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婚約破棄した元勇者、辺境でスローライフ…のはずが元魔王に押しかけられて慌ただしい!  作者: cfmoka


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14話

目の前には不揃いな石の階段が続いていた。

ところどころには苔や湿った土がこびりつき、足を滑らせそうになる。

冷たい壁の凹凸をつかみながら、慎重に一歩ずつ降りていく。


地下の空気はひんやりと湿っており、石や土の匂いがわずかに混じる。

遠くから滴る水音が響き、闇の奥に潜むものの気配が、肌を刺すように感じられた。




私は腰の剣に手をかけ、地下二階へと足を運んだ。




二階は先ほどの洞窟のような薄暗さはなく、足首ほどの高さの草花が生い茂る草原になっていた。


ところどころ土が顔を出し、まばらに木がポツンポツンと立っている。柔らかな日差しが葉先を照らし、そよ風に揺れる草の間から小さな花が顔を覗かせていた。




ふと視界の端に何かの気配を感じ、私は耳を澄ました。

スキル《空識(エーテル・スキャン)》を起動し、“動くもの”の気配を広く探る。


周囲の“動き”が、空間に光の粒となって浮かび上がった。

光が素早く動き、低く不規則な足音と鼻を鳴らす音が混ざる――ゴブリンの群れだ。


敵を認識した瞬間、低く構える。群れはまだ私の存在に気づいていない。



「……行く」



足元の草を踏み、風を裂くような速さで駆けた。

狙っていたゴブリンが剣を振りぬいた衝撃で空中に舞う。


そのまま次々と敵の隙を突く。

剣が光を反射し、風を切る音が耳を打つ。草原にゴブリンたちの叫びが響き渡った。


素早い動作で、群れの動きを封じ、確実に倒す。


勇者の剣は冷静に、しかし確実にゴブリンたちを討ち、草原に静寂が訪れた。




息を整えながら、私は剣を軽く下ろす。


「ナギの動きは、いつも美しい」

シオルが目元をやんわり朱に染め、穏やかな声で言った。


「そう?」

思わず少し笑みがこぼれる。


「ナギ様の戦い方は全く隙がございません。感動いたしました」

ウェブスターが頭を下げる。


「ありがとう」

二人からの賛辞に、またしても照れ笑いがこぼれる。




「さて…何かいるね。ここ」

私は再び周囲を見渡す。

草原は一瞬の静寂に包まれているが…。


どこからか、何か大きな存在がこちらをうかがっている気配を感じた。


「……あの気配は」

「ゴブリンの群れが”あれ”から逃げてきていた可能性があるな」

シオルの言葉に、私は静かに頷いた。




しばらく草原を進むと、やがて木々が立ち並ぶ森が現れた。

足元の草は次第に密度を増し、木漏れ日が葉の間から斑模様に落ちる。


柔らかな風に揺れる枝葉の間から、ふと誰かの視線を感じた。


「……」

私はそっと周囲を見渡す。


「いるな」

シオルが低く呟く。

ウェブスターも周囲の動きを伺っている。


森の木陰に潜む存在の気配が、じっとこちらを観察していた。




木陰の気配が少しずつ動き、低く唸るような声が森の奥から聞こえた。

巨体がゆっくりと姿を現す。

先ほどのゴブリンよりもはるかに大きく、筋肉質で、腕には太い棍棒を携えている――オークだ。


「……単体か?」

シオルが小さく呟く。

私は剣に手をかけ、ゆっくりオークへと近づいた。


オークは木の陰からこちらを睨み、重い息を漏らしつつ、一歩一歩進んでくる。

その巨体の影が揺れ、草原に長い影を落とした。


「ナギ様、ここは私が…」

ウェブスターが静かに告げる。


「ありがとう。でも大丈夫」

私は二人を振り返って深呼吸した。


その巨体を揺らし、オークがゆっくりと棍棒を振り上げて来た。

私はその瞬間、横に回避する。


オークの棍棒が地面を叩く衝撃が、草原に振動として伝わる。

私はかわした勢いで身体をひねり、踏み込んでオークの足元に回り込んだ。


剣をしっかり握る。


オークの腕が更に振り下ろされる瞬間、私はその腕を狙い、一閃。

鋭い一撃が筋肉を裂き、オークは咆哮と共にバランスを崩す。

だがその巨体は容易には倒れない。


私は草の間を滑るように移動し、少し間合いを広げる。


その瞬間シオルの足元から魔方陣が出現した。


「シオル?」


振り向くと片手を前に伸ばしたシオルの姿があった。無数の氷の刃が一斉に立ち上がる。

風を切り裂き、オークへと凄まじい勢いで降り注いだ。

