45話
「うん、確かに支配権がミツキに移譲されているわね」
「そうなのか……はぁ……」
ミツキは生産系の達人たるアイリスに、リーフィアを連れて来て、奴隷の首輪を確認してもらっていた。
「というか、そもそもアイテム自体が変わっているじゃない。その時点で貴方のものになっているのは確定じゃない」
「いや、そう……なんだけどね…………」
ミツキはがっかりと項垂れながらも答える。アイリスの言う通り、初めは自分の〝看破〟でアイテムについての情報を確認していたのだ。
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『眷属の首輪』
この首輪を付けると、主人に生涯仕えることになる。また、主人となる存在との繋がりが大きくなり、主人の能力を主人が望めば、互いに能力を移譲することが出来るようになり、主人との心の繋がりが強ければ強いほどその能力移譲がより強くなり、時にはまた違った変化を起こすこともある。
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明らかにミツキの〝調和〟の影響を受けているものだった。
「……はぁ」
「……あの、何か不味かったでしょうか?」
「…………」
ミツキは目の前の状況についていけていないというリーフィアを見て、心底おかしいと感じていた。そしてミツキはその〝おかしいこと〟を口にする。
「あのさ? 逆に聞くけど、いきなり俺の奴隷になることの方がおかしくないかな?」
「へ?」
「…………」
リーフィアの反応に対してミツキはまたしても無言になってしまった。
実はこの問答についてはあの〝堕落の音頭〟盗賊団のアジトである洞窟の中でも行われており、それがどうしても納得いかなかったために、依頼が完了しているにも関わらずアイリスのところに来ていたのだ。
「ああ、つまりあなたは、この子があなたの奴隷になっていることをすでに受け入れしまっている、という事実について疑問を感じているわけね?」
「……そういうこと!」
アイリスの言葉にミツキが嬉しそうに反応する。ミツキの言いたかったことまさにその通りのものがアイリスの口から出てきてくれたので、ミツキのテンションが少し高くなっている。
実際、ミツキは目の前にいるリーフィアがミツキの奴隷になったということを受け入れていることにとてつもない違和感を感じていた。
これは例えば現在の最高権力者、日本なら総理大臣、アメリカなら大統領など、そういう最高権力者が病などで急死したときに、その近くにたまたまいた人が代わりにその最高権力者の役割を担うことになったので、国民はその人の指示に従ってください、と言われているような状況だ。
自分の人権にかかわるようなものが、たまたま近くにいた人間のもとに移譲されていしまうという状況というものは、地球の現代国家では言語道断、即選挙を要求するような事態になるだろう。
今回の奴隷の権利が主人を殺した側に移譲されるというのは、先にあげた具体例よりも、より慎重な対応が求められるはずだ。
なぜなら、これは個人と個人の問題で、国の中のように多くの監視の目があるわけでもないために、それこそ主人側が好き勝手できるのだから。
しかし、それをリーフィアは受け入れてしまっている。
そこに納得がいかないのだ。
「ん~、ミツキの考えは《異世界人》特有のものよねぇ。でもこの世界ではむしろそれが普通でもあるわけだから、正直なんとも言えないというところなのだけど……」
アイリスの言葉通り、この世界では奴隷というものは一財産として扱われ、それがもし盗賊が所持していたものであるなら盗賊を倒したものが手に入れるというのが、この世界の常識だ。
先ほどミツキの考えは所詮よその世界での発想であり、この考えを共有することができるようになるのは、それこそ長い年月をかけて奴隷制度を排除していくしかない。
「それに奴隷制度事態もそこまで悪いものじゃないのよ?」
「え?」
「この世界の奴隷は《異世界人》が来てからは完全されて来たわ」
驚くミツキに対してアイリスがこの世界の奴隷について告げる。
「例えば、奴隷の権利というものが大国ではきちんと整備されていて、主人が衣食住を保証したり、奴隷自身に危害が加えられるような事態になったら、むしろ奴隷の首輪によって身体能力を一時的に強化して暴れまわることだってできるようになってるわ」
アイリスはさらに、奴隷商を大国からそれぞれ監視役を派遣することで奴隷たちの権利が損なわれないようにされていたり、何らかの不満が奴隷から出た際に、訴えることができるような奴隷組合と、奴隷たちに関する裁判もあるということを告げた。
「それに、この世界はあなたがいた世界ほど裕福ではないから、そのための救済として奴隷がいることもあるのよ? いわゆる〝身売り〟というものだけれど、これはこの世界にとってはまだまだ必要な物だから」
「…………」
アイリスにそう言われてしまってはミツキとしても黙るしかない。
もとより、何度も言うがミツキの価値観は所詮よその世界のものなのだ。それを自分が正しいなどという主張をするつもりはないし結果的には受け入れるつもりではあるが、それでもやはり納得いかないところもある。
「まあ、納得がいかないのなら、現在この子の主人はあなたなんだから、あなたがこの子の処遇を決めてあげるべきでしょう」
「……そう、だね」
ミツキはそれが普通だというのならと言った感じで、未だ困惑しているリーフィアを見る。
「リーフィア」
「は、はい、ご主人様なんでしょうか?」
「俺はリーフィアを奴隷から解放してあげることを考えている」
「な、なぜ!?」
「それは、俺の住んでいた国では奴隷というものは人権がまるでない、それこそ家畜のような扱いになっていて、それが俺は嫌いだからなんだ」
ミツキはリーフィアが「奴隷から解放する」という言葉にそれなりに憤りをあらわにしながら返答したのに対して、むしろ落ち着いた表情でそう返した。
「でもこれは俺の価値観で、このまま開放するのは押し付けでしかない気がしている」
さらに、ミツキはこれが自分勝手なものだということも付け加える。
そして、ミツキはリーフィアに対して本題となる質問をした。
「リーフィアはどうしたい?」




