#2 君はワーウルフ
会社の同期・島崎は人狼らしい。
彼の人懐っこくて、律義で真面目な所? それとも、ジムで鍛えられた体? いや、私がこっそりお菓子を食べてると、嗅ぎつけて来る所かもしれない。
犬らしさしか、出てこないんですけど?
けど、みんな人狼人狼とうるさい。ハロウィンも近づいた満月の夜、私はその真相を確かめる事にした。
「いや~美味しかった♪ 島崎、ありがとう。付き合ってくれて」
「いいってことよ。大切な同期・赤城様の誘いなんだから」
ほろ酔いの私達は飲み屋街を歩いていた。頬に当たる夜風が冷たくて気持ちいい。建物の隙間から見える満月は、白く輝いていた。――さて、ここからが本番だ。
「島崎。月、綺麗だね?」
「ええっ!?…………あ、ああ。手が届きそうだな」
人狼……狼男と言えば、満月の夜に変身するのがセオリーだ。私はドキドキしながら、動揺する彼を見つめた。さて、島崎君。変身しちゃう?
「まさか、赤城がそんなこと言い出すなんて……意外とロマンティックだな?」
島崎はニカッと笑って私を見た。不意打ちの無邪気な笑みに心臓が跳ねる。それに……あれ? 変身しない。
まぁ、それもそうか。人間が狼に変身する訳無い。じゃあ、なぜ? 狼――……まさか、性にだらしないとか!?
「ま、まあねっ! そ、それより……島崎、最近どうなの?」
「どうって?」
「その……彼女とか?」
「居たら、サシ飲みしないよ」
私は大きく安堵の息を吐いた。よかったー。私の知る真面目で律義な島崎だ。ついでに『紳士』って項目を付け足さなきゃ。
「何だよ。そのリアクション。やっぱり……」
「ねぇ、何で『人狼』って呼ばれてるの?」
「はぁ?」
「最近みんな、島崎の事そう呼んでるじゃない?」
「今それ重要?」
「うん」
「ええっ!? 笑うんじゃないぞ?」
「笑わない」
「この前、課の男連中とオンラインで人狼ゲームしたんだ」
「それで?」
「俺、弱すぎてすぐに人狼として吊られるんだ。それに赤……あっ、笑ったな!?」
「ごめん……くくっ……嘘つけないもんね。やっぱり島崎に狼は似合わないよ」
何とも彼らしい理由で安心した。恥ずかしそうな島崎がちょっとかわいい。
「は? 俺だって狼になりますけどぉ? ほら、酔っ払い。帰るぞ」
「ええ~? まだ飲み足りな~い。明日休みだし、島崎の家で2次会しようよ~」
彼の空気が変わった。熱の籠った目で私を見つめる。
「……本気で言ってる? 俺、赤城のこと喰っちまうかもしんねーよ?」
「島崎になら、食べられてもいいよ?」
「煽るなよ、バカ……」
彼の唇はレモンの味がした。
島崎は優しい人狼だ。




