⑤
鍵は忘れなかったが、転がった警備員と警備機はそのまま放置してきた。ゲート小屋の老人は昼食で留守で、ウェンはポストに鍵の箱を入れびしょぬれになってレンタカーの運転席に戻った。
危険な状況に陥る事を予想しなかったジェロに、ウェンは苛立ちを向けた。
「フォルトは動かせない、車の迎えをよこせ。」状況をジェロに電話で報告した。横で聞いていたフォルトは歩けるよ、といったがウェンは譲らなかった。
岬町とフタバ本社の中間地点の街でジェロ本人が待っていた。フタバのロゴの入った黒い小型乗用車を、レンタカーの返却用店舗に乗り付けていた。
「大丈夫かい、大変な目に遭わせてしまったね。」
ウェンのレンタカーが停止位置に入るとジェロは車を降り、助手席のフォルトに言った。フォルトの体は異常も無くほぼ回復していたが、わざわざ迎えに来てくれたジェロになんとも無いと言い難く、曖昧な返事をした。
「いや、うん、大丈夫だ。歩けるんだけど。何とか、」
ウェンは知らん顔で運転席に付けられた操作盤で車の返却手続きをしながら言った。
「ユリエは7年前に出産している。」
帰ってくる間、ずっと考え込んでいた。ジェロは助手席越しにウェンに答える。
「勇気君だ。ラボでユリエに子宮を取りつけて、須藤が胚移植し、成功したんだ。佐々木夫妻の代理出産だ。」
「同じ方法が何度も出来るのか?」
「子宮の機能は胎児を守る事で、胎児の形成と成長はほぼ胎児自身の役割だ。一回の出産の為に特別な仕込みをする事はない。人工臓器は僕らプラスと同じ複製遺伝子で造られていて、一度設置すれば母体の健康な限り生きているけど、その特別な激務に人工物の臓器がどこまで堪えられるかはわからない。今、製造部にシュミレーションをさせてる所だ。」
スマートな動作で車を降りるフォルトをジェロは目で追いながらつぶやいた。
「ユリエの改造チームは予想以上の技術力だったようだ。」
フォルトがドアを閉めるのを待って、ウェンは言った。
「須藤にもう一度会う。今からクリニックに行けるか?」
ジェロはもう一度腰をかがめてウインドウに手を着いた。
「確証がいる。佐々木家の両親に話を聞かなくちゃならない。」
ウェンは厳しい顔をジェロに向けた。
「今の問題はプラスのユリエが自分の希望で子供を産もうとしている事だ。勇気君の事は佐々木家の希望でやった事だろ。佐々木家の事に干渉する必要はない。」
「プラスが子供を産んだと言う事実は把握しておかないといけない。フタバ社のプラスは今後何らかの対策が必要になる。小川ラボの助手の話だけで勇気君の事を決め付ける訳にはいかない。ウェン、君がこんな事で佐々木さんに会いたくないのは解ってる。だけど社内で佐々木さんとの面識があるのは君だけだ。ご両親にとっては君が行くのが一番安心できると思う。」
ウェンは小雨の粒が弾けるフロントガラスを黙って見つめた。ジェロの言う事は間違いではない。
段取りが良すぎるだけだった。
「お前は知ってたのか。だから俺を選んでこの仕事をさせたんだな。」
ウェンの硬い声に感情が滲む。ジェロの返す声も敏感に反応していた。
「君を選んだ理由は話した通りだ。ユリエの件に勇気君の出生が関係しているとは僕は思ってなかった。」
「回路の予想にはあったんだな。」
「当時の最新の子宮技術を一般の町工場が扱ったという仮説は現実的じゃないと思ったんだ。」
「なんで俺に言わなかった?」
「中央回路が何通りも立てる仮説を全て君に話す必要無いだろ。」
「知ってて俺に子供の事を調べさせたのか?」
「回路は集めた情報から成り立つ推測を全て並べてくる。その中から、」
ジェロの話を待たず、ウェンは怒鳴った。
「知ってたのかって聞いてんだ!」
