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殺し屋という誰か

 ついこの前、運命の出会いを果たした倉庫の前に立つ。

 この中にいるのはこの町の暗部の手練れを一掃したであろう殺し屋。

 しかし、所詮は殺し屋。正面に対すれば脅威は半減する。


 扉を開ける。

 外見はさびれているが、短期間に何度も扉を開けられて埃のつまりは感じられない。


 一歩足を踏み入れると、ポタリと顔に水滴が付着した。

 上を見上げると、新鮮な死体が吊り下げられている。


 そして、死体が上から近づいてきた。


 グシャリ。


「もったいない」


 人型を失ってしまってはもはや死体ではなく肉片だ。

 一歩下がって避けた。目の前には死体だったものの残骸。

 ここからではまだ奥に人影は確認できない。


 今のはちょっとした挨拶だろう。殺し屋の趣味の悪さがうかがえるってもんだ。

 まだやつが殺す気なのか、挑発しているだけなのかは判断できない。


「早く奥まで来ないと、大好きな死体は手に入らないよ?」


 死体をおもちゃ扱いしている奴が何を言っているんだ。


 肉片を飛び越えて奥に向かって歩いていく。


「すとーっぷ!」


 グシャリ。


 奥から聞こえた人の腸をさするような声とともに、再び死体が落下し、肉片に変わる。

 声を無視してあと一歩進んでいれば直撃する場所に落下した。

 また一つ、無駄になった。


「何が目的ですか? 死体がもったいない。怖がらずとも主導権は貴方にありますよ」


 僕を牽制するために死体を使うなどもったいなさすぎる。

 そちらが呼び出したのだからもう少しおもてなしの精神を持ってほしいものだ。


「少しその場所でお話をしようじゃないか! 僕はこの町に来たばかりなんだ、この町の危険人物について教えてよ! 安全に過ごしたいんだ!」


 先程から少し気にはなっていたが、電話の時の口調と今の口調がまるで別人のように違う。

 この場に隠れているか、裏で手を引いているだけかは分からないが、最低でもあと一人は仲間がいるはずだ。


「危険人物は君の方でしょう。町に来たばかりでこんなにも死体を粗末にする人は初めて見ましたよ」


 こんなに短期間で死体を無駄にする奴など、危険人物に決まっている。


「御託は良いからさ~。こいつら殺し屋名乗ってたのにただの人じゃん」

「当たり前でしょう。あなたは人じゃなかったらなんだというのです?」

「えー? でも埋葬屋さんはこっち側のひとだよね?」


 いまいち話の筋が見えてこないが。


「生体か死体かという分類では君と同じ側だと認識しているよ」

「ははっ! 白々しいけど、面白い冗談だね!」


 話の先が見えないので、肉片を踏み越えて前に進む。


「もうっダメダメ!」


 グシャグシャリ。


 最悪だ。


 前後に肉片が落とされた。もう四体の死体が犠牲になってしまった。つまり半数が犠牲になってしまったのだ。もうすでに殺し屋に負けていると言っても過言ではない。


「話はまだだよ。最後まで聞かないと怒るからね」


 怒って、死体をこれ以上粗末に扱われてはたまったものではない。


「僕はこの町のマフィアを全滅させるためにやってきたんだ」

「なんだとっ!」

「うわっ。そんなに怒鳴らないでよ」


 あれ? 今僕は死体が減ってしまうから怒鳴ったんんだよな? 

 それとも、あの人のことを思い出して


「ともかく、それが仕事だからね。そこで僕は埋葬屋さんに他の【超人】を教えてほしいんだ。僕も無益な殺生はしたくないからね」

「話が何も見えてこないな。僕はその元殺し屋たちの死体を回収するために来たんだ。超人という言葉にも聞き覚えはない」

「マフィアを皆殺しにするのは? さっき怒ってたけど」

「……仕事相手が減るのは困る。それだけだよ」


 そう、それだけだ。僕が命を懸けられるのは死体だけなはずだ。


「ふーん。そっちはまあいいけど。それより超人を知らないってどういうことだよ! 殺し屋たちもその言葉は知らなかったし、この町は【超人】って言葉が規制でもされているの?」


 どうやら殺し屋たちもこの面倒な会話の末に殺されたらしい。

 つまり、僕の未来もそういうことだ。なおさらまともに答える義理はない。


「超人という言葉は聞いたことがないと答えただろう? さっさと死体を僕に渡してくれないか? 殺し屋には必要がないだろうけど埋葬屋には死体が必要なんだ」

「へぇー、埋葬屋の能力には死体が必要なんだ」


 能力じゃなくて、仕事、生きるために必要なんだ。


「もういいや、話にならないよ。ーーーーバイバイ」


 ドガンッ


 何かが爆発した。そう認識したときには、四肢は粉々に砕け散り、首から下は肉片となって飛び散り、視界の端でとらえたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()だった。



 そうして、視界はブラックアウトした。


 久しぶりの感覚だった。

 それでも、彼女と出会ったときに比べれば、針に刺された程度の衝撃だった。


 ◇



 倉庫の裏口から出た一人の少年のポケットが震える。

 少年は笑顔でその電話の応答を押した。


「どうでした、仕事は完遂できましたか?」

「うん! 埋葬屋も【超人】っていう言葉は知らないみたいだったよ。ただ能力には死体が必要だったみたいだから全部爆発させといた」


 少年は死体に執着する男の姿と、その後の粉々になった光景を思い出す。


「そうですか。相性が良かったんですね。しっかりと死体は確認しましたか?」

「今回は人間の死体を使ったから粉々になったよ!」

「……そうですか。お疲れ様でした、気を付けて帰ってきてください。まだその町には【埋葬屋】の双璧を成すという【探偵屋】が残っていますから」

「はーい!」


 少年は電話先の相手の警戒するようにという言葉を聞いていなかったかのように、ルンルンとスキップで帰路を進み始める。


 埋葬屋と同程度なら警戒する必要もない。


 そう言わんばかりの態度であり、それが少年の内心だった。


「あらら、めっちゃ油断してるね~」


 そんな姿を双眼鏡で観察する影が一人。

 彼女は少年が倉庫から離れるのを十分観察してから、倉庫に向かった。

 六番倉庫へ。












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