233話 -口笛吹いて-
「しろ、ろ、シロロ………」
降りてこない。
「どういうことだ!?飛び上がったっきり全然降りてこないぞ」
Aランク冒険者グループ「タスク」のヒョウゴが驚きの声を上げる。
「あの子どうなってるの!?普通ジャンプしたら地面に降りてくるよね。全然降りてこないじゃん。どういうジャンプなのあれ?」
「そんなこと僕に聞かれても」
肩を揺すって来るミーラに答える。
「浮いてるね」
ウミカがぽつりと言った。
「あの子あんなスキル持ってたんだ」
「スキル!?」
「だってスキルしか考えられないでしょ」
「けどシロロのスキルはギャンブルの機械を作り出すスキルなんじゃないの?」
「わかんないけど二つ持ってたんじゃない?」
ウミカは当たり前みたいに言った。
「そうか二つか。っていうかウミカは驚いてないの?」
「なんで驚くの?スキルだったら私だって持ってるしモルンだって持ってるじゃない」
「そう言われてみたらそうだけど」
あまりにもあっさりと言い返されたので、大騒ぎしている自分のほうが変に思えてくる。
「だってスキルっていっぱい種類があるんでしょ?」
「うーんなるほど。それならそんなに驚くことでもないのかな」
「何言ってんだよスゲーぜあれは!」
納得しようとしたところでヒョウゴが大声を張り上げた。
「あんなスキル使ってるやつは見たことねぇぞ。すげー、十分スゲーことだ。これを飲み屋で話したら大盛り上がりだぞ。見世物にしたら大儲けできるぞきっと」
「落ち着けヒョウゴ」
興奮しているヒョウゴの肩に「タスク」のリーダー格のサイギが手を置いた。
「落ち着けるわけないって、だってスゲーじゃんあんなの」
「興奮するのは分かるが仕事中だぞ。それに依頼人のことを他人に話すことはできないだろ」
「なんでだよ、こりゃ大ニュースだぜ」
「大悪魔宣誓書、忘れたのか?」
「あっ、そうだった。そんなのがあったなそう言えば」
「制約を破ったらたちまち大悪魔に食い殺されて終わりだ」
「それじゃあこんなおいしい話を誰にもしゃべれないってことかよ」
「そういうことだ」
「くっそ!なんてこったよ」
ヒョウゴはがっくり肩を落とす。
「シロロはあそこで何をやってるんだろう?」
「そう言われてみれば………さっきは魔物を呼ぶっていう話だったよね」
「口笛を吹いてる」
ミーラが言った。
「え?」
「あの子、口笛を吹いてるわ。きっとあれで魔物を呼ぼうとしてるんじゃない?」
「そうか、ミーラは耳がいいから聞こえるんだね」
「こんなの私じゃなくたって聞こえるでしょ。耳かっぽじってよく聞いて見なさいよ」
少し照れたように言った。
「私も聞こえる」
ウミカが言う。
「本当?」
「モルンも耳をすませばきっと聞こえるよ」
そういわれてモルンは耳に手を当てて目を閉じた。
「なんか微かにに聞こえるかも」
「ね、そうでしょ?」
「俺には全然聞こえねぇな」
ヒョウゴが言う。気が付いた時にはモルンの周りには全く同じポーズをしている人間ばかりだった。
「え!?嘘でしょ!?」
ミーラが大声を上げた。
「どうしたのミーラ、いきなりそんな大声を出して」
真となりにいたモルンが耳を摩りながら言う。
「すごい足音が聞こえる」
「足音?」
「魔物の足音、森の方からだと思う。それもものすごい数、なんかこっちに向かってすごい勢いで向かってきてる」
「え!?」
一斉に森を見るがそこにはさっきと代り映えしない豊かに茂る鮮やかな緑があるだけだ。
「何も聞こえないけど」
「わたし逃げるね」
「ちょっと待ってよミーラどういうことなの?」
「あれ?」
隣にいたはずのミーラの姿がなかった。
「私かくれるのは得意だから、それじゃあみんな頑張ってね」
「何が起きてるんですか?」
冒険者のロクサンが不安そうな声を上げた。
「よくわからないですけどミーラはものすごく耳がいいので………」
「それじゃあ本当に魔物の大群がこっちに向かってきてるってことですか」
ロクサンは料理が得意でお店を出すために冒険者として活動しているが、戦闘自体は冒険者としては普通より少しできる程度で、それほど得意というほどではない。
「お前ら準備しろ!何があっても依頼人だけは絶対に守り切れよ!」
「ちょっとサイギさん本気で言ってんの?まだ魔物の姿なんかなんも見えてないんだよ」
「見えてからじゃ遅いんだよ。何があってもいいようにとにかく戦闘態勢に入れ!」
「わかったよ」
Aランク冒険者グループ「タスク」のメンバーが動き出す。モルン達依頼人を守る様にその周りに配置についた。
「本当にくるのかね?」
半信半疑と言った感じでヒョウゴが言う。
「何もなかったらなかったでいい。けどこれは俺たちがAランクになって初めての依頼仕事だ。こんなところで躓くことだけは絶対にあっちゃならないんだよ」
「そりゃそうだけどさ。こんな王都からいくらも離れてないところに魔物の大群なんて来るわけないよ」
「本当にそう思うならなんでそんなにしっかり準備してるんだ?お前だって本当は嫌な補完がしてるんじゃないか?お前は勘だけは鋭いからな」
「勘だけってなんだそのいいかた、俺は戦ってもしっかり一流なんだからさ」
「まさか逃げようなんて考えてるんじゃないだろうな」
「まさかそんなわけないじゃない。何を根拠にそんなこと言ってるのさ」
「顔だよ顔」
「俺たちは仲間だろ、なんでそんなひどいことを言うんだよ。よっぽどのことでもない限り逃げたりしないって」
「何があっても逃げるな。もし逃げたら俺がお前の背中を一突きだぞ」
「わかってるよ、ほんの冗談で言っただけだよ。だから俺にその剣を向けないでくれ」
皆が不安げに森を見ているが、森には一切変化は見られない。声も音も何も聞こえない。
「なんだか首の後ろがピリピリしてきた」
「どうしたんですかレノア先生」
モルンが不安そうに聞く。
「私は危険を感じると首の後ろがピリピリしてくるんだよ。現役時代はこれにずいぶん助けられたものだ」
「ということは………」
「来るかもしれないな魔物の大群が」
「え?」
「無理に倒そうなんて思わなくていい。そういうのは全部そこにいるAランク冒険者がやってくれるだろう。私たちは依頼される側なんだからな」
レノアの笑いの中には若干の緊張が見られた。
「シロロはまだ口笛をふいてる。今すぐやめさせないと」
ウミカの声をかき消すように、森の奥から魔物の雄叫びが響いた。




