教会に鉄槌を
「では、取れる選択は二つというわけね」
「教会を破壊するか、勇者一行を倒し続けて、国の財政状況を破綻させるかね」
ユキメとコユキが言った。
ニホンの人間から買い取った着物なる衣装をいつも着ている、双子の雪女だ。
「そうだ。だが、後者の手段はとりたくない」
魔王がそう言うのには理由がある。
勇者一行を倒し続けるということは、
人間族の大多数を占める平民からの徴税が厳しくなることと同義だ。
そうなれば、遂に魔王城に届き始めた応援メッセージも増えていくだろうし、
何よりも、不当な扱いを受ける人間たちが哀れだった。
「では、教会を破壊……という方向で話しを進めましょうか」
誰一人、魔王の甘さともいえる考えを糾弾するものはいなかった。
実のところ、みな、魔王のそんなところが好きなのだ。
だから、ハルピュイアに続いて、みな口々にアイデアを出していく。
「シャドウ様にひと暴れしてもらうのは如何でしょうか?」
「いや、シャドウが教会の破壊に成功したとしても、場所は人間どもの王都だ。
すぐさま王都を守る兵士がシャドウを包囲するだろう。
シャドウに危険が及ぶようなことは避けたい」
「では、人間たちを扇動し、教会を破壊してもらうと言うのはどうでしょう?」
「それはできん。教会には強力な結界が貼られており、
内から外に出ることは出来るが、外から建物に近づくことは
出来んようになっているらしい。
我々ならともかく、ただの人間には結界を破ることは不可能だ。
それに教会の周りは大勢の兵士で固められており、
市民が雪崩れ込んだところで、虐殺されるだけだ」
会議が膠着状態に陥ったところで、キラーマジンガーマーク3がおずおずと手を挙げた。
「なんだ?」
「あノ。よろしけれバ、
ワタシに教会なるものについて詳しく教えていたダけませんカ?」
魔王が面々を見渡すと、なるほど、
話についていけていないといった顔をしているものが見受けられた。
比較的新しい顔ぶれの中に教会のことを知らないものがいることを、
魔王はすっかり失念していたのだ。
「教会というのハ、死者を生き返らせるところなのデすよネ?
デもそれは、復活の呪文デで十分なのデハ?」
キラーマジンガーマーク3の言うことはもっともだ。
何も、教会に頼らずともこの世界には復活の呪文というものがある。
復活の呪文の効果たるや凄まじい。
一度唱えれば、ちょっとえぐい損傷がある死体も、元通りにしてしまうのだ。
「キラーマジンガーよ。もし全滅してしまったら、誰が復活の呪文をかけるのだ?」
「……!」
「教会とは、一種の保険のようなものだ。死後一定時間が過ぎると
教会側は復活の見込みがないものとして、その肉体——死体を教会へと転移させるのだ」
教会は旅立つ勇者一行とまず契約を交わす。
これによって、教会側は勇者一行の生死を常に把握できるようになる。
そして、死んでからしばらくの間生き返る様子がなければ、
さっさと教会に転移させ、法外な金額を突き付けて蘇生か放置かの
二択を迫るのだ。
もっとも、死後放置されたままの死体は魔物と化したり、
野生動物に食い散らかされたりして蘇生不可になるので、
法外な金銭を要求してこなければ有難いものではあるのだが……。
「なるほド。大変よくわかりましタ。ありガとうゴザいます魔王様」
魔王はうむと満足気に答えた。
そして、魔王のその言葉を最後に、会議室には沈黙が訪れた。
ややあって、その沈黙を破ったのはやはりハルピュイアだった。
「閃きました。この作戦であれば、間違いなく教会を破壊できるでしょう」
やっぱり困ったときのハルピュイアさんやでぇ。
魔王はまたしても全てをハルピュイアに丸投げすることを決めた。
「素晴らしいぞハルピュイア! では、後は任した!」
それから1週間後である。
ジオン王国首都キャッスバルで教会爆破事件が起こったのは。