27話
四匹の斥候たちを北の山脈に送り出したミツキはアルテナの街の中に戻っていた。
どうやら使い魔となったイザヨイたちはミツキが持つ魔力をもらうことによって生きていけるらしく、またこのつながりをもった状態であれば、いつでもどこでもほとんど魔力を消費することなく呼び寄せることが出来ることが判明。怠惰の魔王はこの魔力消費を抑えた召喚を行っていたのだろうとミツキは気がつくのだった。
「それで? なんで俺にそのことを教えてくれなかったのさ?」
デバカメの宿というなんとも嫌な予感しかしない名前の宿の中で、ミツキは隣にいる美少女、本来であれば手のひらに収まるくらいの小さいフェアリー族たるアイリスに質問していた。
「ん~? 言ってなかったかしら?」
「言ってないよ」
「あらそうだったの。ごめんなさいね」
とぼけるアイリスに対してミツキはブスッとするが、アイリスは手元をじーっと見つめて、何やらカチャカチャとフラスコや試験管などをいじっている。
今二人がいるのはもともとアイリスがとっていた部屋だ。
ひとり部屋とは思えないほど大きな部屋であり、なぜかベッドが二つあったり、他にも現在アイリスがいくつものフラスコや試験管を置くことが出来るような大きなテーブルが一つついていたり、他にもいろいろと落ち着きを与える家具があったりなかなかに豪勢だった。
まだ自分のお金を持っていないミツキは現在、完全にアイリスのヒモ状態である。
というのも、しばらくは盗賊団についての依頼に集中いなさいとアイリスが言ったからである。
もちろん、今後の資金のためにいろいろと依頼をする必要があるのだが、そのお金を食費や宿代に使うくらいなら、今は自身の強化のためにお金を使えと冒険者の先輩から言われてしまえば何も言えない。
そんなわけで本来ならいろいろなアイテムの置き場所となっていたベッドの一つをミツキは借りる形になっているのだ。もちろん、この宿の店主がニヤニヤとしていたのは言うまでもない。ミツキがその顔を見て「どこかにのぞき穴がないだろうな?」と不安になったのも、言うまでもないことだ。
「まあ、言わなかったのは特に必要性を感じなかったからよ」
「必要性?」
「そう、私があなたから離れるという事態はほぼほぼありえないと思うから」
「……」
言外に「ずっと一緒にいるから」と言われたような印象を受ける言葉にミツキは黙るしかない。もともと驚くほど目立たない存在だったのだ、彼女いない歴=年齢など当たり前のことなのである。残念なことに……
ただ男としての小さなプライドゆえか、照れているのをごまかすためにミツキは話題を変えることにした。
「アイリスは何か目的があってこの町に来たんじゃなかったのか?」
これは一緒に行動してくれると言ってくれた時から少なからず気になっていたことだ。
「なんでそんなことを?」
「そりゃあ、今までこっちばかり助けてもらっているんだから、俺だってアイリスに何か返したいし」
この町に来てから冒険者ギルドのことやら、この宿に泊まれることになっていることやら、その他この世界の知識を教えてもらっていることやら。ミツキの現状はどこからどう見てもアイリスにおんぶにだっこ状態だ。先ほども夕食を奢ってもらているのだから、その甘えっぷりがわかるだろう。
ミツキとしては目立つという目的もあるので早々にアイリスにお世話にならないレベルまで駆け上がるつもりだが、それでもそれまでに多大な恩を受けていることに変わりはない。
その恩に対する義理をきっちり果たさないのはそれこそ完全にヒモになってしまうだろう。
そういう思いでミツキは質問したのだが、う~んと困ったような表情を作って言う。
「確かにこの町には目的があってきたのだけど、それもほとんど無駄足に終わっちゃったからね~」
「無駄足?」
「そうよ。まあ私の目的はたぶんだけれどあなたと一緒にいればある程度まで解決できるはずだから大丈夫よ。別に私は誰にでも無償で働くような博愛主義者でもないしね」
アイリスの発言にはかなり気になるところがあったが、なんとなく聞いていい雰囲気ではなかったために諦めるミツキ。
(いつか話してくれるといいな……)
そんなことを思いながらも、しかし今感じている多大な恩儀は何とかして返したいと思うミツキ。
「じゃあその目的とやらはいいとしても。何か俺に出来ることってない? さすがにこれだけお世話になっておいて何も返せない状況は俺が苦しいんだけど」
だからこそこんなことを言ったのだが、
「ん~……じゃあ、私と一緒に寝てくれる?」
「………………へ?」
なんだかトンデモナイワードがミツキの耳に聞こえてきた。
「な、ななな何を!?」
「クスクス、何をそんなに慌てているのかしら? 私はあなたに抱き枕になってほしいと思っただけなのだけど」
それでも男にとっては十分に凶悪な内容である。
「いやいやいや、どう考えてもいろいろ不味いでしょ!」
どちらにせよ狭い空間で密着することに変わりはないわけで、もちろん健全な男子高校生たるミツキは慌てないわけがない。
だからこその否定の言葉だったのだが、アイリスは特に気にした様子はなく、
「あら、私にお礼がしたかったんじゃないの?」
などと言ってくるので、逆らえるわけがない。
結局そのあと、ミツキは作業を終えたアイリスの抱き枕になったのだが、ミツキがしばらく悶々として寝不足となったのだった。




