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借金取りの元勇者と、借金まみれの元女勇者 Season2 番外編シリーズ  作者: HANABI


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第一話 減らない借金と、少しだけ変わる距離

リゼ×ロイド×ヴァルク

ある日の昼下がり。


夏の名残を残した風が、通りをゆっくり抜けていく。

日差しはまだ強いが、どこかやわらぎ始めていた。


空気の奥に、ほんのわずかな涼しさが混じる。

街道より少し奥に入った場所に、ひとつの建物があった。


レンガ造りの二階建て。

長く使われてきたせいか、ところどころ色褪せている。

その一階に、とある貸金業者の一室があった。


「……今日はやけに機嫌いいな」


店の奥で帳簿をめくりながら、ヴァルクがぽつりと言った。

小柄な猫が膝のうえで、みゃあと鳴く。


リゼは猫の方をチラッと見ながら、軽い足取りで外套を羽織る。


「そう?いつも通りだよ」


「いや、違うな。歩き方が軽い」


「なにそれ、分かるの?」


「分かる」


短く言い切る。

リゼがふふっと少しだけ笑う。


「ちょっと出かけてくるね」


「仕事か」


「まぁ、まあそんな感じ」


曖昧な返事。

そのまま扉を開けて、外に出ていった。

扉が閉まる。


静寂が部屋に広がる。

ヴァルクが、書類をめくる手を止めた。


(……最近、一人で外に出ることが多いな)


椅子にもたれたまま、少しだけ天井を見る。


「……」


小さく息を吐く。

帳簿を閉じる。


「……ちょっと、外の空気でも吸いに行くかな」


立ち上がって、サッと剣を腰に下げる。


外に出ると、爽やかな風が頬を撫でる。


遠くに、リゼの姿。

人混みの中でも、すぐに分かる。


プラチナブロンドの髪を高く結んで、弾むように揺れている。

剣士らしい真っすぐな姿勢、明るい声と猫のような動き。


時々石畳で足を引っ掛けて、躓いている。


(大丈夫か?あいつ……)


少し離れた場所。

こんな田舎町ではよく目立つ後ろ姿を、なんとなく目で追っていた。


リゼは、八百屋の前で立ち止まる。


「いらっしゃい!今日も元気だね〜」


年配の女性が笑う。


「ありがと。今日はこれちょうだい。」


ニコっと笑ってりんごを指さす。

女性が袋を差し出す。


「まいど!後、これ売れ残りだけど持ってきな」


「え、いいの?」


「いいからいいから」


「ありがとう!」


嬉しそうに受け取る。


次は屋台。


「お、嬢ちゃんこのまえはありがとよ」


店主が、串を数本差し出す。


「焼きすぎたから持ってけ」


「それ絶対嘘でしょ〜」


「細かい事は気にするな!」


「やったね!じゃあ遠慮なく」


袋に入れてもらい、体を揺らして明るく笑う。


(……馴染んでるな)


ヴァルクは壁にもたれて腕を組む。

その様子を見て、少しだけ目を細める。


揺れる髪は、いくつか店をのぞき見ながら歩いていく。

街外れの方向だった。



街道から少し外れた古い家。

庭には井戸があり、薪を割った形跡がある。


日当たりのよい場所には、秋に収穫する野菜や花が植えられていた。

物干しには住人の物と思われる服と、布が風に棚引いている。


男の一人暮らしとは思えないほど、生活感が感じられた。

最初に来た時は淀んだ空気が漂っていたが、ずいぶん整ってきていた。


扉を叩く。

コン、コン。


「開いてるぞー」


軽い声。

リゼが中へ入る。


少し遅れて、ヴァルクも距離を取って近くの木にもたれかかった。

中の様子が、窓から少しだけ見える位置。


「おっ!また来たな」


ロイドが笑う。


前より、顔つきが明るい。


「今日は串焼きと、あと――これ」


リゼが持っていた袋を、机に広げる。


「りんごも、もらっちゃった」


「美味そうだな」


「でしょ!串焼きも炙ったらもっと美味しいと思う」


軽く笑い合う。


「ちょうど、休憩しようと思ったところだ」


「ほんと?ナイスタイミング」


お湯を沸かす音が聞こえる。

ロイドが立ち上がって、食器を準備する。


キッチンでは新しく魔法で火をつけ、肉を炙る。

りんごを器用にカットする。


やかんの湯から湯気が出てくる頃。

リゼは少し欠けている椅子に、慣れた様子で腰掛けていた。


(……変わったな)