ジェロも同調する。
「結果的にそうなったってだけだ!僕のコントロールできた事じゃない!」
ウェンは車を降りて、荒々しくドアを閉めた。ジェロはウェンを追って腰を起こす。
「根拠なしで仮説を言ったら君は怒ったはずだ!今みたいにだ!」
「俺を操るな!俺は会社の部品じゃない!」
ウェンの怒鳴り声が無人の駐車場に響き渡り、二人は車越しに睨み合った。フォルトは少し離れて立ち尽くす。どうみても自分の出る幕ではない。
舌打ちをしてウェンは通りの方に顔を向け、そのまま歩き出した。
「どこに行くんだよ!」
「電車だ。」
吐き捨てるように言ってウェンは振り向かずに店を出た。モノレールの駅が正面のビルの陰に見えていた。雨は濡れて困る程じゃない。小雨のぱらつく歩道を駅の方へ見当で向かった。
フォルトはウェンが地下街へ降りて見えなくなるまで立っていた。
「ウェンはどこにいったんだい?」
「知らないよ。」
ジェロの棘は治まらない。
「俺はついていった方がいいのかな?」
「かまわないよ。あいつの勝手にすればいいんだ。僕の車に乗ってくれ。」
ジェロは運転席に座ると、エンジンを掛けた。
「なんであんなに怒るんだ。」
聞いていないふりをするフォルトに、ジェロは勝手に文句を呟いた。
「あいつは頭が固い。物事の全体を見ていないよ。」
ハンドルを握ってぶつぶつと言った。
引け目はあった。勇気君を産んだのがユリエだという仮説を信じなかった、と言ったのは嘘じゃないが、ジェロの中でも揺れていた考えだった。この仕事にウェンを指定したのは、その可能性も織り込んでの事だったのは間違いない。ウェンが勇気君の秘密を自分が晒してしまう事態を快く思わない事は考えれば判る事だったが、人探しという不慣れな仕事は現状自分も精一杯で、細々な情感は優先順位から外れてしまっていた。
「僕も精一杯だ。」ジェロの呟きは自分自身の動揺だった。
なあ、とフォルトに同意を求めた。
フォルトは口をつぐむ。フォルトはラボで、ウェンが言ってくれた一言が実は嬉しかった。お前は頼りになる、と言葉にしてくれたウェンはフォルトの中に居残っていた。
「ウェンには大切な物があったんだ。」
ジェロは細めた横目でフォルトに視線を投げる。
ふうううん、と不満気に呟いた。
耳元でコール音が鳴り、ノートに表示された電話着信は「温田常務」からだった。直属ではないが、製造部の最高責任者で面識はある。
「ジェロです。」ジェロは車を自動運転に切り替えて応答した。
「女の件を聞いた。どんな状況か知りたい。」
温田はいきなり要件を言った。
「温田常務ですか?」
機嫌の悪い相手にジェロはガードを張る。
「製造の温田だ。」
「ユリエの件は夕方僕の上司に経過報告します。今は調査中です。」
「小川さんが関わってたそうだな?」
温田は製造部の幹部社員だった小川を知っている。
「ユリエを改造したのは小川さんです。」
「元は部長クラスだ。あの男はプラスの開発に関わってた。ラボに行ったか?」
口調に二人の幹部のありがちな確執が想像される。仕事の運びに口を出されるのは面倒だった。
「今この調査を最優先に動いています。報告書を僕の上司から部長に廻してもらいますので。」
移動中なので、と早々に電話を切った。
「製造部のトップからだ。製造部は焦ってるよ。」
「どうして?」
「プラスの出産技術については以前から問題提議があったんだ。ユリエの事が公になればフタバは防止措置をしてこなかった事を追及される。思いつかなかった、じゃ済まされない。防止措置をとるのを怠ったのは製造部の責任だ。」
