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二輿物語 『胡蝶恋記』  作者: tomoya
一章 「王、婚儀を命じる」
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「よく理解した。貴重な進言に感謝する」

 ウルフはアレキスとの対談が終わると、背筋にどっと汗が出た。彼が内包しているカリスマを感じる。彼を意のままに御するのは難しいと体感した。

 その後、全ての大臣と言葉を交わし、この国が持っている問題をいくつか指示される。考察する点が明確になり、誰に何を頼むべきかが判る。話し合いが終わる頃には、すっかり打ち解け、大臣たちがウルフの結婚式について口煩く忠告するまでになっていた。

 その間、ザヴァリア王は全く口を挟まなかった。彼はただ、ニコニコ笑っていた。王子の傍で彼はただ悠然と行方を見守っていたのだった。



 夕飯の時間が近づく。アリシアは長い髪にくしを入れて、ため息をついた。ウルフに会うのがおっくうだ。また、今夜も彼の戸惑う顔を見なければならない。

 侍女たちが今夜のドレスのチェックをしていた。

「あら、やぁだ。今夜のドレスは趣味が悪いわ」

「本当、変な色」

 アリシアは彼女たちの言葉を聴いて少し落ち込む。そんなドレスを誰が着たいと思うだろうか。アリシアは「色を変えて」と簡単に命じる。

 彼女の傍で、衣装を担当していたセレナが泣きそうな顔になった。一生懸命選んだドレスなのに、姫は一度も見ずに拒否したのだ。

 しかも、セレナが次のドレスを持ってくると、侍女たちがまた文句を言った。

「もっと華やかなドレスはないの?」

「あなたってセンスがないわ。だから、輝殿下から姫さまに文が来ないのよ」

「セレナのせいよ」

 セレナはドレスを抱いたまま、立ち止まってしまった。勿論、アリシアも哀しくなってくしを通す手を止めてしまう。

 侍女たちの言うとおり、ウルフはアリシアに一度も文を送ったことがない。愛を告げる詩も歌ったことがないのだ。自分は本当に彼の妻になるのだろうか、と疑う。本当は彼に拒絶されているのではないだろうか。

「……ひぃっぐ、ぅ、うっ」

 セレナの泣き声がして、アリシアははっとした。

 振り返るとドレスを抱いてセレナが角の方で泣いていた。ウルフの件で彼女が責められるのは間違っている。アリシアはあわてて、彼女の名前を呼んだ。

「セレナ」

 セレナは可愛らしい顔を真っ赤にして、泣いていた。彼女はアリシアよりも年下の侍女である。アリシアは彼女が気の毒になって手招きする。

 傍に来たセレナの腕からドレスをとって、見つめる。淡い桃色のドレスだ。優しい色合いでふわふわしたドレスだった。赤い糸で繊細な刺繍がつづられている。

 アリシアは気に入って、嬉しそうに笑った。

「綺麗なドレスね。今夜はこれにするわ」

「ぅっ、うっぇっ、ひ、姫様ぁー」

 セレナはアリシアの膝に抱きついて泣いてしまう。アリシアは優しく微笑んで彼女の頭を撫でた。

 もともと、セレナの作るドレスが好きなのだ。アリシアはウルフのことを考えるのを辞めた。彼とはきっと趣味が合わないのだ。そんな男の評価を気にして、好きなものが着れなくなるのはおかしい。

 アリシアは突然、吹っ切れて表情が明るくなった。鏡を見つめて笑顔になる。

「さあ、このドレスに合う装飾品を持ってきて――セレナ、背中のボタンを外すの手伝って」

 鏡の前で服を脱いでドレスに袖を通す。侍女たちはアリシアの周囲でネックレスや靴、髪留めを用意して彼女を手伝った。

 長い髪にこてを当てて、軽いカールを付けていく。キラキラした小さなビーズを髪につけて、ふんわりした髪型にまとめていく。花の香りのする香水、透き通ったガラスのような靴、白い宝石と純度の高いクリスタルをティアラに選び、小さな白い羽根を髪に取りつける。

 天使のような可愛らしい姿になった。

 薄いピンクのドレスは半透明な布地を何枚も重ねて作ったものだ。うっすらと鎖骨が透けて見える。全体的にふわふわして包まれた感じの衣装だ。風に吹かれたら、空に舞い上がりそうな軽やかさだった。

 アリシアは気に入って機嫌がよくなった。

「とても可愛いドレスね、セレナ」

 セレナは涙目のまま真っ赤になって笑った。嬉しそうに唇をかんで、スカートの裾を整えている。姫に褒められて、恥ずかしそうに俯いていた。

 侍女たちはセレナを見たまま、居心地悪そうに黙っていた。彼女たちはセレナばかりが可愛がられてつまらないのである。

「今日は白っぽいドレス、か……黒い衣装の方が赤い口紅は映えるんだけどなー」

 化粧を担当していた侍女がルージュの色を選びながら、ぼそっと呟いた。彼女は外務大臣の娘、フィエタ・デル・ガボンだ。

 フィエタはセレナよりもセンスがいいと自負しているし、アリシアよりも美人だと自負している。この頃は、城を守る騎士や大臣の息子たちに婚約を望まれるようになっているが、彼女にとって彼らは役不足だ。もっと位の高い、もっと実力のある、もっといい男が自分にふさわしいと思っていた。

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