52話
「おうっ! お前らやっているようだな!」
「あ、親方! お前たち、親方に挨拶をしなさい!」
「「「「「「「「「「オッス!」」」」」」」」」」
「おう! お前ら、しっかりやれよ!」
「「「「「「「「「「オッス!」」」」」」」」」」
「いい返事だ!」
「「「「「「「「「「オッス!」」」」」」」」」」
「「「…………」」」
モットーがやって来てから突如として起きたこの無限ループのような会話に、一も二もなく沈黙するミツキたち。
「それと、紹介だが、ここにいるミツキとリーフィアの二人が俺の武術を習いたいと言っていたんだ! 言ってしまえばお前たちの後輩だな。かわいがってやれ!」
「「「「「「「「「「オッス!」」」」」」」」」」
「「「…………」」」
確かに道場ならばこんな感じでなのもうなずけるのかもしれないが、それでもこの一昔前の雰囲気というものにミツキたち三人は呑まれてしまっていた。
「ん? どうした? 元気がないぞ?」
「これをいきなり見せられて元気がどうのこうの言われるのは厳しいものがあるのだけれど……」
アイリスの言葉にミツキとリーフィアはコクコクとうなずく。
それくらいには強烈なものだったのだ。
「ふむ? みんなそう言うがなぜなんだ?」
モットーは首を傾げているが、他の門下生たちはアイリスの言葉やミツキたちの反応に苦笑していた。どうやら門下生たちも気持ちがわかっているようである。この場合はモットーがわかっていないのがおかしいのだろう。
そんな門下生たちの様子を見て何となく落ち着いたミツキたちは、すぐにモットーの言葉を聞く態勢に入った。
これからモットーはミツキたちの先生となるのだ。
ちょっとどころかかなり残念な人認定しそうになっている相手であろうと、近接格闘という一点においては十分に尊敬できる人物の話を無視するのは愚かな行為ゆえに、ミツキたちは話を聞く態勢に入っているのである。
「じゃあ、この道場の仕組みについて説明をしておこう」
ミツキたちが聞く態勢に入ったのを確認したモットーが話し始める。
「まず、この道場は身体の動かし方の型というものを何種類か教えておく」
「ふむふむ」
「その後はこの森で何とか生きていけ、以上だ」
「ふむふむ……ふむ?」
あまりにもあっさりした説明にミツキやリーフィア、さらにアイリスまで困惑の表情を浮かべる。
その混乱を理解しているのかモットーは苦笑すると、その理由を説明した。
「いいか? このいつ命を失うのかわからないような理不尽な世界で、自身が磨いてきた武術の型なんてものを発動させてもらえる機会なんてめったにないんだぞ?」
例えばミツキが実際に戦闘を行うなら、盗賊団の時にやった通り〝隠密〟、〝存在希薄〟のコンビネーションで、相手に一切悟らせずに毒殺や銃での暗殺を敢行すればいいし、アイリスならばあらゆる道具でもって相手の土俵に入ることなく常に立ち回ることも可能なように、近接格闘がいくら強かろうが、完全無欠の暗殺者や遠距離攻撃を得意とするものなどを相手にしてしまえばひとたまりもない。
「だから実戦で武術を活かすなら、身体の正しい動かし方を極めつくして、最低限逃げることが出来るようになることが大事なんだ」
そう語るモットーにはどこか悔しそうな雰囲気というものがあった。
「しかも厄介なのが、人間の身体っていうものは千差万別、十人十色で、一つの正しさというものがない。なら、ある程度身体の動かし方や、その理論を教えさせて、あとは必死に、自分にとって最適な身体の動かし方を見つけていくしかないだろう? だからこそ、俺たちが教えるのはそのきっかけだけ、そこから先もあるにはあるが、それはお前たちが本当の門下生となったら教えるといった感じだな」
「……なるほど」
ミツキが想像する武術というものはどこか、決まった型を繰り返し、その果てに奥義を身に着けると言った印象があったが、確かに、実践において型を繰り出せる機会の方が少ないのは確かだろう。
剣術や槍術などは自身の身体を操ることに加えて、正しくその武器を扱うことが出来なければ意味がないというものがあるために、型というものが必要になる状況というものが多くなってくるかもしれないが、殴る蹴るに関してはそれこそ自身の身体を〝武器〟とするものであり、その〝武器〟は人によって全く異なるものだ。それに変な型を当てるのはおかしいと考えるのもまた、間違いではないはず。
そんなことまで武術の素人たるミツキでも、何となく想像できたため、この話は確かなものとしてミツキの心に刻んだ。
「さて、じゃあ早速、この道場における型を教えるわけだが……」
「…………」
「……とりあえず、俺と抱き合ってもらおうか」
ミツキはなんとなくモットーを尊敬していたちょっと前の自分のことを殴りたい気持ちになった。




