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第二章:「天駆ける者たちの影」

しかし、その場の空気は一瞬にして一変した。


虫の音や風のざわめきが絶えなかったはずの森が、死のような静寂に包まれた。それは、木々を根こそぎなぎ倒す嵐の前触れのような、重苦しい沈黙だった。少年は口に含んだ果肉をそのままに、顎の動きを止めた。苔の成長や捕食者のわずかな足音さえ聞き分ける彼の耳が、山の摂理に反する音を捉えた。それは重く低い風切り音であり、大気を震わせる巨大な膜の羽ばたきだった。


その音が咆哮に変わるより早く、生存本能が彼を突き動かした。考えるよりも先に、数千回もの死線を越えてきた筋肉が記憶に従って動く。少年はスライムの上に飛びつくと、守るように、そして必死にその体を抱きかかえた。自由な腕と脚を太い枝に食い込ませ、荒い樹皮に胸を強く押し当てる。


次の瞬間、空が割れた。


硫黄と古びた革の匂いを孕んだ突風が、巨木の梢を襲った。竜だ。それは理屈を拒絶するほどの巨体を持つ、その影だけで森を数ヘクタールも覆い尽くす異形の存在だった。竜の群れは恐るべき速度で通り過ぎ、その衝撃波は物理的な打撃となって少年に叩きつけられた。不動と思われた巨木の枝が激しく揺れ、巨大な翼が生み出す気流の圧力に悲鳴を上げた。


少年は指を苔と木肌に深く沈め、強く目を閉じた。胸に抱いたスライムが恐怖で震えるのを感じる。周囲では、避けることのできない悲劇が起きていた。あれほど苦労して見つけたコバルトブルーの果実たちが、枝から次々と吹き飛ばされていく。今日の勝利の証であった輝きは、一つ、また一つと、先ほど逃げ延びたばかりの深淵へと消えていった。


竜たちが残した轟音は、梢に混乱の爪痕を残した。引きちぎられた葉や小枝が雨のように降り注ぎ、翼の残響が地平線の彼方へと遠ざかっていく。少年と相棒は、いまだ震えの止まらぬ巨木の上で、ただ必死に生にしがみついていた。


饗宴は終わった。静寂の王国の住人である彼らでさえ、一瞬で踏み潰されるほどの強大な力がこの世界には存在する。その残酷な真実だけが、そこには残されていた。

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