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一般人が役者になるまで

「なっさけないわね」


 返す言葉もない。返すための口もない。


「相手があなたを殺して、油断したところを殺す君の十八番は今回は使えなかったみたいね」


 辺り一面血だらけの倉庫で、如何にも都会のできる女風のロングコートにブーツに丸眼鏡と言った風貌の女性が立っている。


 僕は不死身だ。

 正確には死んだであろう瞬間、死んだであろう体はなくなり、その場に新たな体がリポップする。僕が熱を失うことはできない。


 そして僕を見下ろしているのは、【探偵屋】。この人は僕が唯一仕事相手の中で死体なしで会う機会がある。

 探偵を名乗ってはいるが情報屋の真似事をしており、死体が増えそうな場所を教えてくれたりする。

 目的は知らないし興味もない。


「死体は?」

「一体も残ってないよ。君はこんな状態でも死体第一なんだ」

「いまさらでしょう」


 感覚が人型に広がっていく。死ぬ前に覚悟していれば今回のように身体の復活まで意識を失ったままなんてことにはならないのだ。もし今回も起こることが事前に分かっていれば、反撃の一つくらいはできただろう。


 なんて変な負け惜しみを心の中で紡いでいるのは、偏に死体が手に入らなかったからだろう。

 自分で自分の心を完全に理解することなどできない。

 けれど、僕のすべては死体に関することで構成されていることを自覚している。


「今回も情報を持ってきたよ」


 薄ら笑いを浮かべ、淡々と言葉を紡ぐ。


「隣町のマフィアが攻めてきた。殺し屋を名乗っていたのは【火葬屋】という少年のような成人男性。君はこの【火葬屋】を倒さない限り、死体は手に入れられないだろう」

「……火葬」


 僕にとっては天敵のような文化だ。

 燃えてしまった死体はもう灰であり、僕の興味を引くものではない。


「さて、伝えることは伝えたし私は先に行くよ。密室で裸の男と密会などという状況は私が望むところではないからね」


 いつも通り言いたいことを言ったらすぐに消える。


「そうだ。【火葬屋】が次に現れるのはおそらくこの町のマフィア本部だよ。そうなる前に敵マフィアを襲撃することをオススメするよ……君のためにも彼女のためにもね」



 ◇



 隣町マフィア本部


 黒塗りの壁四方を囲まれ、窓は一つもない部屋。机と椅子が一つずつ。


「ボス。【火葬屋】が先制攻撃を成功させたと報告がありました。【埋葬屋】は排除できたそうです」


 椅子に座り机に伏せる男に向かって、サラリーマンのように髪をセットした長身の男が事務報告を行っている。伏せている男は対照的に無精ひげをそのままにし、髪は低気圧の日のようにボサボサである。


「お前に任せていた【殺し屋】の件は解決したのか?」


 サラリーマン風の男にボスと呼ばれ慕われているであろう男はぴくりとも動かず声だけで返答する。


「いえ、殺し屋を名乗っていたであろう超人は未だ発見できていません」

「それで?」

「【壊滅屋】と【火葬屋】を襲撃に使います。殺し屋は」

「物量で潰す算段か。【壊滅屋】も【火葬屋】も失うことは許さん。下がれ」

「かしこまりました。失礼します」


 暗闇の部屋に一人が残る。

 その男は力のみでボスの座に成りあがった。

 そして貪欲さを隠すことなく、町にいた他マフィアを壊滅させ、超人のみを引き抜いた。引き抜く方法は力で屈服させるだけ。このボスには複数の超人に対してたった一人で制圧できるだけの力がある。


 始めはひとりだった。

 一つのマフィアを乗っ取り、二つ目を潰し、三つ目を吸収した。

 野良の超人も余すことなく屈服または殺害し、自分だけの王国を作り上げた。


【圧政王】、彼はそういう超人だ。


 しかし彼はまだ動かない。


 ◇


 部屋を出たサラリーマン風の男は溜息一つ吐かずに、即剤に次の仕事に取り掛かる。その仏頂面がゆがんだことは一つもない。


 廊下を進み、石壁に鉄格子といった牢屋のような造りの部屋の鍵を開ける。


「仕事を頼みます、【壊滅屋】」


 その中には胡坐で地面に座り、漫画を読む女がいた。

 下半身はカーゴパンツで隠されているが、タンクトップから生えた二本の腕は筋骨隆々。素足だが、石の床では傷一つつかないであろう皮の厚さだ。


 その外見のままの性格で、大雑把、ガサツ、節操なし。そして戦闘狂。

 彼女がこの牢屋にいるのは、罰などではなく彼女自身の趣味だ。


「いいのかここを出て、人を殺しても!」


 彼女を扱う上で気を付けなければいけないことは一つ。

 牢屋に閉じ込めている、という設定を守ること。

 ……理由はボス以外誰も知らない。


「ええ。隣町を支配しているマフィアを壊滅させてきてください」

「おお! 大仕事じゃないか!!」

「【火葬屋】も同伴させるので、彼だけは殺さないでください」

「ああ! 死なないように気を付けさせろ!!」


 彼女は傲慢で、基本的に人の話を聞かない。そこに悪意は一切なく、単純に馬鹿なのだ。

 しかし、彼女はサラリーマン男よりも【火葬屋】よりも組織にとって重要な駒である。それは単純な破壊能力がとびぬけて高いためである。その点においては最強のボスをも超えるだろう。


 そんな【壊滅屋】と【火葬屋】のペアを止めることができる超人などいない。

 当家ではボスのみだ。ボスならば一人で二人を相手に圧勝することができるだろう。


 男は携帯で【火葬屋】に連絡し、【壊滅屋】が動き出したことを伝える。

 彼はここまで、隣町の殺し屋を名乗る人物たちを殺し、マフィアの本拠地を割り出し、噂程度の超人の殺し屋を捜査した。

 戦闘能力では【火葬屋】や【壊滅屋】には敵わないが、彼が動かなければボスが動くしかなくなってしまう。



 彼は【詮索屋】。

 相手の心理を読み、書き換える。そんな感情を左右する能力を持った彼の心は常に凪である。









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