ヴァルクはなんとなく離れられなくて、静かに見ていた。

ロイドの明るくなった表情と声のトーン。

最初の頃とは、明らかに違う。


「そういえばさ」


リゼが、机を拭きながら言う。


「最初のとき、すごかったよね」


ロイドが少しだけ笑う。


「ああ……あれな」


椅子にもたれ直す。


「お前、あの時……意識とんでただろ?」


「え?」


「戦闘中にあんな風になるやつ、何人か見たから分かる。目が据わってた」


軽く言う。


「普通に斬りにきてたからな」


「そんなことないって!」


「いや、あった」


即答。

少しだけ間。


「……あの時な」


ロイドが言葉を続ける。


「止められてなかったら、俺は死んでた」


リゼが少し黙る。


「……ごめん」


小さく言う。


「謝るな」


ロイドが肩をすくめる。


「問題はそこじゃねえ……」


一呼吸置く。


「止めたの、あいつだろ」


リゼがハッと顔を上げる。


「……ヴァルク」


短く言う。

少し下を向きながら、思い出すようにロイドが頷く。


「お前より怖かったのは、正直あいつの方だ」


軽く笑う。


「一瞬で距離詰めて、迷いなく止めてきた」


「……そうなんだ」


「昔からああだったよ……」


少しだけ懐かしそうに言う。


「すげぇ強いし、やるときはやる」


「そして判断も早い。引くときも分かってる」


リゼが少しだけ考える。


「……うん、そんな感じする」


小さく笑う。


ヴァルクは無言で、風に声を運ばせながら聞いていた。


(……余計なこと言いやがる)


少しだけ目を伏せる。


ロイドがポケットから袋を出す。


「ほら、今週分だ」


テーブルに置く。

リゼが覗き込む。


「……増えてる?」


「ちょっとだけな」


「え、これって借金減ってるよね!?」


顔がぱっと明るくなる。


「減ってる」


「やった!」


自分事のように、弾みながら笑う。

その顔を、ロイドが少しだけ目を細めて見ている。


「そんなに嬉しいか?」


「だって、ちゃんと返せるってすごい!」


「単純だな」


「いいでしょ別に」


軽く笑う。

そのとき。

ガチャっと扉が開いた。


「……回収だ」


低い声が響いて、リゼが振り返る。


「ヴァルク?」


ロイドが軽く手を上げる。


「ちょうどいいとこだ」


ヴァルクは固い顔で中に入ってくる。

部屋の空気が少しだけ、ひんやりと感じた。

袋を受け取り、中身を確認する。


「……少し増えてるな」


「頑張ってるだろ」


「まぁな」


短いやり取り。

リゼが横で嬉しそうにしている。

その様子を、ヴァルクが見る。


(……なんだその顔)


一瞬。


(……気に食わねえ)


理由は分からない。


(……また面倒なのに当たったな)


昔もこんな感じで振り回された気がする。


「帰るぞ、用事は済んだ」


固い表情のまま、ロイドの家を出る。


「ちょっと待ってよ!」


生ぬるい風が、頬をかすめる。

外套を掴む間もないまま、リゼは走り出していた。



日差しはまだ強いのに、空気はどこか重い。

いつの間にか太陽が傾き、

長く伸びた影が、二人の足元に絡みつくように続いていた。


「なんでそんなに無愛想なの?」


「いつも通りだ」


「絶対違うでしょ」


「違わねえ」


急に立ち止まったヴァルクに、リゼの体がぶつかりそうになる。


咄嗟に手を伸ばして、その胸元に触れる。

次の瞬間。


腕を掴まれ、ぐっと引き寄せられた。


「……っ」


背中が木に当たる。

冷たい感触。

体勢が崩れかけたところを、腰に回された手が支えた。


逃げ場がない。


視線を上げる。


ヴァルクが、すぐ目の前にいる。

高い位置から、覗き込むように。


そのまま、顔の横の木に手をつく。

さらに距離が縮まる。


息が近い。


そして――

ゆっくりと、おでこが触れた。


「……」


息が止まる。

リゼの頬が徐々に赤くなってくる。


「……なんで」


小さく聞く。


ヴァルクは答えない。


(……なんだこれ)


(……似てる)


思い出しかけて、やめた。


おでこがゆっくりと離れる。

でも顔の距離はまだ近い。


今はただ……面白くなかった。

それだけだった。


「……あいつのとこ、よく行くのか」


低い声が、耳元に響く。


「う、うん……様子見てる」


「だいぶ……立ち直ってきたみたい」


「……そうか」


一瞬の沈黙。


「……あんまり行くな」


ぽつり。

リゼの目が揺れる。


「え?」


ヴァルクも一瞬止まる。


(……今のは何だ、そんな事出来ないのは分かっている)


まだ近い距離のまま、離れない。

なぜだか離したく無かった。


そして、固く目を閉じて息を吸い込んだ。

ゆっくりと体が離れていく。


リゼがバランスを立て直すまで、腰の手は支えてくれた。


「いや、今のは忘れてくれ……」


「……行くぞ」


背を向ける。


リゼが一瞬止まる。

それから。


「待って!」


走って追いついた。――隣に並ぶ。

少しだけ距離が近い。


「ねえ」


「なんだ」


「借金、減ったよね」


「減ったな」


「やった!」


嬉しそうに笑う。


「まだいっぱいあるけどね!」


「だろうな」


「でも頑張る!」


即答。


ヴァルクがちらっと見る。


(……しょうがないやつだ)


まだ自分のこの気持ちには、触れない。

今は……まだ


小さく息を吐く。


夏の空気の中。


夕日から伸びた影が、ひとつに重なる。


並んで歩くその距離が、さっきより少しだけ近かった。


Season2始めました。


番外編を中心に後日談等掲載予定です。

一応Season2で完結まであります。

毎日投稿予定です。

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