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VS勇者×100 ~絶望の勇者と希望の魔王~  作者: 雪中餡
小さな魔王編
3/29

ちょっと本気な魔王軍

 魔王城内会議室にて、4日振り、通算48回目の勇者対策会議。


「え~。では~これより~第48回勇者対策会議を始めまーす」


 未だ睡眠を欲して落ちようとしているまぶたあらがおうとして、魔王は目をこすった。

 それでもやっぱり眠たくて、魔王はふわああっと一つ、大きな欠伸をする。

 時刻は真昼間、よい魔族はとうに寝る時間だったので、

 魔王もお腹を出して寝ていたのだが、ハルピュイアにみなが集まったと

 叩き起こされたのだった。


「え~。ドラゴンがぁ。勇者にぃ。やられちゃいましたぁ」


「魔王様、しっかりしてください」


「い、いたたたた。やめへぇ~」


 かたわらに立つハルピュイアにほっぺをつねられて魔王がいやいやした。


「ごほん、あー。実際にはだな、

 勇者ではなく、そのパーティーにやられたと言った方が正しいだろう」


「パーティと言うと、戦士とか魔法使いのことですか? クリクリー」


 ふわふわと宙に浮いている大きな目のもさもさした玉——

 羽クリポゥが甲高い声をあげた。


「しかし、彼らは人間にしては強いとはいえ、勇者には劣るはず。

 二人や三人いたところで、ドラゴンがやられるとは思えませぬが」

 

 そう言うのは、体の下半分が馬、上半分が人族に似た見た目をした

 ケンタウロス族のリーダー、バ・サシだ。

 バ・サシの常識では、勇者パーティとは、勇者一人に、

 従者じゅうしゃの戦士や魔法使いが一人ずつの三人組のことだった。

 

 その時々の勇者によって、従者が二人だったり、三人だったり、

 余程人望がなかったのか一人旅だったりするのだが、

 集まったものたちの中で、勇者パーティと言えば、大体三,四人を

 思い浮かべているものがほとんどだった。


「バ・サシの言う通りだ。従者が二人や三人ならば、ドラゴンの敵ではなかっただろう」


「と、言いますと?」


 先を促したケンタウロス・バ・サシ。

 周囲では、まさか……というように、

 多種多様な姿の魔のものたちが目配せし合っている。


「二人や三人ではなかったのだ。勇者合わせて総勢800人と500匹。

 それが今回の勇者パーティーの全容だ」


 一瞬の戸惑いの後、口々にあがるのは、怒号だった。


「ば、馬鹿な! おのれ人間どもめ! 恥を知れ!」


卑劣ひれつな! あ、悪魔か!?」


「魔王様より遥かに外道な行い! 真の魔王は人間だった……?」


 自分たちは出発したばかりのひよっこ勇者にドラゴンをけしかけておいて、

 よく言えたものだと魔王は思目を細めた。

 まあ、発案したのも決めたのも魔王なのだが。


「して、500匹とは何なのでしょうか……? 

 ま、まさか凶悪なキメラの大群では!?」


 がおがお吠えながら悲鳴に近い叫びをあげたのは、

 ライオンの頭に羊の胴体、蛇の尻尾を持つガエリオ・キマイラだ。

 屈強な魔族の精鋭たちに、明らかに不安の色が広がった。


「羊だ」


 魔王がその光景に見かねて言った。

 魔族の中でも強大な力を持つものたちが、

 どうして羊にビビらないといけないんだと何だかいたたまれなかった。


 だが、みなは真面目に受け取らず、魔王の冗談にどう返したものか反応に困っている。

 続いて口を開いたのはハルピュイアだった。


「羊です」


「なんと! 羊!? あの凶悪な羊ですか!? えっ? 羊!?」


 ハルピュイアの口から出た、勇者一行が従える凶悪な生物——『羊』の名前を聞いて、

 

 ——えっ? あの白くてもこもこしたやつだよね? あってるよね? 