状況は良くない。ユリエにはすでに出産能力があり、須藤は胚移植を終えている事も考えられる。佐々木家の関わりを確認する必要があるが、自分とフォルトが佐々木家に行ったとしても、話が聞けるとは思えない。
「何れにしても非難を受けるのはフタバ社全体だ。ウェンにかまってる暇はない。僕が須藤に会う。」
ジェロはノートをつかみ、端のマイクに声を吹き込んだ。「緑ヶ丘の須藤クリニックへ繋いでくれ。」
ノートが須藤クリニックにアクセスを始めるのと同時にピピ、とまた電話着信が鳴り、ジェロは舌打ちをしてノートの通話ボタンを押した。ノートにウェンからの電話だとディスプレイされ、ジェロは言葉が詰まった。
「俺が佐々木家に行く。連絡先を転送しろ。」
留守番電話の録音の様にウェンが要件だけを言い、一方的に電話を切られた。
冷たいコンクリートの研究室は暖房が行き届いてなかった。青い瞳の教授は両手をこすり合わせ、ミーティング用のスペースの造花の置かれたテーブルにウェンを通した。ウェンは夫人を保育園で見ていた時には気付かなかったが、正面に居る夫婦は一人だけの子供の年齢からすると高齢だった。
「僕達の結婚は高齢だった。子供が欲しかったが妻の妊娠出産はリスクが大きかった。」
教授はウェンがフタバの調査員として現れた理由を測りかねていた。佐々木家が子供を授かる為に選んだ方法は、社会の様々な考え方がある中で是非を問われる事柄であり、ウェンは自分の考えを今すぐに決める事はできなかった。
「小川ラボにはヒトの遺伝子を扱う技術はありませんでした。ユリエに胚移植をしたのは?」
「僕達夫婦の遺伝子だ。」
教授の答えはウェンの質問の意味と違った。
「須藤と言う医者ですか?」
教授はウェンが須藤の名前を知っている事に少し驚いた顔をた。
「須藤さんと小川さんは新規ビジネスとしてのプラス女性の代理出産の可能性を探っていた。僕は被験者として彼らに申し出たんだ。」
ビジネスはウェンには無い概念だった。二人の研究者の意図はそうだったのかも知れない。だが、ユリエがビジネスとして計画に加わったとは思えない。
「ユリエを選んだのは誰ですか?」
「小川さんは二人のプラス女性を同時に体改造したそうだ。小川ラボの助手のプラス女性が志望し、もう一人、その女性が連れてきた友人がユリエで、結果的にユリエの方が妊娠に成功した。」
小川ラボの助手はルウだ。
「二人はどうして協力したんでしょうか?」
「小川さんが持ちかけた話で、彼女達は子供を産んでみたいと思ったんだそうだ。」
夫人が、ウェン先生、と口を挟む。
「あなたはユリエを探しているの?」
フタバが予想しているユリエの行動を二人には言っていなかった。
そうです、とウェンは答えた。
夫人は僅かに唇を動かし、何か聞こうとしたが言葉にはしなかった。教授が両手を机の上で組み合わせ、代わりに言った。
「僕らは小川ラボに名前を公表しない事を条件にしていた。彼女が次の何処かの職場で身体の事を調べられるのが心配で、彼女に育児の仕事に通ってもらった。永く居てもらった事が彼女とウェン先生にとって不幸せな事になってしまった。」
ウェンは保育園の屋上で見たユリエの黒い瞳を思い出した。あの時ユリエは本当に子供を連れ去ろうとしたのだろうか?あるいはほんの少しの間、一緒に居たかっただけなのだろうか。プラスの精神がヒトと変わらず強くも脆くもある事を小川や須藤や教授夫妻も、恐らくユリエ自身も判らなかった様に、ウェンにもまた、判らなかった。
「契約期間は色々と引き延ばす事も出来たのかもしれない。」
プラスを個人で雇用する場合、年数の取り決めがある。精神面で主従関係が出来てしまう事を防止する、プラスを保護する為の条令だった。教授の言葉を夫人が庇う様に付け足した。
