132話 -犯人はこの中にいる-
「ああ、じっくり見てたよ」
「ええぇ………なんで助けてくれないんですか」
「なんでってそりゃあ、わかるだろ」
分かるって何がだろう。
「だからモルン、お前が負けるはずが無いのは分かってるんだよ。身体強化が使えるとかそんなんじゃない。別に学校以外でもあんなのはよくあることだ。人間が複数いれば自分より弱い人間を作ろうとすることなんて当たり前にくっついてくることだ。それを腕力でやるのかそれとも口でやるのかの違いはあるだろうけどな、人間ってのは暴力が大好きなんだ。ほんっと人間って醜悪な生き物だよな」
「はぁ………」
「何が言いたいかっていうと。やられる側の人間の匂いがしなかったんだ、お前からは。恐怖に支配されている人間の匂いがしなかった、焦りもな。だからあいつらはちゃんと気が付かなきゃいけなかったんだよ、自分たちは人数で優ってると思いこんでふんぞり返ってるんじゃなくて相手の様子をしっかり見ておかなきゃならなかったんだ。そうすりゃあこれはいつもとは違うぞ、って気付いて痛い目に合わずにすんでいたんだ」
「なるほどぉ」
なんとなくいまいち納得できないような気がする。だからといって助けてくれてもいいんじゃないかと思う。
「噂の新入生の実力を見てみたかった、ってのはあるよ正直な。あとはあいつらがボッコボコにされるのも見てみたかった。それに喧嘩をとめることなんか教師の仕事じゃない。それにあたしは正式な教師ってわけじゃないしな」
「正式な教師じゃないってどういうことですか?」
「あぁ、あたしは戦闘特進クラスを教えるために雇われているだけだからな。普通の授業には参加しないんだ、あたしが教えるのは戦闘、メインはそれだな。それだって2年、いや3年目か」
「そうなんですね………見られていたなんてちっとも気が付きませんでした」
ちょっとショックだ。
「周りの状況をよく確認しながら行動しようとしていたんですけど、全然できていませんでしたね」
「ああ全然駄目だな」
ものすごくはっきりと言われた。だけど不思議と嫌な感じはしない、さっぱりした言い方だからかな。
「見てたのはあたしだけじゃないんだから」
「ええぇ!?」
「もうひとり陰に隠れて見ているのがいたんだぞ。それにも気づいてないだろうモルンは。あたしは上から、そいつは横から見てたんだ」
「本当ですか、全然気が付きませんでした」
「ああしかも同じクラスの生徒だ」
「誰ですか?」
「教えられないなそういうのは自分で見つけるものなんだよ。向こうは見つけられたくないと思って隠れていて実際見つからなかった。それなのにあたしが教えるのはフェアじゃない」
「そういうものですか?」
「そういうものだ勝負だからな」
「うーん、わかりました」
別に教えてくれてもいいような気もするけど。けどそうはっきり断言されると先生の言うことが正しく思えてくる。
「やっぱりまだまだだなぁ………」
職員室から帰りがてらモルンはため息をついた。
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「おうモルン!」
教室に入った途端にシンジと目が合った。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるか、お前を心配してたにきまってんだろ。大丈夫か、レノア先生にガッツリやられたんだろ?」
「ああそのこと、ええと、なんとか大丈夫」
先生はむしろ喜んでいたようだけど、さすがにそんなことをいうのはまずいだろう。生徒が怪我をしたのを喜んでいると思われるのはレノア先生にとって相当マイナスだと思う。
「そうかよかったぜ、レノア先生って結構武闘派だからただじゃすまないんじゃないかと思ってたんだ」
「そんなことは全然なかったよ」
「まさか退学になったりはしてないんだろ?」
「うん、それも大丈夫」
「おお!よかったな、せっかく同じクラスの仲間になったのに一日目でいなくなっちまうのは寂しいからな」
「ありがとう」
シンジと喋りながらも僕は教室を見渡す。この中にあの時あの場面を見ていた人がここにいるんだ。
気になる。
どうしてあの時僕は気が付かなかったんだろう。あの時自分では恐怖は感じていなかったと思う。緊張感はありつつも周りの状況をよく見てどういう行動をするのが一番いいのかを考えて、そして見ていたはずだ。それなのになぜ気が付かなかったんだろう。それが知りたい。まあ単純に僕が見落としていただけかもしれないけど。
今僕の背中をバシバシ叩いて喜んでいるシンジは絶対に違うはずだ。もしシンジがあの時いたのなら隠れて見ていたりはできないだろう。たぶん大騒ぎしていると思うから絶対に気が付く。
あの時僕のことを呼び出した奴らもいないからこのクラスの中の6人は外していい。ほかの生徒たちの様子を見ると僕とシンジのことを皆が少し離れた位置から見ているのが分かる。ボクと目が合うとすぐに逸らしたりしているけど興味を持っているのが分かる。黒フードの男の事件の時とは比べ物にならないけど、それでも学校の中では結構大きな出来事だから嬉しくはないけど、興味があるのは理解できる。
あれ?
ひとりだけ机に顔を伏せて寝ている恰好の女子がいた。この教室の中で彼女だけだ、僕のほうを見ていないのは。




