表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リンデガルム王国の花嫁  作者: 柴咲もも
第3部 女神は黄昏に舞い降りる
26/26

 夜の風が肌に冷たい。


 ひんやりとした石造りの城壁に立ち、わたしは東の空を望む。深い霧の向こうに、全てを覆い尽くす闇色が広がっている。


 わたしがこの国の正式な王太子妃になってから、ひとつ、またひとつと季節が移り変わり、もう少しで豊穣の季節が終わろうとしていた。

 夫であるセイラム様との仲は、可もなく不可もなく。彼はわたしを、わたしは彼を、信頼のおけるパートナーとして認め合っている。

 そこに愛があったとしても、それは恋愛におけるものではなくて。彼の優しさに触れるたびに、わたしの存在は彼がこのリンデガルムの国王になるための必要条件でしかないことを思い出し、悲嘆に暮れる日々を送ってきた。

 

 ――たとえ政略結婚だとしても、少しずつお互いに歩み寄って、いつか愛し合うことができたなら、それはとっても素敵なこと。


 かつてのわたしが口にした言葉。

 心が渇ききってしまった今のわたしにとって、それは夢みる少女の戯言でしかない。

 今のわたしは、セイラム様の妃という身でありながら、遠い地で戦いに明け暮れるあの人を想うだけの、罪深い存在に成れ果ててしまった。

 そして今夜もまた、月も星も雲さえも見えない霧の向こうに想いを馳せる。


 ――私も、既に数え切れないほどの人間を手に掛けてきました。


 そう嘆いたあの人の手が、これ以上、血に穢されることがないように。


 わたしはわたしにできることをする。

 それが、かつてのわたしが望んだ、わたしがわたしであるための、たったひとつの道だから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