「私は彼女が子供を甘やかし過ぎる様に思い始めて、それが段々、許せなくなって来て。」
ウェンはじっと二人の話を聞いていた。
夫婦がユリエに負い目を感じているのは分かる。
不自然なのは、今、二人が勇気君の危険を心配している様に見えない事だった。突然ウェンからの連絡があれば昨年の出来事を連想しないはずは無く、ウェンは最初にその話になるだろうと思ってここに来ていた。
両親の心情に疑問を感じる。
「ユリエと、話しましたか?」ためらわず、質問した。
夫人と、教授の困惑の顔にウェンはピクンと緊張する。
「事件の後、ユリエと会いましたか?」
ウェンは無言の教授の青い瞳を真っ直ぐに見て、待った。この夫婦が今のユリエの行動を援助している事はないだろう。夫婦が言いたくない話があるのなら、無理に聞き出す事は出来ない。
「電話があったわ。」夫人が言った。
「事件からしばらくして、私の電話に彼女が掛けて来た。」
それはおそらく夫婦が誰にも言っていない話だった。
「どんな話を?」
「勇気を連れ出そうとした事を謝ったわ。この街を出て、もう戻らないから心配しなくていいって。」
「彼女の居場所を聞きましたか?」
「いいえ。どうして?どうしてあなたがユリエを探すの?」
夫人はウェンを問い詰める様に聞いた。
「ユリエはまた、子供を産もうとしています。おそらく、他の誰かの依頼ではなく、自分の子供です。」
ウェンは隠さなかった。夫婦が知っている事を全て聞かなければならなかった。
ウェンの言葉は夫婦の顔色を変えた。
「小川さんはもういないのに?」
「須藤さんが協力していると僕たちは思っています。」
夫人は感情を抑える様に口を結んだ。ウェンには分からないユリエの心を、夫人は察した様だった。
夫人はウェンを見ずに言った。
「彼女の気持ちを応援したい。」
「プラスには許されない行為です。」
断言した。
教授が声を漏らす。
「勇気が生まれてすぐに小川さんの身体が悪くなり、彼らの計画は形にならなかった。須藤さんは諦めきれずに小川さんの助手を自分のクリニックに雇ったりしていた様だ。」
教授は妻の方へ顔を向けた。
「須藤さんは野心家だが、プラスの人体構造については専門じゃあ無い。昔小川さんが書き換えたユリエの細胞遺伝子はもう変異しているはずだ。胚移植は出来たとしても、ユリエの体が2度目の出産を出来るとは思えない。」
夫婦の視線が交差した。
「母体自体が危険だ。」
じっと思い詰める夫人に、教授は何かを促した。
夫人はテーブルの蓮華を差した花器に指を伸ばし、意味もなく両手で包む。
「少し、お金を送金したわ。彼女が何処かの街で暮らすのなら必要だろうと思って。」
ウェンは言葉が詰まった。予想していなかった事だった。
「私は貸したつもりじゃなかったけど、先月、私の銀行にお金が振り込まれてたわ。」
「ユリエから?」
緊張が口調に出てしまう。
「多分、彼女がお金を返したんだと思う。」
「どこから振込みがあったんですか?」
声が厳しくなる。教授のユリエの体についての話に、焦らされたのはウェンの方だった。
夫人は花器を掴んだまま、戸惑いを解けないでいた。
「私は、またユリエを傷つけてしまうの?」
粉末の様な雨がしつこく降っていた。ウェンは雨の歩道を大学の正門のバス停留所に向かった。丁度到着したモノレール行きに乗ろうと学生達に混じって乗車口に向かうと、「ウェン。」と後ろから声が掛った。
振り向くとジェロがベンチに座っていた。ジェロは学生達の中でも違和感がなく気付かなかった。
「ああ。」ジェロの不意打ちにウェンは構えを作れずに素直に答えてしまう。
