36話 罠
罠って漢字がなぜ「わな」なのか? とか思うのは小生だけ? 民に網(部首のあみがしら)を被せる……ほおぉぉ。
しらみつぶしに通路を歩いてみた。
様子を見たかったレダはアイがおおまかではあるが制御しているので、連携に破綻は起きなかった。それで、迷宮狩りの練習になったが、大して強い魔鉱獣は現れず、リザに不満が溜まってきている。
「よし! じゃあ、下へ行こう」
上から降りてきたT字路を、通り過ぎて順路の矢印通り進む。
向こうから来た、パーティー何組かと擦れ違う。
さらに進むと、右側に壁沿いに冒険者達の列ができていた。
「ここか」
列の先頭まで来ると、明るい区画に差し掛かった。
両脇の壁が、モルタルなのか漆喰なのかなんなのか、白く塗り込められている。
そのまま進むと、人が途切れたところで男が壁に向かって居た。
男が左手に持った転層石を壁に近付けると、白い壁に蛍光で文字が縦に並んで現れた。数秒待つと、いつもの光景で、モザイクが現れて表示が変わる、数字だ! 上から18まで見えたが、男は一番下に触った。
「おっ」
白かった壁の一角が、突然真っ黒になった。その範囲は角の取れた幅1m程の四角で、床から2m強のところまで闇の色に染まっている。
俺の声に反応したのか、男が一瞬こっちを向き、壁にぶつかっていったが、そのまま吸い込まれるように消えた。
あれで転層できるのか。
実際に見てみると感心する。
後に並んで居た冒険者達も、リザとエマに視線を送りつつ、壁の向こうに消えていった。全員が消えると、再び壁が白くなった。
後に並んで居た。パーティが進んでくる。
なるほどな。
「ねえ、ケント。行こ!」
「ああ」
もう少し見ていたかったが。
『転層スポットの使い方は、その時にお教え致しますので』
そうか。
進んで行くと背中がゾワッとした直後、左の壁が黒くなった。
慌てて通り過ぎる。
「はぁぁ、やれやれ……」
そう声が聞こえ、壁の黒い部分から冒険者パーティーが出て来た。帰ってきた人達のようだ。
リザが、何だか急かしているようなので、進み続ける。100m位で、通路が再び薄暗くなった。
「胸ばっかり見て、最悪!」
ぼそっと、リザがつぶやく。
「確かにどいつもこいつもスケベそうでしたね。ただ……そうまで嫌なら、胸を隠せばよろしいのでは?」
ローブは新調したが、リザの着こなしは同じだ。襟元を胸の下まで大きく寛げている。しっかり締まるはずなのだが。
「いやよ。ケントの癒やしなんだもの」
まあ、否定はしないが。
「そうですか」
エマが少し残念そうに、横を向いて会話が途切れた。
魔鉱獣には遭遇しないまま、3回くらい通路を曲がると、なんなく下へ続く階段が現れた。まあ、まだ2階層だからな。
「休憩するか?」
「まだ大丈夫」
「ええ、1時間位しか経ってませんから。下へ行きましょう」
3階層目。
見た目は、2階層目と変わらない。壁面も石積みだ。違いといえば、やや暗くなっていることだ。魔灯の間隔が広がっているからな。しかし、さほどそう感じない、目が慣れて来ているのだろう。
今回は順路通り進む。
30分も掛からず、下り階段が現れた。
「あれ? この階層は、もう終わりなの?」
「ああ」
「全然魔鉱獣と会わないけれど」
「順路通りだからな」
「もっと下に行かないと駄目かぁ」
そうだな
下から上がってくる冒険者パーティと何回か擦れ違った。彼らはほとんど警戒していなかったところを見ると、この階層の順路付近はセーフエリアも同然なのだろう。
階段の前の少し広いところで、小休止と給水をして4階層に入った。
†
「トドメ!」
背丈ほどもある狂猪の首元に渾身の力を入れて、鋼の剣を振り下ろした。
むぅ。
切断には至らなかったが、脊髄に大きく食い込んだ感触。甲高い砕ける音が響いて、魔鉱獣がどうと倒れた。
数拍おいて、煙と化した。
ファンファーレが鳴り、剣士クラスがレベル58へ上がった。今日は初めてのレベルアップだ。他の戦闘系クラスも軒並みレベル50を超えているが、かなりレベルアップの頻度が減った。アイによれば、前の主人が同レベルの頃には、1年に1回ぐらいだったらしいので、今の状態でも十分早いのだが。