オークはその無数の氷の刃を棍棒で叩き落としている。


「ありがと!」

私はその瞬間を逃さず、オークの後ろに走り込み、深く沈んで高く跳躍する。

勢いのままオークの肩へ一閃、斬撃を叩き込んだ。


一連の動作は優雅に流れるように。

風を切るように、淡々と攻撃を繰り返す。


草が踏みしだかれ、葉が散り、最後の一撃を腹部から肩にかけて斬り上げた時、

オークは膝をつき、重く地面に倒れた。


息を整えながら、剣を軽く下ろす。


「……ふぅ、シオル、援護ありがとう」

シオルが近づき、倒れたオークを見ながら口を開く。

「余計だったかもしれないがな」

「そんなことないよ。パーティーだった時もよく魔法で援護してもらってたし」


ふと、勇者パーティーの賢者を思い出す。

シオルが今放った技は、彼も好んで使っていたものだ。



「シオルのは…だいぶ過剰な魔法攻撃だった気もしないでもないけど…」

思わず遠い目をして呟く。

「そうか?これでも森の中だから抑え目にしたんだが…」

シオルの不思議そうな顔を見ながら

「そうだね…」と呟いた。



「恐れ入ります、ナギ様。完璧な戦いでした」

ウェブスターが穏やかな笑みを浮かべ、胸に手を添えて一礼する。


私はまたしても照れた笑みを浮かべ、視線を再び森の奥へ向けた。


「一体だけの気配じゃなかったよね」


森は一瞬の静寂に包まれ、草が揺れる音だけが耳に届く。

だが、背筋に走るぞくりとした感覚――再び何かがこちらを伺っているようだった。


「様子を見ているな」

シオルが目を細め、森の奥を見据える。


ウェブスターも周囲を慎重に警戒しながら、静かに言った。

「まだ数体いますね……」




足元の草を踏みしめる。

「せっかくだから、さっきみたいにチームで戦う?」

「そうしよう。ナギと一緒に戦えるのは嬉しい」

私の提案にシオルは本当に嬉しそうに頷いた。


「では、私が前衛を務めさせていただきます」

ウェブスターが続く。


「よし!じゃあ皆でオーク狩りだね!」

森の奥から重い足音と低い唸りが響いていた。



私たちは一歩ずつ敵へと進み出す。

木々の陰に潜む巨体が、少しずつ姿を現した。


「……やはり複数か」

シオルが小さく呟く。


四体のオークが姿を現した。



私は剣に手をかけ、構えを低くする。

ウェブスターは静かに前方に立ち魔力を練った。


オークは唸り声を上げ、棍棒を振り上げて突進してくる。

私達は数歩横に跳び、攻撃をかわした。


「右側を止めます」

ウェブスターが地面すれすれに魔法の糸を放ち、オークの足元を絡めて動きを制限する。


シオルの足元から魔方陣が瞬時に出現し、こちらに向かってくるオークに閃光が放たれた。

光の刃が幾筋もオークの身体に突き刺さり、血と共に光が弾ける。


「ナギ!」


シオルの声に合わせ、ウェブスターによって動きを封じられていたオークに回転斬りを叩き込んだ。

それでもなお、棍棒を振り下ろそうとする腕を、剣で弾き返し、さらに横になぐ。

オークの片腕は飛び散るように空中へ弾けた。

一瞬、ひるんだかに見えたが、咆哮とともに巨体を揺らし、もう片方の腕を振り上げる。

その瞬間、ウェブスターの糸が二体のオークの体に絡みついた。

動きを制限されたその隙に、すぐさま一体のオークの両足を断つ。

残りのオークは倒れ込んできたところに首元を一閃、深く切り裂いた。




残る二体――シオルの放った光の刃が突き刺さった二体は、一瞬身をひるませた。


だが、オークたちは、雄たけびをあげ突進してくる。

一体の巨体が棍棒を振り上げ、もう一体は傷ついた巨体を揺らし、力強く地を蹴った。


棍棒が空を切り、重い一撃が地面を揺らす。

私はすれ違い様、斬撃を二連続で叩き込み、肩口から脇腹を斬り裂く。


同時にシオルが魔方陣を展開し、もう一体のオークに今度は無数の鋭い風の刃を放った。

視界の端で、裂けるオークの身体と飛び散る血しぶきを捉えた。

動きが鈍った隙を突き、かまいたちのような風が首筋を切り裂く。オークは顔面から地面に崩れ落ちた。


残る手負いの一体が跳び掛かってきたところに、剣を左から右へ静かに流す。

そのままオークは地面に倒れ込んだ。



森は再び静寂に包まれ、風に揺れる木々の葉だけが音を立てる。

私は深く息を吸い、剣をゆっくり腰に戻した。



ここまで読んでくださって有難うございます!

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