ジェロは立ち上がってベンチに掛けていた2本の傘をつかんだ。澄ました顔で人が捌けるのを待つ。教授夫妻と話している時にジェロからの電話コールがあったが、ウェンは無視していた。ジェロに大学に居ると言った覚えは無かった。
「会社の監視システムで君の電波位置を調べた。不愉快に思うかもしれないけど僕らには時間が無い。」
バスが出発の合図を出し、ウェンはだまってバスが発車するのを見送った。
「君を迎えに来たのは僕の誠意だ。」
ジェロは生真面目に話をする。ウェンの考えていた事はもうそこに無く、自分の態度を決めかねてバスが雨の大通りへ出て行くのを見続けた。
「自転車か?」
とりあえず聞くとジェロは首を振った。
「車だ。念の為フォルトをドクターの所に連れて行った。」
ジェロに促され、二人は建物の軒のコンクリート通路を歩いていった。
「小川と須藤がユリエに出産をさせたそうだ。二人はプラスに代理出産をさせて儲けようと思っていた様だ。」
ウェンは直ぐに本題に入った。
「小川さんが亡くなって計画が破綻したんだな。ユリエはその時の実験体か。」
「ルウもだ。ルウは体改造を受けたが失敗したらしい。」
ジェロはビジネスの考え方をすんなり受け入れたが、ルウの話には眉をよせて見せた。
「そういう事か。」
独り言を言った。
「さっき須藤クリニックに電話をしたよ。須藤には明日の朝会う約束をしたけど、ルウは昨日クリニックを辞めたそうだ。」
「昨日俺達が行った後か?」
「そうだろう。今日はもう来てないって言われたよ。須藤はルウの行き先を知らない。嘘じゃない様だな。」
「ユリエとルウは元々の友達だったようだ。」
ジェロは頷いた。二人の出生が同期である事は調査済みだった。
「ユリエの行動をルウは手助けしている。多分二人は今、一緒に行動し、自分達の子供を夢見てる。」
ジェロの考えはウェンと同じだったが、ウェンの中には消化できていない事があった。
「行過ぎた願望だ。小川や須藤は彼女達を騙した訳じゃない。ユリエは佐々木家の子供だと解っていて勇気君を産んだはずだ。」
「一つの愛情は様々な思いを派生させ、補強していくものだ。ユリエは数年後の別れを約束していた子供に対して感情を成長させる事が出来なかった。切り取られた純粋で本能的な愛情だけがむき出しのまま、際限なく膨張して行ったんだ。彼女は『ジュリエット』だ。自分自身の心の中をさまよい、行き先を見つけ出したんだ。」
足元の注意を忘れ、ウェンは水溜りをビシャリと踏んだ。
「出口を間違えてる。」
広い車道の行き止まりにジェロは車を停めていた。元は通じていた道を金網のフェンスで塞いだ行き止まりで、フェンスの奥には使われていない校舎が見える。ウェンは車の手前で立ち止まり、ジェロを振り返った。
「須藤はもう胚移植をしたのかもしれない。その場合どうなる?」
ジェロは水溜りを迂回し、傘を閉じてウェンを見た。
「わからない。ユリエが今どういう状態で僕等はどう動くべきなのか、想像しても仕方ない。彼女を捕まえる事が何より先だ。」
「佐々木夫人はユリエと金のやり取りをしている。先月、菜市と言う街のキャッシュポイントからユリエは金を振り込んでるそうだ。」
ジェロはさっとウェンの顔を見た。傘を畳む手を止め、しばらく固まって考えた。
「菜市か。」
「そうらしい。どの辺だ?」ウェンは菜市を知らなかった。
「鉄道で2時間位かかる。近代農業区域の大都市だよ。中央回路に菜市でのユリエ、ルウの情報を探させよう。ユリエが金を持っているという事は菜市でなにかの仕事に就いてるって事だ。彼女のIDや銀行口座は凍結されている。偽造IDを使ってるはずだ。」
ウェンは自分の傘を振って水滴を飛ばし、車の助手席に放り込んだ。喧嘩の話はもう蒸し返さなかった。