 

 と確認作業が始まった。


 なんでこいつらハルピュイアが言うとすぐに信じるんだ……と、

 魔王はため息をついた。

 魔王は遠い過去へ想いを馳せる。

 

 ——勇者がしょっちゅう来てた頃はよかったなー。

 

 魔族の腕自慢や四天王が負けて、

 私が勇者をちょちょいのチョイっとやっつけると、

 「流石魔王様!」ってみんな尊敬してくれたもんなあ。


 それが勇者との戦いしかり、今も続くドワーフやエルフとの戦いしかリ、

 楽勝ムードになってくると、わざわざ私が出ることもなくなって、

 なんかその、皆からの扱いが偉大な魔王様っていうより

 マスコットみたいになってくるんだよなー、なんて魔王は悲しくなるのだった。


「そうです。その羊です。理由はわかりませんが、

 かつて31代目の勇者が羊飼いを引き連れていたので、

 人間にとっては羊も立派な戦力になるのかもしれません」


 そうだ。このハルピュイアだよなー。

 先代の四天王の一人が勇者にやられたので、

 その交代で入ったハルピュイアだけど、まさに出来る女って感じで、

 民からの信頼も厚くって、なんだかなー。


「ハルピュイア様。私も31代目の勇者のことは覚えていますが、

 やつらはジンギスカンを楽しんだだけだったようにお見受けしますが……」


 ……そんでこいつ。こいつよ。炎獄のファーブニル。

 四天王の一人の癖して、私にはため口なのに

 同じ四天王のハルピュイアには様づけなんだよなー。


「まあ、単に非常食ということもあり得るでしょう。

 しかし、油断は大敵ですよファーブニル。あの白いもこもこの下に、

 何か強大な力が潜んでいるやもしれぬのですから」


「ハッ! 肝に銘じておきます」


 ほんと昔はよかったよなー。ファーブニルが苦戦した勇者を

 ワンパンKOした私に向けられた、あの尊敬の眼差し。

 あれからほんの1200年くらいしか経ってないのになー。


「して、魔王様。今度は如何な作戦をとりましょうか」


「んあ?」


 いかんいかん、意識がワープしていた。

 魔王は被りを振って気持ちを入れ替えた。

 そうだ。今回の勇者パーティに対する手腕如何では、

 再び民の尊敬は我に集まろうぞ。

 そんなことを考えて無理やりモチベーションをあげる。


「そうだな……。貴様たちの中にアイデアのあるものはおらんか?」


 部下からの意見も聞くことが良い上司の条件であると、

 人間の書いた本にあったので、実践してみる。

 なんで中間管理職でもない頂点に立つ魔王が

 こんな苦労をしないといけないのかと悲しくなるが、

 人気取りのためには仕方ない。


「よろしいでしょうか? 魔王様」


 手——、前足を挙げたのは、3つの頭を持つ魔界の番犬、

 ケルベロスのハチ侯爵こうしゃくだ。


「いいぞ。話せ」


「はい。こちらも彼らに倣う——というのはどうでしょうか?」


 ふむ。と全然わかってないのだが、魔王は分かったふりをしてみた。

 もちろんそれは側近のハルピュイアには筒抜けなわけで、


「つまり、我らも本気で潰しにいくというわけですね? 出し惜しみなく」


「その通りです。ハルピュイア様」


 ハルピュイアのフォローには気付かず、

 なるほど、そういうことだったのか。とだけ魔王は思った。


「では、持てる戦力を全て投入しよう。我も出るぞ」


「それはダメです。人間どもにはまだ隠し玉があるやもしれません。

 魔王様は魔王城にて待機していてください」


 反論しようとして、魔王はやめた。

 戦いならともかく、舌戦ではハルピュイアに勝てる気がしなかったからだ。


「ここから勇者一行の下へ向かうには、

 山脈を五つ越える必要がありますゆえ、

 飛べるもので構成した軍を派遣しましょう。

 私も同行します」


「うむ。それでいこう」


 活躍の場を作れなかったが——、とにかく、

 これで勇者一行も終わりだろう。

 飛行できるものだけでも、かなりの戦力にはなるはずだ。

 というか、上空から攻めれば、魔法使いと勇者以外恐れるに足らない。

 接近戦しかできない武闘家や戦士など、距離さえとれば脅威足り得ないのだ。

 

 羊飼い? 踊り子? 論外だろ。戦い舐めてんじゃねーぞ。

 

 つまり実質敵は200人、対してこちらは一騎当千のハルピュイアと、

 彼女の指揮下にあるドラゴンやグリフォン、ハーピィなどで構成された強力な軍勢。

 負けなど有り得ない。


「よし。それでは第48回勇者対策会議を終了する!

 ハルピュイアよ。楽しみにしておるぞ。

 其方そなたが勇者の首を持ち帰るのを……」

 

 格好つけて言ってから、魔王は生首100個はちょっとやだなと気付いた。


「ハッ! 必ずや!」


 ハルピュイアの自信たっぷりな返事でもって、第48回勇者対策会議は終了した。


 

 ——その三日後だった。

 ハルピュイアが、大量の羊を連れて帰ってきたのは。


 





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