扇風機と正午過ぎ
ラジオが、縁側の向こうからかすかに聞こえてくる。地元のローカル局で、聞き慣れた少し古びたイントロと、抑揚のないパーソナリティの声。軽やかな曲が流れてはまた別の曲へと移る。その合間には、興味のそそられないどうでもいい話ばかりが繰り返されていた。
少年は漫画を片手に、うつ伏せのままページをめくっている。指先がぺたりと紙に貼りつき、気づけばスナック菓子の油で指が光っている。無意識に半ズボンの脇で指をぬぐう。隣には空になった袋が転がり、太陽の光を反射していた。
部屋に溶け込む扇風機の音。パタパタと鳴りながら、羽が空気をかき分けていく。その機械的な音を聞いていると、時間そのものが少しずつ緩んでいくような気がした。何もかもが手の届くところにあるようで、どこか遠い出来事のようにも感じられるそんな正午過ぎ。
「昼ごはん、まだ食べてないでしょ?」
台所の方から母親の声がかすかに響く。その言葉に反応しようとしたが、声は喉元で止まった。少しだるいような、面倒くさいような気持ちのまま、ただ目を閉じて本をそっと顔に乗せてみる。
「いらなーい」
窓の外から、風に乗って蝉の声が届く。真夏の空はただただ青く、入道雲が大きく膨らんでいた。そその音に包まれながら、少年は顔に乗せた本をどかし、息をひとつ深く吸うと部屋の空気がほんの少しだけ澄んだような気がした。




