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22/22

旅行と言う名の逃亡

またまた更新が間が空いて申し訳ないです……。

「オペラ様の話は分かりました。でも、俺が殺される話が何で旅行なんて話に繋がるんだ」

「そこは私も気になってた。別にタナトが私と旅行なんて苦行をする必要ないよね」


 ……苦行、か。

 俺と旅行に行くのは姫様にとって、そういうものに当たるらしい。

 今更この程度の事でどうとも思わないが、やはり不快さはある。彼女は俺と一秒たりとも一緒に行動などしたくないのだろう。


 俺の顔を見たドナルドが若干顔を引きつらせた後、姫様に何かを確認するように向き直る。

 

「苦行というのはクラリス様にとって、という意味ではなくて、タナトにとってという話ですよね?」

「もちろん、そうだよ」


 姫様はどうしてそんな事を確認するのか分からないとでも言いたげに首をかしげるが、俺にとって姫様のその言葉は衝撃でしかなかった。

 俺は気づけば、心のままに彼女に問いかけてしまった。


「どうしてそんな風に俺の気持ちを決めつけるんですか?」

「それは……タナトが、私の事を憎んでいるから」


 弱弱しい語尾でそう告げる姫様はあまりに辛そうな顔をしていて、俺は思わずまるで慰めるかのように彼女の肩に手を置いてしまっていた。

 俺が自分を憎んでいるという事実に苦しんでいるかのような姫様の姿に、ごくりと唾を飲み込む。

 胸に湧いてきた感情のままに姫様の頬をそっと撫でる。そのまま熱に浮かされたかのように彼女の瞳を見つめ続けてしまう。


「タナト? どうしたの?」


 が、姫様の明らかに怪訝そうな顔であっという間に正気に戻った。


「別に、どうもしてませんよ」


 俺は何事もなかったように姫様からパッと手を離す。

 話を本題に戻そうと、ドナルドに問いかける。


「ドナルド、さっきの質問に答えろ。何で姫様と旅行に行かなければいけないんだ」

「気まずくて話変えたいの見え見えだな」

「二度と余計な口を聞けない体にしてあげようか?」

「お前が言うと本気にしか聞こえない所が恐ろしいんだよな。俺が旅行に行けと言ったのは、要するに姫様と一緒にどこかへ身を隠せって事だよ」

「なるほどね。俺がヘンリーに命を狙われているというのが本当なら、このまま領地に留まり続けるのは危険なのは確かにその通りだろう」


 それでもヘンリーから完全に逃げられるかどうかは断言が出来ないのがあれの恐ろしい所だが、少なくともここにずっといるよりはどこかへ身を隠した方が身の安全は守られるだろう。


「そういう事だ、という訳でとっとと姫様と逃げてくれ。もし見つかったとしても、姫様が一緒なら、オペラ様やヘンリーも手を出しにくくなるだろうしな」

「私が二人のストッパーになれるかもしれないって事?」

 

 姫様は納得したかのように指を鳴らす。

 どこで覚えたんだ、そんな仕草。ナイトからだとしたら、まるであいつに染められているみたいで気に食わないな。


「そういう事です、クラリス様」

「そういう事なら、タナトと一緒に行きたい……! タナトは、嫌かもしれないけど」


 姫様は複雑そうではあったが、意気込むかのように両手を握りしめている所を見るに、気持ちが固まったようだった。

 俺も姫様と共に身を隠す方向で話を進める事に特に異論はなかった。

 ……やっと会う事の出来た姫様と、逃避行か。中々に予想外な展開になってきたな。

 ドナルドの「今のお前のその嬉しそうな表情、一回鏡で見てみろよって言いてぇわ」などという言葉は聞かなかった事にしてやる事にした。




 ドナルドは「ここからは内緒話だ」と声を出さず唇だけ動かして、俺を手招きする。

 俺は姫様に言えないような事を何か企んでいるのだろうなと思いつつ、ドナルドへと近づく。


「何だ? ……もしかして、俺の居ない間に何かしようとしているのかな? 今度は俺の家を没落させるとかね」


 姫様には聞こえないような声量でそんな軽口をたたくと、ドナルドはやれやれと言いたそうな呆れ顔でため息をついた。


「ホーランド家とは比べ物にならないぐらい良い形で領地を治めてくれてるお前にそんな事する筈ないだろ……お前の居ない間に、オペラ様とヘンリーを捕らえるつもりではあるけどな」


 なるほど、ドナルドはそこまで企んでいたのか。

 逃げただけでは根本的な解決にはならないのは確かではあるので、あの二人を何らかの形で取り押さえるつもりではあった。

 こいつにあの一筋縄ではいかない二人をどうにか出来るかは五分五分だが、姫様の目の届かない所で解決したい問題ではあったので、任せてみるのも一興だろう。

 ドナルドがオペラとヘンリーをどうにか出来れば、姫様は俺から逃げる事は実質的に不可能になる。俺と共にこのモモナギ領に戻る頃には自分が帰る場所がないとなった時の姫様の絶望した顔を想像すると、中々に愉快な気持ちになった。

 身を隠す前に、国軍や領地の有力貴族にかけ合って、ドナルドを援護するように態勢だけは整えておくか。

 ドナルドが上手くやれる確率をあげる為に。または、もしドナルドが失敗したとしても、リカバリーがきくように。


「分かった、ドナルド。今回は任せよう。でも、一人追加で捕まえてほしい人間がいるんだ」

「はぁ? あの二人を捕まえるのだけでも精いっぱいなんだよ、こちとら」

「大丈夫だ、恐らくそんなに捕まえるのは難しい相手じゃないだろうし、そもそもあの二人のついでに片手間で狙えるような存在だよ。あの二人と共に行動していた若い男で、もし本人が悪事をしていなかったとしても、一緒に逃げていた以上は共犯として見るべきという事さ」


 ドナルドはそう嘯く俺を見て、やれやれと肩を竦めた。


「もしかしてナイトくんの事か? ……いやそれ、完璧に私情だろ。自分がいない間にクラリス様と一緒に時間を過ごしていた人間である事が気に食わないだけだろ」


 一緒に時間を過ごすどころか、駆け落ちまでしたのだという事は言わないでおく。言葉にするのも不快だしな。


「そんな事はないよ。俺も心苦しいけど、最低限の落とし前はつけるべきだろう?」

「いけしゃあしゃあと……仕方ないな、お前が言う事にも一理あるのは確かだし、ナイトくんの事も確保する事にしよう。あの子自体は恐らく何も知らないだけの良い子なのに可哀想だな」

「良い子だったとしても、無知は罪になるさ」


 そもそも罪がなくてもいくらでもでっち上げられる、と俺は内心で嗤った。


「2人とも、何を話しているの?」


 姫様の俺たちの考えている事に何も気づいていなさそうな純真さのにじみ出ている表情を見ているといつも通り憎らしさを覚えたが、今この瞬間に関しては薄暗い悦びも覚えた。

 これが上手くいけば、彼女の知らない所で、彼女を逃がした人間も、駆け落ち相手も、全てを消してやれる。

 そうすればきっと姫様は、俺の所に戻ってこざるを得ない状況となるだろう。

 やっと姫様を、この手に取り戻せる。


「何でもありませんよ、姫様」


 そういって内心の薄暗い感情を隠すかのように、姫様へと薄っぺらい笑顔を見せた。

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