに突っ立っている必要もないし、部屋に上がらせてもらうとしよう。

扉を開け、室内へと足を踏み入れる。部屋の様子は、あれだけバタバタとしておきながら綺麗に整理整頓されており、不快に感じる点は一切なかった。


「ようリーネ。こうしてゆっくり話すのは久しぶりだな」


ソファの隣に立っている少女に話しかける。というか、ソファに座っていても別に構わないのに。そういうところは相変わらずだ。恐らく、下手げに座るよう促しても拒否するだけだ。ここは上手い具合に誘導する必要があるだろう。……そこまでして座らせる必要性は全くないが。


「そう、ですね。訓練はどうしたんですか?」


「今日は師匠が用事があるからって早く上がったよ」


俺が特訓を頼んでから、毎日のように付き合ってくれているんだ。こういう日があっても別におかしくはない。というより、始めてから今までの間になかったことが不自然であったのだろう。


「あっ、そうなんですか」


「そうそう。それで、ちょっとリーネに会いたくなったからここに来たんだ」


本当は師匠に言われたからなんだけど、リーネと会いたくなったというのも本心だ。リーネが醸し出している雰囲気は何となく心地よいからな。彼女からはそういったフェロモンでも出ているのだろうか?


「えっ、あっ……嘘でも嬉しいです……」


俯いてそんなことを言うリーネ。その頬は少し赤くなっている、気がする。

たしかに、自分の発言をよくよく思い返してみれば、結構クサいことを言ってしまっていた。これは少しばかり恥ずかしいな。仕事で潜入先の女性にちょっかいを出す行為が、どうやら癖になっていたようだ。これは早めに改善しないとリーネに要らぬ考え事をさせてしまうことになるか?……いや、自惚れ過ぎだな。


「別に嘘じゃねぇよ。リーネ相手には嘘はつかないって決めたんだ。雇用者でもあるが、俺の初めての友人らしい友人だからな」


「え、えぇ……そうですね……」


俺の言葉にリーネの表情からは照れが消え、しょんぼりとしたものになる。それが俺の無駄な友人押しによってのものなのかどうかは分からないが。まぁでも、リーネには俺みたいな浮浪者とはくっついてほしくはないからな。立つかどうかも分からない俺とのフラグも、予め潰しておいた方がいいだろう。……これも俺の勝手な願望だがな。


「ん、お茶が切れたな。仕方ない、淹れてくるか」


減ってきたカップの中の紅茶を注ぎ足そうとしたら、途中でティーポットの中身が空になってしまった。

……リーネの紅茶を飲む頻度が少し高いかなとは思っていたが、どうやらそれは事実であったようだ。


「あっ、私が淹れてきます!」


そう言って俺が手にしているティーポットに手を伸ばすが、俺はその手を引っ込める。


「いや、俺がやるよ。リーネは大人しくくつろいでいてくれ」


そう告げ、リーネの返事を待たずに席を立ち、紅茶を淹れに行く。

リーネはこうでもしないと自ら面倒くさいことを進んでやり始めるからな。ここは多少強引に行かせてもらおう。



「――どうぞ、お入りください」


「ありがと、あなたは元の場所に戻っていいわよ」


分厚い鉄の扉を開けた兵士は一礼し、すぐさま立ち去る。少しばかり早歩きで。

今すぐここから離れたい気持ちで頭の中がいっぱいだったのにもかかわらず、仕事ゆえに動けなかったのだろう。

あたしはそんな兵士を尻目に、薄暗い部屋の中へと足を踏み入れる。そして、鉄格子の目の前で歩みを止め、中にいる人物へ目を向ける。


「よう、先輩。最近よく来るじゃねぇか。ニートにでもなったのか?」


「残念ながらまだバリバリの現役よ。そういうあなたこそ、引き籠りじゃない。一日中そんなところにいるんだもの」


「オレが引き籠り?ハハッ、鎖に繋がれてまともに身動きが取れない引き籠りなんていねぇよ。それに、オレは外に出たくてウズウズしてんだ。引き籠りを外に連れ出す要領で出してくれよ」


「ごめんなさい、鎖に繋がれた引き籠りを外に連れ出す方法なんて知らないのよ。何処の本にも書いてなかったし」


「そりゃそうだろうなぁ……」


「……それで、本命は何だ?まさか世間話に花を咲かせようとしに来たわけじゃねぇだろ?」


薄暗闇の中に真紅の点が二つ、鈍く光る。


「あなたのその瞳、今になっても変わらないのね」


その鮮やかな色、まるで人を狂わせる魔性の宝石のよう。


「そうなのか?自分の顔なんてここ十年くらい見てねぇからな。目の色なんて知らねぇよ」


「でしょうね」


「つーか本当に何のようだよ。まさか本当に世間話をしにきたのか?だったらさっさと帰れよ。オレは独身アラサー女の寂しさを紛らわせるためのお人形じゃねぇんだよ」


「……あなた、魔族の生き残りがいるかもしれないって噂知ってる?」


相手の発言に少々カチンときたが、グッと堪えて本題に入る。


「噂ぁ?長年こんな所に閉じ込められているオレがそんなこと知ってると思ってんのか?」


「いえ、知らないのならそれでいいのよ」


相手の態度に変な所はない。つまり、嘘を吐いていないか嘘を隠すのが上手いのどちらかということ。こいつにそんな嘘を吐くスキルはないし、前者の方であるのはほぼ間違いない。


