エピローグ「Q.妖怪とはなにか?」
「……カマイタチ……、カマイタチぃ……。お、コレじゃね?」
【物怪町立図書館】のロビーにて、関連キーワード検索で書籍検索端末をいじっていた富士野が画面を指さす。
液晶には『~闇に蠢く怪しき化け物~ 二ホンの妖怪一〇〇選』と書かれた、おどろおどろしい二ホン画の表紙が表示されていた。
俺たちはさっそくその本を見つけだし、読書コーナーで顔を突き合わせた。
Q…妖怪とは?
A…古来より伝承される、人の理解を超える『奇怪で異常な現象その物』又は『それら引き起こす不可思議な力を持ち合わせた、物理的、精神的に実害をもたらす物』の総称。
幽霊類が死後の生命エネルギー体であるのに対し、妖怪は生きながらにして超常的能力を会得した動植物、あるいは概念の具現化した存在である(例:雪女、猫又、西行妖など)。
また人々の信仰による存在である『神霊、神獣』も、本質的には妖怪に近い。
本誌は、二ホン国内でも目撃例の多いポピュラーな妖怪を一〇〇紹介するものである。
「はぁ~、これがあの怪物――妖怪の正体って訳かぁ……」
椅子にもたれかかり、富士野はペラペラと本の中身を流し見る。
そして件の『カマイタチ』のページを発見すると、再びテーブルに開いて見せた。
Q…カマイタチとは?
A…イタチ類のような見た目に両手、あるいは牙が鎌状となっている妖怪。
風を操る力があるとされおり、突然風が吹いて、まるで刃物で切られたかのような傷が出来ていたら、それはカマイタチの仕業だろう。
特質すべきはその傷口。
カマイタチによる裂傷は痛みが無く、血出もないとされている。
しかし夜が深まるほどにその傷はひとりでに深まり、ついには魂をも傷つけ死に至らしめるという。
「……斬られたのが、生身の腕じゃなくてよかったな?」
解説文を読んだ富士野は、俺の新調された右腕を見て言う。
俺は「確かに」と右腕をさすりながら、三日前の恐怖体験を思い出した。
あの後、あえなく警察のご厄介となった俺は、取り調べに対して事の顛末を説明。
幸いにして、元々トランクを盗まれた事が原因である事と、俺が悪い訳でも無かったこと。
何より理解ある取調官だったお陰で、処罰は『厳重注意』と『三日間自宅謹慎』に留まった。
しかし大方の予想通り学校には連絡が行ったようで、学校→母さん→雅美さんという緊急連絡が回る事態に。
迎えに来てくれた雅美さんに思いっきりされたハグの方が、カマイタチに襲われた時よりも全身へのダメージが大きかった。
トランクの方はカマイタチの一件で『危険だから』と雅美さんが届ける事となり、俺は結局、青髪さんとの直接対話は叶わなかった。
病院で治療を受けた富士野も五体満足と、結果だけ見れば御の字。
謹慎明けの今日は、結局俺たちを襲った存在が何だったのかを知るために図書館に来たという訳だ。
「お前が一目惚れしたっていう黒髪美少女は、カマイタチを捕まえる為に来たのかねぇ?」
富士野が『黒髪美少女』と言った途端、俺の脳裏にあの少女の顔がフラッシュバックする。
実を言うと、俺は青髪さんと話せなかった事より、今はあの子とちゃんと話せなかったことの方が残念でならなかった。
俺だってお年頃だ、今まで『ガールフレンド』と呼ぶに値する女性が一人、二人いたさ。
しかし彼女たちには本当に申し訳ないが、それはどこまで行っても『友情』の延長線上であり、本当の意味での『恋愛感情』というものを感じた事はなかった。
しかし、あの子は何か違う。
心の奥底から湧き上がる凄まじいまでの愛しいさ。
見つめ合ったあの瞬間は、まるで時が止まったかのような感覚だった。
せめて名前くらい、聞いておけばよかったと後悔が尽きない。
「おーい、宇治さんや、現実に帰ってらっしゃい」
ぼんやりと逃避していた意識を、富士野のチョップで引き戻される。
「同い年っぽかったんだろ? だったらワンチャン、学校で再会できんじゃね?」
「え、マジで!」
俺はテーブルから身を乗り出して、思わず大きな声を上げてしまった。
周辺の人々が一斉に俺たちを見て、怪訝そうな顔を浮かべている。
明らかな非難の目線に、俺は「すいません……」と恐縮しながら椅子に座りなおした。
富士野は苦笑しながら「恋は盲目ってか?」と呆れた様子だった。
「この町の学校って言ったら、俺たちの行く【物怪対霊専修学校――モッコウ】くらいだからな」
