十一話
深夜、ノック音がしたので寝ぼけ眼でドアを開けるとルゥナが大きな枕をもって立っていた。
「…一緒に…寝てくれない?」首をかしげて可愛らしく言うルゥナ。
なんでも、怖い夢を見て一人では寝れないんだとか。
しかし、私にだって最低限のモラルと言うものはある。が、追い返すのはかわいそうなので
「オジ様のところは?」と聞いてみる。ルゥナはもじもじしながら
「父さんは寝てて、起きなかった…カイルと、ジェルは、怒りそうだし…だから、アケミのところに…」と言う。
なるほど。それは困った。しかし、この状況は駄目であろう。16歳の乙女と18歳の青年が同じ部屋、しかも同じ寝具で寝るというのは…
一人で腕を組み、唸っているとルゥナが追い打ちをかけるように
「…ごめんね。でも、本当に怖くて…今回だけ…ね?お願い。」涙目になりながら私を見つめる青年。
やられた。ピュアなその瞳に完敗だよ…
「…今回だけだよ…」と、いいながら私は部屋にルゥナをあげる。が、私の内心は≪美青年と一夜を共に!!≫という如何わしいことしか考えていなかった。突然くるっと私の方を向いたルゥナの
「ありがとう…」と言う言葉で浄化されたが…ベッドへ二人で潜ると何とも言えない懐かしい気分になった。人と一緒に寝るということが小さい頃以来だったので少々恥ずかしいようなこそばゆいような気持になった。
「あったかい…」とルゥナは言葉を漏らす。
「本当はね?カイルとジェルのところには行ってないの。昨日後ろから抱きついたとき、あったかくて柔らかかったから…真っ先にアケミのところへ来たの。」
おっと…その発言はピュアだとしても軽いセクハラだぜ?
柄にもなく心臓がドキドキしているアケミをよそにルゥナはアケミを横から抱きしめ、吐息交じりに話し始めた。
「…アケミ?」
「どうしたの?ルゥナ。」
「…異世界に帰れたとしても、帰らないで?ずっと一緒に、みんな一緒に、この家に居よう?…」返答に困っていると、ルゥナは一瞬強く抱きしてた後
「おやすみ」と耳元で言葉を残して寝てしまった。子どものようなルゥナ。みんながずっとこの家で一緒などあり得ないということに気付いた時、ルゥナは何を思うのだろうか。願わくば、ルゥナが傷つかないで欲しいと思いながらアケミは眠りについた。
翌日、私が食事担当なので、寝ているルゥナを起こさないようにそっと部屋を出る。朝はパン、オレンジ、スープ、ヨーグルト、その辺にあったフルーツのジュースを作った。達成感に浸っているとバタバタとこちらへ向かってくる足音がする。台所へ乗り込んできたのはカイル。
「い、今、お前の部屋からルゥナが!!」息を切らしながらの第一声がそれであった。
「え?何?どうしたの?」
「だからルゥナが!!」カイルが大声でしゃべるので全員起きてきてしまった。
「…カイルうるさい…」ルゥナが目をこすりながらこちらへ向かってくるのでカイルはルゥナの方へ駆け寄り肩を揺らした。
「お前、アケミと一緒に寝たのか!?」
「うーん。寝たよ。あったかくて柔らかかった。」へらっと笑うルゥナ。
「あったか…」カイルは一瞬立ちくらみを起こした。
「ハハハハハ。ルゥナやるなぁ~」楽しそうに笑うジン。微笑み見守る御車さん。ルゥナを質問攻めにするカイル。
それにキョトンとしながら答えるルゥナと二人を横目で見て呆れるジェル。
さあ、平和な今日の始まりだ。




