02 念
「悪いねえ、徹夜で付き合わせて」
「いいよ。良介君の家に行った時点で泊まりになるだろうと思ってたからね」
早朝に似合わない黒ずくめの男二人が駅に向かって歩く。
幾分酒が抜けていない身体が重い。
「あ、そう? 仲介まで頼んじゃって悪いかなーって」
「えっ」
珍しくしおらしい秀之に晴臣が唖然とする。
「なんだよ、そのツラはぁ」
憮然とする秀之を横目に晴臣は薄く微笑み、ポケットから煙草を取り出し火をつけた。
「いやあ、秀之がそんな事言うなんて思わなくて」
「悪かったなぁ」
「悪かないよ。ふふっ。仲介するのは嫌じゃないし、まあ、慣れてるしね。橋渡しするのは」
「ははっ。さすがインディーズ界の相談役」
「でもさ」
歩みを止め、秀之は晴臣を振り返る。
「晴臣がジェイに恨まれるって事になるんじゃないか?」
「それは、どうかな? 実際、分裂状態でジェイ自身が続けられないのを感じているよ。そう言ってたし」
晴臣は深く煙草を吸いこみ、大きく吐き出し一拍置いた。
「それに……さ、無理して続けたって、いい音創れる訳ないじゃないか。
横の関係無視して、セールスだけを考えてそれなりに創る。それで満足ならいいよ?
でもそれじゃ、やってる意味がないじゃないか。
まだ好きな仲間とコピーバンドを本気でやってる奴らの方が、追求し続ける分だけマシなんじゃないかって思う時もあるよ、俺はね」
「……なるほど? でも、ずいぶん辛辣だな?」
秀之は苦笑する。
「まあね、でもさ。嫌々やる為にバンド始めたんじゃないだろ?
いい音聴かせたい、聴いてもらいたいと思ってやってるんじゃないのか?
だったら何もわざわざ自分を悪い状態に置いておく事はないんじゃない?
そのままなら泥沼に嵌るだけだよ」
「そうだな」
秀之は携帯灰皿に吸殻を押し付ける晴臣の肩に手を置いた。
「じゃあ、心から橋渡しお願いしますか。相談役殿」
帰宅後、ドサリとソファに身を沈める。
秀之は思い出した。
十年前にアキに京也の家で会った事を。
電話を手に取り、良介に話す。
「アキってさ、時々すごい目つきすんの知ってた?」
「すごい目つき? って、どんな?」
「何て表現したらいいんだろうなあ。何かに憑りつかれてるっていうか、……狂気をはらんだって感じの?」
セデューサーの持つ雰囲気ではないのか? と良介は問う。
歌詞や曲調は暗く重い。トランス状態を誘うようなものだ。
だが、秀之はそれとは違うと感じた。
十年前、アキは京也を見た。
ステージ上の彼と同じ、ゾッとするような目で。
睨んだのではない。目を見開き、憎しみの隠せない視線。
ふいに秀之に気付き目が合った瞬間に、それは消え去り微笑んだ。
怖いものなしな性格だと思っていたが、秀之は本気で恐怖した。
「反対か?」と聞かれたが、そんなことはなかった。
実力もルックスも何も問題がない。
むしろ上手くすれば京也を超えられるだろうとさえ思った。
「それに京也の推薦だしね」
良介は言った。
──成る程、そこまで強く願っていたのか。
「離れる前に、秀之にお願いがあるんだ」
京也から電話で告げられた。
秀之にも京也はアキが継ぐ事を願った。
今まで何も要求しなかった京也の願い事だ。
できれば叶えたい。
ただ、簡単な話ではないような、そんな気がした。