「また会える可能性があるのか……。何か、学校始まるのが果然楽しみになって来た!」
「色ボケ少年、学校行く目的が変わってるぞー」
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「――マルちゃん、わざとトランク置いていったでしょ?」
物怪町の某所、某店内。
トランクをカウンターに置いた桃生 雅美改め、雅美は怒ったように言う。
それに対して女店主、マル・ローセスは「さぁ~て、どうだろうなぁ~」と新聞から目を離さずに答えた。
雅美はあきれた様子で額に手を置いて頭を振り、気だるそうにため息を吐く。
「……どうするの? 封印解けちゃったから、全部逃げ出しちゃったみたいだし?」
「カマイタチを相手に生き残れたんだ。あとは瑛茶たちに任せとけって」
「でも……、あの子とも、出会っちゃったのよ? またあんな事になったら、今度こそ二人は、」
「……だからだよ」
マルはようやく新聞を閉じて、置かれていたトランクを指先で突いた。
するとトランクはひとりでに全開になり、中から容器に入った『真っ赤な宝石』が浮かび現れた。
カウンターに着陸したそれは宝石らしく透き通って入るのだが、やや黒っぽく古ぼけた印象で、どこか濁っているようにも見える。
マルは「どう思う?」と雅美に宝石の感想を訊ねる。
「鉱物に対して抱く感情としては妙だけど『元気がない』わね」
「だよなぁ? ‥やっぱりさ、駄目なんだよ……。忘れたままじゃ」
『――おい……、マル……』
開きっぱなしのトランクから、今度は一匹の獣がヨタヨタと這い出てくる。
野球ボールくらいのサイズ感、両手はまるでオモチャの様な針が生えている。
「こっぴどくやられたなぁ、カマイタチ?」
マルは獣――妖怪 カマイタチを手に乗せ、ケラケラと笑う。
『殆どの『霊力』を持っていかれた……。あんなのは二度と御免だ』
「よく言うぜ。元はと言えば、お前が逃げ出そうとしたのが悪いんだろ?」
『……フン』
「んで、実際に戦ったお前からの評価は?」
マルの質問に、カマイタチは腕組みをして『小娘は問題ない』と、自身を蹂躙した少女を評価する。
『でも、小僧は駄目だ。護り一辺倒で、戦い方を知らな過ぎる』
「まぁ、そこは今後に期待って事で。学校が始まれば、悪霊を相手にする機会も出来るし」
『気の長い話だ……』
自分たちの知らない所でこんなやり取りがあった事を、瑛茶たちは知る由もなかった。
《完》
ここまで読んでくださいました皆々様、こんにちは、こんばんは、おはようございます
(自称)アマチュア小説家の335です
このたびは「物怪町怪異BUSTER'S ①」を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
読んでみた感想は如何だったでしょうか?
「楽しかった」「つまらなかった」「クソが!!」など、少しでも感情を揺り動かせたのなら幸いでございます
今作は、元々同人イベント用に書き下ろした完全新作シリーズの第一巻でしたが、一冊も旅立たず、立ち読みすらしてもらえずに今日に至った作品
※見本誌としては提出しましたけどね
つまり実質、このサイトで公開されたことで、初めて日の目を見ることが出来ました
「魂すり減らし気合を入れた作品が読まれもせずに消える」という事態を避けられる現代は、創作家にとっていい時代ですね
さて、本作のテーマはタイトルからも解る通り「怪異との戦い」となっています
今後各予定の『②』以降でも一作につき、一怪異と対決しつつ、主人公たちも成長していく予定です
ただ、あまり重た過ぎず、かといって軽くもなり過ぎず……、安心して読める作品を目指してまいります
勿論『世界暦構想シリーズ』としての繋がりもしっかり描いていくつもりです
最後の方で登場した『赤い石』の正体は、私の他作品や、同人誌化している作品を読んでくださった皆様なら察しがつくでしょう
現在「なろう」で公開している他作品を含めて、これで登場した『宝石』は3つ目
全てがそろった時に『世界暦構想シリーズ』は、また新たな時代を迎える事となるでしょう
それはずっとずーと先の話ですがね……
それではこれにて、いったんペンを置くとしましょう
また何処かでお目に掛かる日を夢見て……
以上、これまでのお相手は335でした!




