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明日見明里は退屈が嫌い  作者: 河野守
第2部 水鏡の月 第1章 狙われる少女

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第9話

「おい、エッチな烈くん」

「……その呼び方やめろ」

「すけべな烈くん」

「それもやめろ。俺の名前に変な修飾語をつけるんじゃない」

「じゃあ、性犯罪者」

「やめろ! ライン越えだぞ!」

 今の明里の機嫌は相当悪い。事故とはいえ、女子の着替えの場に侵入してしまった烈。そのおバカな幼馴染を許せないのだろう。

 明里はジトっとした目で烈を睨む。

「本当に悪意や下心は無かったんだろうね?」

「当たり前だ」

「どうだが。異性への溢れるリビドーを抑えられず、白波さんのことにかこつけて、女子生徒の着替えを見ようとしたんじゃないのかい?」

「だから、ちげぇって! わざとじゃない、人聞きの悪いことを言うな!」

 烈は必死に弁明。下心が無かったのは事実だ。

 不幸中の幸いか、部員達はこれから着替えようというところであり、烈は彼女達のあられもない姿を目撃することはなかった。

「ったく。そんなに見たいなら、ボクが……」

 明里が何かを言いかけたところで部室の扉が開き、美月が出てきた。ダンスウエアのままだ。

「皆には私の最近のトラブルや護衛のことを説明したよ。一応、れっちんへの誤解は解けたから、安心して。まあ、鍵をかけていなかった私達も悪いから。他の運動部は今日いないから、鍵あけっぱなしにしてたんだよね」

「本当にすまん。助かる」

 美月のおかげで、烈に変態覗き魔の烙印が捺されることをなんとか回避。危うく、残りの学校生活が地獄と化すところであった。

「それでは本題に入ろうか。さきほどツッキーの悲鳴が聞こえたが、何があったんだい?」

 明里の問いかけに、美月は暗い表情。

「私のロッカーが荒らされていてさ。ついびっくりしちゃって」

「荒らされていた? 見てもいいかい?」

「うん、いいよ」

「では」

 明里に続き烈も部室に入ろうとする。特に何も考えずついていこうとしたのだが、明里が振り向いて睨んできた。

「君は外で待っておきなさい。それとも男子禁制の、女子の部室に入るつもりかい?」

「あ。いや、ちが、俺はただ……」

「やっぱり、女の子の着替えを見たいんだろ! この変態幼馴染が!」

「んなわけないだろ!」

 烈達が言い合う様子に美月は苦笑い。

「一応、部員に確認してみるね。ちょっと待ってて」

 美月は一旦部室に引っ込んだ後、すぐに戻ってきた。

「れっちんが入ってもいいって。ただし、見るのは私のロッカーだけ。余計なところは勝手に開けないように」

「わかった」

 入室の許可がおり、烈は明里と共に部室に入る。部員の誤解は解けたが、それでも烈の身体に突き刺さる視線は居心地が悪い。タイミングによっては自分たちの着替えを見られていたのだ、当然だろう。

 とっと現場検証を終わらせるか。

「白波のロッカーはこれか?」

「烈くん、余計な指紋をつけないように気をつけて」

 烈は明里の助言に従ってハンカチを使い、半開きになっている美月のロッカーを開ける。中はぐちゃぐちゃに荷物が荒らされており、何か刃物のようなもので教科書や制服のワイシャツが切り裂かれていた。

「こいつはひでえな。何か盗られたものとかはあるか?」

「まだ一つずつは確認していないけど、多分ない。お財布などの貴重品は金庫に入れてあるから、そっちも大丈夫だと思う」

 美月が指差す先には小さな金庫が置いてあり、明里は金庫の前でしゃがむ。

「金庫の鍵穴に真新しい傷がある」

 烈も金庫の様子を確認。明里の言う通り、細い傷が幾つもついている。おそらく犯人が刃物で鍵穴を破壊してな、んとか開けようとしたのだろう。

 明里はスマートフォンで金庫の外観を撮影してから、美月に開けて中を確認してほしいと依頼。美月は「オッケー」と電子ロックを解除し、金庫の扉を開けた。

「金庫の中も大丈夫そうだね。私や皆のお財布もちゃんとある」

 美月はピンクのデコレーションされた財布と、一つのぬいぐるみを取り出す。烈はそのぬいぐるみがなんとなく気になった。

「そのぬいぐるみ、ひったくられた時も鞄に入っていたよな? わざわざ金庫に入れていたのか?」

「うん。これ。彼氏からもらったやつなんだよね。私の宝物。金庫に入れておいてよかったよ。ロッカーだったら、これも壊されてた」

 そう言いながら、美月はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。このぬいぐるみは、よほど美月にとって大切なもののようだ。

「ねえ、あかりん、れっちん。これ、学校側に言った方がいいかな?」

 明里はもちろんと頷く。

「明確な犯罪行為だ。秘密にする必要はない。学校に報告して、警察を呼んでもらおう。ツッキーかダンス部の誰かがしてくれないかい?」

「うん。部長、お願い」

 美月に部長と呼ばれた女子生徒が職員室に向かっていった。

 明里は烈に振り向く。

「烈くん、ボク達は一旦ここを離れよう」

「なんで?」

「忘れたのかい? ボク達は学校から目をつけられているんだよ。あの青薔薇の貴公子事件以降」

 烈達は学校から事件の捜査をやめろと再三言われていたのに、大きな危険を伴いながら犯人を捕まえた。大手柄であるのだが、生徒の安全を預かる学校側としては烈達の行動を認めるわけにはいかない。危険なことは二度とするなと、烈達は教師陣からこっぴどく叱られた。

 荒らされたダンス部の部室に烈達がいたら、教師達はどう考えるか。この二人は事件にまた首を突っ込むかもしれない。そのように危惧し、烈達を見張るようになるだろう。

 そうなれば、美月の護衛もやりづらくなる。明里はそれを見越して、自分達の姿を教師達に見せるべきではないと判断したのだ。

「ツッキー、ボク達は近くでてきとうに時間を潰すから。事情聴取とか、もろもろが終わって帰る時に連絡をくれないかい?」

「分かった」

 烈達は教師達が来る前に学校を出て、近隣にあるコーヒーチェーン店で待つことにした。

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