表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/56

22話

「うぐぅっ!?」


 モットーは予想していなかった痛みにうめくが、何とか〝金剛〟を用いて右足も固定して踏ん張る。熟達した〝金剛〟使いだけができる一時的な肉体の部分強化だ。

 さらにミツキのいる場所を即座に察知してそこにパンチを入れる。


「────」


 しかしミツキには今度はあっさりと躱されてしまう。だがこれによって何とか追撃を防いで、尚且つ倒れることをこらえることが出来た。


 そんな状況の中、モットーの脳内は二つ要因によって混乱していた。


 まず一つは、自分が当たったと思った掌底がなぜか回避されたということ。

 次になぜ自分の〝金剛〟が打ち破られたのかということだ。


(ミツキの行動パターンやスピードはここまでの動きで把握できていたし、〝野性〟がそこだと訴えてきたから俺の予測は合っていたはずだ。それに一度は防いだはずのナイフのような武器に切られたという事態は明らかにおかしい)


 こういう時中途半端な強者ならば自分の力が突破されたことに苛立ちを感じてしまうかもしれないが、モットーは冷静に目の前で起きている事態を混乱しながらも分析していた。

 ただ、ここまでのミツキの動きが全力であることは確実に把握していたし、ミツキが行ったのと逆にモットーもまた自身の〝金剛〟で相手の攻撃を防げるのかという確認をしていたのだ。


(……なんにせよ攻撃が通ったのなら受け身の状態はマズイ!)


 両足を断たれて行動を少なからず阻害され、尚且つ理由は分からないが自分の攻撃を躱されて相手の攻撃が通る状況。これでマズイと思わないほうがおかしいだろう。

 モットーは仕方なく自身の魔力を大量に消費することで〝金剛〟を強化する。普通の〝金剛〟はほとんど魔力を消費しないのだが、魔力を消費するように意識するとより強固なオーラを身に纏うことが出来る。


 とはいえ、これは所詮は気休めに過ぎない。多少強化したところでミツキの持つ武器がスパッとオーラもろとも足を斬り裂いたのだから、自分の防御が相手に通じないというように考えるべきだ。となれば必然、モットーは動くしかない。


(だが、相手は驚くほどに存在感がなく神出鬼没。その上、身体能力なのか魔法なのか、ともかく俺の攻撃を躱すような力も持っているから攻撃を当てることも難しい)


 モットーにとってなかなかに厳しい状況だった。


(だが、それでもこの程度の苦境なら何度も耐えてきた!)


 だから、


「おいミツキ! ちんたらしてるとこっちから襲うぞ! かかって来いや!」


 不敵に笑ってそういうのだった。


 一方そのころ世界でもトップクラスの位置に立つ【到達者】を確実に追い詰めていたミツキはミツキで実はちょっとだけ休憩していた。というのも──


(──まさか〝魔力操作〟での身体能力強化がこんなにキツイなんてなぁ)


 そう、モットーの掌底を躱したのは〝魔力操作〟を使って魔力を足に集中し、瞬間的に加速をしたからだ。

 これによって見事に回避に成功したわけだが、相手の攻撃がさすがは【到達者】ということもあってとっさに全力で魔力を消費してしまい、かなりの精神力を疲弊させることになった。


(こういうところはまだまだ鍛錬不足ってところか……要練習だな)


 〝第六感〟やその他感知能力のおかげで自分の命の危機を察知して回避することはできるが、その時に自分の身体を必要以上に動かしてしまうのは今まで一番痛くてもあのとき(・・・・)に受けた骨折くらいのことだった地球での生活ゆえだろうとミツキは自身を戒める。


(──さて、そろそろ魔力もある程度回復できたし、止めを刺しに行きますか)


 ミツキは自分の『朧霞』がモットーにダメージを与えたことに疑問を抱かない。

 なぜならそもそも『朧霞』は神が創った武器だからだ。


 実はミツキは先ほどまであえて『朧霞』の切れ味をあらゆる属性を付与するという能力で押さえていた。簡単に言えば、かなり切れ味が尋常ではない剣を普通の剣くらいには切れるメッキで覆ったという感じだろうか。

 だが今はすでにそれを取り払っており、そうなれば異世界のとはいえ神が創った神剣だ。人間の頂に達した程度の存在の防御など容易くスパスパ切ってしまうのは当然の摂理。


 だからミツキは驚くことはない。むしろここまでが想定通りと言ったところだろう。まあ防御された後のパンチは間違いなく危ないやつだったし、〝魔力操作〟の練度もまだまだで戦闘中に長いインターバルを作ってしまったので、なかなか行き当たりばったりな想定通りではあるからこのあたりも要反省だ。


 もっと余裕を持って勝てるようにならなければと内心大きく反省をしながら、今は先ほどまでのどっしりとした構えとは違い、明らかに回避を出来るような自然体の構えとなったモットーに向かって、〝隠蔽〟を解いた状態で背後から駆け出す。


「むっ!」


 ミツキの気配を感知したモットーが振り返り「どんな攻撃も回避してやらぁ」と言うかのようにその瞳にミツキをしっかりと収める。

 そして、その瞬間に自身の金色のオーラを足に集中させて先ほどのミツキの〝魔力操作〟を使った身体強化のように爆発的に加速した。


「──っ!?」

「食らええぇ!」


 驚くべき程の速度に一瞬硬直するミツキに最速の突きが放たれる。一瞬の硬直などというのは戦闘中において致命的な好きだ。それ故にモットーが放った突きは見事にミツキの身体をとらえる。

 それは、ずっと戦闘を見ていたアイリスや、実はいつの間にかギルドマスターの戦闘を見ようと集まって来ていた熱心な冒険者たちも、おそらくこれまで気配を消していたにも関わらずここに来て気配を出した理由があるだろうと思っていたとしても、ギルドマスターとしての意地と機転が合わさったこの最高の一撃は確実に決まったと誰もが思った。


 だがそれは驚くべき光景によって覆されることになった。


「…………は?」


 モットーが放った最速の突きがミツキの身体をとらえた瞬間──ふわりと消失したのだ。

 そしてモットーも、アイリスも、近くで見ていた冒険者たちも、全員が何が起こったと驚きの表情を浮かべる中、一つの、小さな、されど確かに聞こえた「スパッ」という音が鳴っていた。


 そしてモットーがその場に倒れ伏し、その場にいた全員が、勝利したのがミツキだということを理解したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