第12話 『新たな刺客⑦』
「···ん?···あ、れ?」
私はソファーの上で眠っていた。
考えを巡らせてるうちに二度寝してたようだ。
体を起こすと、ジュー、と心地のよい何かが焼ける音が聞こえた。
「あ、礼ちゃんおはよ」
「おはよ···、あれ?私二度寝しちゃってたの」
「ったく。だめですよ?礼ちゃんはアイドルなんですし。ちゃんと寝るときはベッドで寝ないと。腰とか痛めたら踊れなくなっちゃいますよ?」
「ご、ごめん。まさか二度寝しちゃうなんて思いもよらなかったからさ」
「ふふっ。テレビ見てて二度寝ってかわいいですね。もう少しで朝ごはんできますので顔洗っちゃって下さいね~」
「うん。解ったよ」
私は促されるままに洗面所で顔を洗った。
そして、多少のメイクを施す。
時計を見ると時刻は9時17分。
そのまま私はトイレに入った。
そこで軽く咳払いをする。
これは私とミドリの間で決めた唯一の伝達手段である。
午前9時台にトイレで咳払いをする。
すると、何か情報があれば天井の換気扇口から紙が落とされる。
その方法で以前私は紅軍の操心魔法情報を手に入れた。
···今日も情報なしか。
念のためもう一度咳払いをするが、変化なし。
そのままトイレを後にした。
◇ ◆ ◇
朝食後、私はただボーッとテレビを見ていた。
勿論、本当にテレビを見ているわけではない。
頭の中では激しい考察が行われていた。
その時、私にヒメアが寄りかかってくる。
「ねー。礼ちゃん~」
「ん?どうしたの?」
ヒメアは甘い声で私の名前を呼ぶ。
まただ。
ヒメアは決まって朝、こういう甘え方をしてくる。
そう。
同棲している間、毎日、決まってこの時間に甘えてくるのだ。
きっと何か裏がある。
「れーい~。ね?···んっ!」
ヒメアは目を瞑った。
そして、僅かに唇を付き出す。
そう。キスを要求しているのだ。
···ん?
キス?
ヒメアはキスを毎日要求してくる。
しかも、この時間、つまり10時過ぎに決まって。
···あれ?私が最初にキスされたのは確か12時過ぎ。
そうか。
成程。
ヒメアの魔法について解ってきたぞ。
恐らく、ヒメアの魔法はキスによって発動する。
そしてその効果時間は一日。
だが、ヒメアの魔法について詳しく知ったところで別にどうでもよい。
ヒメア自身について知らなきゃ意味がない。
「ねぇ···焦らさないでよぉ♥♥」
「あ、ごめんごめん」
私はヒメアの唇に軽くキスをした。
だが、その程度でヒメアは満足しなかった。
唇を離そうとした瞬間、私の体はヒメアに抱き締められていた。
そして、また再びヒメアと唇を交わされる。
今度は触れるだけのキスではない。
じっくりと舐め回す恋人の情熱的なキス。
こんなキス、受けた人間は確実に発情するだろう。
現に私もそうなりかけている。
ダメだッ!
それは敗けだッ!
私は力を振り絞ってその気持ちを抑えた。
長い情熱的なキスを終えると、ヒメアは淡々と私から離れた。
···はぁ。
なんとか耐えられた。
ヒメアのキスは日に日に情熱さを増している気がする。
魔法を持続させるにはより強いキスが必要なのか?
いや。そんなことはどうでも良いのだ。
私は心に残る発情した心を抑える事にまず専念した。
◇ ◆ ◇
冷静さを完全に取り戻せた頃、ふと私のなかに一つの事が浮かんだ。
殺された河口副指令長の事だ。
河口は確かに交際中の彼女に殺された。
しかもその彼女は実は男である。
···彼女が男?
ん?あれ?
何故、私は今まで気づかなかったんだ!?
今のヒメアと私の状況と似ているのである。
というか、河口殺害後、河口の彼女は失踪している。
そしてその直後に私の前にヒメアは現れた。
時期も全く一致している。
そう。
河口殺害の犯人とヒメアは同一人物の可能性が高い。
というか、もう断定しても良いくらいだろう。
···だが、それがわかったところでどうなる。
確かに河口殺害事件の真相は進んだようだが、ヒメアに対しての謎は進展なしだ。
いや、違う。
きっと。きっと何かあるはずだ。
もう一度、河口殺害事件について思いだそう。
河口は一年前からヒメアと付き合いだした。
きっと、ヒメアは河口を殺すために接近したのだろう。
河口クラスになると暗殺するのに狙撃や服毒はほぼ不可能。
それ対策の護衛が常に周りを警戒しているからだ。
だから、暗殺するのには河口本人と懇意の仲になるのが一番良い。
だが、ここで疑問が浮かぶ。
何故暗殺するのに一年もかけたのか。
二人は付き合っているのだ。
二人っきりになる状態はいくらかあったはず。
確か、河口が殺されたのはホテルの室内だ。
更に河口は裸だったという。
つまり、河口は性行為を待っていたときに殺害されたのだ。
ヒメアは男だ。
それを隠して河口に接近している。
そんなヒメアは性行為という男がバレる状況をわざと作り殺害した。
何故、殺害する状況に性行為前を選んだ?
私だったら、二人っきりになったときに殺す。
キス中がベストだろう。
河口は目を瞑っているのだ。
キスをしているときに横からナイフで一撃。
それで済む筈だ。
なのに何故、わざわざ。
いや。
待てよ。
確かに、数多くの殺せるシチュエーションの中から性行為前をチョイスするのは普通おかしい。
でもそれは、選択肢が多くある場合だ。
もし、性行為前しか選択肢が無かったら?
そんなの決まってる。
性行為前を選ぶしかないのだ。
つまり、殺せる状況の選択肢がそれしかなかったのだ。
それはきっとこういうことだろう。
ヒメアは性交渉直前でしか殺せる自信がなかったのだ。
性交渉直前。
その時、河口はバスタオルは身に付けていたにしろ、ほぼ全裸だ。
その時を狙って殺したのだ。
その理由はきっとこうだろう。
通常、軍人はどのような時に攻撃されても良いように武器を身に付けている。
それが例えデートだとしても。
だが、全裸になれば話は別だ。
きっとヒメアは自分の力量に自信がなかったのだろう。
だから敵が無防備になるその時を狙うことを考えた。
そして考え付いたのが性行為の直前。
一年間河口はヒメアからお預けを食らっていたのだろう。
そして一年間まってようやくの性行為だ。
河口もきっと異常にそわそわしていて多少のヒメアの殺意には気づかなかったのだろう。
だから技量のないヒメアでも容易く殺せた。
勿論、これはあくまで憶測だ。
でも、私の心の焦りがその憶測を正しいと認めさせている。
そう。きっと正しい。
こんなしっくり来たのに間違っているはずがない。
私の心の中で一つの鎖が千切れた。
何故ヒメアは私を早く殺さないかという謎。
それは、私を殺す力量が無いから。
答えを聞けば単純だが、単純な答えこそ導くのは難しい。
なんか、笑ってしまう。
だが、これで全てが解決したわけではない。
まだ一番の問題が残っている。
何処で情報が漏れたのか、と。
お盆ですね。
皆様帰省したり、旅行に行ったりと各々の時間を満喫していることでしょう。
十分に楽しんでくださいね!