「ただ、噂の生き残りって奴の容姿の内容があなたに似ているのよ」


「へぇ、オレにねぇ……」


「まぁでも、所詮噂の域を出ない話よ。それに、魔族の生き残りがいようがいまいがそれほど危険視する必要性はないと思うのよ」


「ああなるほど。先輩はそんなどうでもいいことを仕事だからって調べているのか。面倒くせぇな。やっぱオレニートでいいわ。多少の退屈くらい我慢してやる。それに……」


「それに、なんなのかしら?」


「いや、そろそろ地上(ウエ)でなんか面白そうなことが始まるみてぇだから、少しは退屈を紛らわすことができるかなって。まっ、直接目で見て、直接触れて堪能できないのは残念だけどな」


「あんた……それ誰から聞いたの……?」


「誰からも聞いちゃいねぇよ。そもそも、オレと会話してくれる奴なんて先輩くらいしかいねぇからな。ただ、感じるんだよ。地上(ウエ)でのうのうと暮らしている連中の緊張感や焦燥感なんかがなぁ。ここ最近はそれが異様に高まってるから何かあると踏んだだけさ。いやぁ、(ハリツケ)生活も悪くねぇなぁ。こんなクソみてぇな能力が開花できるんだからよぉ!ヒャーハッハッハ!」


口を大きく開けて笑うこいつの瞳には、薄暗い中でも分かるほど、狂気の色が滲み出ていた。



「――ふぅ……」


淹れたばかりの紅茶を飲み、一息つく。茶葉がいいのか、あまり紅茶を入れたことがない俺でもそれなりの香りと味は出せていた。


「そういえば、傷の方は大丈夫なんですか……?」


リーネが少しばかり訊きづらそうにそんなことを訊ねてくる。別に気を遣う必要なんて一切ないのに……。


「ああ、問題ないよ。師匠もその辺は見極めて特訓に付き合ってくれているしな」


訓練初日を除いては、の話だが。あの時の師匠はいつにもまして本気だった。いや、何かに対して必死だったようにも見えたな。昔に俺と同じようなことを口走った奴がいたんだろうか?……まぁ、これはあくまで俺の勝手な憶測だけどな。実際はただ虫の居所が悪かっただけかもしれないし。


「それより、リーネの方はどうなんだ?現状だと、ボルネスに渡って火の鏡を回収するのは少々無理があるぞ?」


開戦直前のこの状況では、渡るのはまず不可能だろう。少なくとも、戦争が開始してから暫く経ってからだろう。だが、相手側が動いていることを考えると、悠長に待っている時間はなさそうだ。

現在、こちらにある四鏡は『水』と『地』の二つ。それに対して、相手が所持しているのは『風』のみ。だが、ボルネスにルーンハイトがいたことを考えると『火』も手に入れている可能性が高い。となると、わざわざ無理をしてボルネスに渡る必要はないか……。こちら側としては四鏡を一つでも相手方に渡さなければいいんだからな。とは言っても、こっちが多く持っている方がいいのには越したことはないが。


「そうですね……。火の鏡を捨て置くわけにはいきませんが、こればっかりは致し方ありません。ここは戦争がいち早く終結するために尽力しましょう」


「……戦争に参加する気満々なんだな」


正直、そんなことを言い出すだろうとは思っていたけど。


「いいえ、本当は戦争なんて今すぐにでも止めるべきだと今でも思っているんですよ。でも、私は無力ですから、せめて少しでも多くの人が傷つかない内にこの戦争を終わらせたいんです」


口では前向きなことを言っている彼女だが、その瞳にはこれから起こることへの恐怖が滲んでいた。

俺はそんな彼女に対して尊敬の念を抱くと共に、神子としての在り方に振り回される姿に痛ましさを感じていた。魔王の件は信託を受けた身としてやらねばならないという責任感があるのかもしれないが、今回の戦争は神子の使命とは全くの無関係だ。それでも自らかかわっていこうとする彼女の姿は、眩しすぎて目も当てられないくらいに痛々しかった。

本当、年下とは思えないな……。


「分かった。リーネがそこまで言うなら俺からは何も言わない」


立ち上がってポケットにしまっていた紙を取り出し、机の上に置く。さっきまでリーネに手渡そうか迷っていた代物だ。


「これは……?」


机の上の紙を見て、リーネが首を傾げる。そんなリーネを尻目に、俺は扉へと歩みを進める。


「リーネが『本当に』戦争に出る気ならそれを見てくれ。ただ、それを開いたなら戦争中に何があっても後悔はするなよ」


扉の前で立ち止まってそう告げ、部屋を後にした。

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