プリンセスキャベツの波乱万丈な人生
……だいぶ疲れてるなこの主人公。
「やーらかしたなぁ……」
べっちょり。
そんな形容詞が似合う、この状況。
私はとりあえずシンクのボウルにぶち込んだそれを、指で持ち上げる。
その手には、ビニール袋に包まれた淡い翡翠色。
……の千切り。
「まさかチルドでもないのに凍るとは思わんかった」
疲れでヤケになってスーパーで食材を買い漁り。
次の休日で具だくさんのお好み焼きでも作ろうとしていたのだけれど。
「丸のままだったら大丈夫だったかな」
……ま、そもそも野菜室を酒蔵にしているのが悪いんだけども。
いただきものの美味しい日本酒。
冷蔵保存しようにも冷蔵庫が空いておらず、大吟醸なので常温保存も出来ず。
せめて少しでも涼しいところに、と大吟醸陛下は、野菜室を占拠しているのだ。
で、結果。
平民もとい適当に冷蔵庫に突っ込まれた千切りキャベツが凍ってしまった。
そしてお好み焼きの準備をしているうちに溶けた。
台所を結露で水浸しにして。
「こーれじゃお好み焼きは出来んなぁ……」
いわゆる冷凍&解凍されて繊維が壊れた状態のキャベツは、どうひいき目に見てもお好み焼きとは相容れなさそうだ。
こんなん入れたらお好み焼きがシャバシャバのもんじゃになってしまう。
いや、もんじゃにすらならんか。
とりあえずキャベツだった何かは置いておいて。
「……まぁ要するに味付いた小麦粉の生地なんだし、焼きさえすれば食べれるでしょ」
葉物があれば代用するが、残念ながら切らしているが、幸いなことにキャベツ以外の具はある。
ひとまず、冷凍庫に入っていたいんげんとミックスベジタブル、お好み焼きに入れる予定だった刻んだはんぺんとシーフードミックス、天かす、サクラエビ、その辺にあったスルメイカ裂いたやつ。
あとピザ用チーズ。
まったく統一感がない組み合わせだが、まぁ〝お好み〟焼きなんだから問題はない。
「ま、これだけ具材入れればキャベツの代わりになるでしょ」
なるか?ならんか~?
とりあえずやってみる。
まぁ多少見た目がおかしくても、消化さえ出来れば問題ない。
フライパンでしゅうしゅう鳴いているのは、お好み焼きというにはあまりにフリーダムで、チヂミというには分厚すぎる別な何か。
とはいえそれほどおかしなものは入れていないので、これのデキに関してはそこまで心配していない。
問題はこっち。
でろり。
「……とりあえず加熱するか」
お湯を沸かす。
その中に、でろでろになった千切りキャベツを水分ごとぶち込む。
フリーダム焼きに入れ損なったベーコンも少々。
味付けはコンソメ。
沸騰したところで溶き卵をそろりと流し込み、かきたまにする。
「まぁこんなもんか」
とりま傷んでさえいなければ、焼くか煮るかさえすればだいたいのものは喰える。
料理人の兄が聞いたら卒倒しそうな格言だが、正直言って真理だと思う。
そうこうしているうちに、フリーダム過ぎる謎の物体が焼けてきた。
欲張って具を入れすぎたせいで、ひっくり返すときにぐちゃっとなってしまった。
両面?がこんがり焼けたところで、はしっこを少し齧ってみる。
見た目だけなら十分、お好み焼きっぽい。
「あつぅ……」
キャベツが入っていないせいでお好み焼きというよりはチヂミに近い食感だが、お前はこれからお好み焼きになるんだよ……!
そもそもチヂミっぽいとか言ってるわりに、ニラも入ってないしな!
おもむろにソースとマヨネーズ、青のりとかつおぶしをたっぷり。
「うん、なんかすげぇたんぱく質!」
お好み焼きのキャベツって大事だったんだな、と、しみじみする。
ごめんよ、もうキャベツ姫はお好み焼き王国には帰れない姿になっちまったんだ。
俺のせいでな!
……寝取られ?
「あ、でも美味いな。寝取られキャベツスープ」
学生時代は品行方正そうなおかんが聞いたらぶちギレしそうな妄想(以下略)
まぁ身も蓋もない言い方したらただのキャベツと卵のコンソメスープだしな。
ベーコンも入ってるけど。
「お好み焼き王国に帰れなくなったキャベツのお姫さまは、受け入れてくれたスープ帝国で幸せになりましたとさ、めでたしめでたし」
そしてキャベツ姫を失ったお好み焼き王国は、たんぱく質に支配されて国民みんながマッチョになりましたとさ、おしまい。
めでたいかどうかはさておいて。
月イチ連載のスローペースとはいえ、無事に連載6年目に突入しました。
モチベーションが保たれているのは、いつも読んでくださっているみなさまのおかげです。
ありがとうございます。
風呂敷の畳みどころを失い、自分でもいつまで連載が続くのかわかりませんが、もうしばらくお付き合いいただければ幸いです。
次回更新は10/25です。