「ケント様、お見事です」
「ああ」
全然見事じゃない。腕が良ければ、完全に切断していたはずだ。そうは思うが、口にはしない。パーティーメンバーに心配させても詮無いからな。
息を整えつつ進む。
「ケントとレダちゃんばっかり戦ってないで、こっちにも回してよ」
「分かった分かった」
生返事を返して、角を曲がる。
ここだ───
「待て!」
右腕を伸ばしてレダを止める。
「えっ! どうしたの?」
俺達が突然止まったので、リザが訊いてきた。
「この先、何か感じるか?」
「えっ? さあ。わかんない。魔鉱獣は居ない……よね?!」
「エマは?」
「いえ。私も、わかりません」
今度はエマもか。そう言う俺もわからない。
しかし。
壁際に落ちていた小石を拾い上げると、床に沿って前方に投げる。何回か床にバウンドすると、あるところからパチッと放電して、跳ね返る度に紫電が瞬いた。
「もしかして、罠?」
「ああ」
「でも、ここにあるって良く分かったわね」
「入口で貰った地図に書いてあった」
「なぁんだ」
いや。だからこそ問題なんだが。期待していたレダも感じ取れなかったしな。
「来るぞ」
突き当たりの角の向こうから、子供のような影がわらわらと出てきた。
「レッサーオーガ!」
そういう名前か。背丈は俺の肩以下だ。確かに角が生えているし、鬼の子のようだ。そいつらが、4、5、6体。手に手に棍棒を持っている。
「グゲガ……?」
「ゴブバ……」
罠が張られて居た付近の手前で止まった。俺達が罠に掛かっておらず戸惑っているところをみると、罠は無効化されていないようだ。
「いくぞ! レダ!」
「ミュ?」
小石の実験結果では、罠の張ってある距離はおよそ7m。
軽く助走して踏み切った俺は、斜め左に飛ぶ。壁を蹴って罠範囲を越えると、着地寸前に左薙! 2体の首を飛ばす。
レダも、こちらへ跳んで、右から襲いかかると瞬く間に叩き伏せていく。
うむ。やはり強い。
体を入れ替えて、残った2体を罠側へ追い立てる。
1体は寸前で止まりレダに切り裂かれ、残る1体は左側の壁すれすれの床を踏んで、エマの前に躍り出たが、あえなく一突きで仕留められた。
ボフボフと連続的に煙が上がり死骸が消えた。
「魔鉱獣は、ここを通りましたね。なるほど、壁際は罠がないのでしょう、埃が溜まってません。皆がここを踏んでいるということです」
そう言いながら、蟹のように横這いになってこっちへ来る。
むう。エマは巨大な胸が邪魔なようで、胴当てを壁に擦れないようにするため、かなり海老反り体勢だ。
おっと、ヤバい。リザから何か鋭い視線が飛んできている。
渡りきったので、向こう側のリザに向き直り。
「リザ、1人で大丈夫か?」
少し心配そうに言う。
「あたりまえでしょ!」
ツンと返してきたが、まんざらでもないようだ。
グラマラスではあるが、エマに比べればスリムなリザはするすると余裕で渡り、最後は待ち構えていた俺に抱き付いた。
「あれ、どうしたの?」
少し考え事をしていたのがバレた。
「やはり、斥候職が居た方が良いなと思って」
「そう?」
微妙な反応だ。リーザはもちろん、リザも人見知りだからな。
エマの方にも顔を向ける。
「斥候ですか。確かに。罠発見、罠解除は斥候役の得意スキルですからねえ。偵察、それに解錠もですが」
「ふーん。そうなんだ」
「ただ……」
「ん?」
「斥候は、素行の悪い者が多いと聞きます」
「素行?」
「ええ、盗賊上がりが多いらしく、特に優秀な者ほど、その傾向が……」
エマも、余り乗り気ではないようだ。
「もちろん、ケント様のお考えに従います」
「仲間になってくれる斥候職は、すぐに見つからないだろうし、見つかってから考えても遅くはない」
それからは、罠らしい罠はなく、順調に魔鉱獣を斃し続け、順路通り下に続く階段を見つけた。
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訂正履歴
2022/11/12 誤字訂正
2022/11/15 話数訂正
2025/05/25 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




