42話
ただでさえ目の前の相手に押し込まれている状況なのにさらにもう一人登場してしまった。
「うおっ、なんだこの煙は!」
ミツキの視界の端には灯りがついている部屋から出てきて、すぐに煙の存在に気がついて口を手で覆っている大男が映っていた。モットーよりも大きな体である。
(あいつまで参戦できるようなら厄介──あぶなっ! でも薬が効いてくれ──おわぁっ!?)
すでに追い込まれている状況からさらなる敵が発生したためにミツキの脳内はさらなる焦りが出るが、それでも煙の効果が出ればと途中もう一人の襲撃者からの攻撃を回避しながら考えた。
しかし、世の中そう簡単にはうまくいかないもので、
「むぅ、こいつは危険だな」
大男はそう言うと、次の瞬間、大男の身体が赤黒く輝き始めた。
(あれは……〝金剛〟か何かか?)
ミツキは少し前に戦ったモットーの〝金剛〟のように、身体をオーラが覆っている状態だということを感覚的に理解した。そして同時にあの状態ではおそらく睡眠ガスは効果を示さないだろうということも。
そのことにミツキは「これはまた面倒なことになった!」と内心で戦々恐々とする。
だが、
「おい、一旦攻撃をやめろ!」
「──っ」
「え?」
なんと、追い込んでいたにも関わらず大男の方からもう一人の襲撃者の攻撃を止めさせたのだ。攻撃をやめた襲撃者は大男のもとへとも戻っていき、ミツキが助かった形になってしまった。
いったいなぜそんなことをするのだろうかとミツキが思ったが、その答えは大男が示してくれた。
「おい、お前は何者だ? なぜ結界に反応させずにここにいる」
「…………」
大男のその目にはミツキに対する大きな嘲りや油断が存在していた。まるで自分の力に酔っているような、そんな感じである。だからこそ、ミツキに対して質問という態度をとっているのだろうということを理解した。
(まあいい、ラッキーな状況になったことには変わりないんだ)
その嘲りの表情が、なんとなく中学二年のころの周りの態度と被ってしまい、腹立たしい気分でいっぱいになったが、相手が油断しているという状況は戦闘時においては大きなアドバンテージとなる。
そのため、すぐに行動できることをすることにした。
「まあ俺は相手に感知させないというのが得意だからね」
そんなことをとぼけながらミツキは〝看破〟を使う。
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[ネーム]ジョー(男:27歳)
[クラス]《盗賊Lv.35》《狂戦士Lv.27》《邪人Lv.70》
[スキル]斧術・金剛・狂化・・状態異常耐性・邪悪化
[タイトル]【狂った男】【自惚れ男】【盗賊団リーダー】
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「チッ、なるほど、《暗殺者》とかそういう類の強化版ってことか」
ジョーが何やら言っていたが、ミツキはそんなことなど無視して目の前の相手について考察していた。
(……こいつは一見強いように見えないけど、あの《邪人》っていうのが気になるな)
ミツキの《魔人》と似たような、しかし何か別のおぞましさを〝超感覚〟が感じ取る。
(スキルなんかも予想通り〝金剛〟があるけれど、さらに〝狂化〟と〝邪悪化〟ね……)
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〝狂化〟(《狂戦士》スキル)
理性を失うことで、一時的に身体能力を向上させる。理性がなくなればなくなるほどその力の大きさは強くなっていく。
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〝邪悪化〟(《邪人》スキル)
魔法やスキルなどすべての能力を邪悪な方向で強化する。だんだんと理性を失っていきながら効果が強くなっていく。ただし光属性には弱い。
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どちらも盗賊団にはお似合いのスキルで、それなりに強力である。
だがミツキにとってはむしろそちらよりも脅威の相手がいるわけで、ジョーを確認してあと即座にもう一人に向けて〝看破〟を使って、
「──っ!!!?」
盛大に驚いた。
なぜならミツキの視界には、
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[ネーム]リーフィア(女:16歳)
[クラス]《エルフLv.40》《剣聖Lv.50》《奴隷Lv.100》
[スキル]四大属性適正・光属性適正・精霊親和・剣聖・超感覚・料理・裁縫
[タイトル]【剣聖】【生粋の奴隷】
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というような光景が映っていたからだ。
そしてミツキはその光景を見てすぐに思った。
(エルフ+奴隷のテンプレ属性に加えて《剣聖》だと! 何というレアな存在!)
……実に残念過ぎる思考である。




