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デスゲームで134連勝した俺のところに、「助けてください」とわんこそば女が来た~彼女とそばを食べるまで~  作者: 芦名 雅


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第1話 私を助けてください


 インターホンが鳴ったのは、昼飯のカップそばに湯を注いだ直後だった。宅配を頼んだ覚えはない。放っておこうかと思ったが、続けてもう一度鳴った。蓋を押さえるために載せた募集要項はそのままにして、玄関へ向かった。


 扉の前に、知らない女の子が立っていた。紺のジャケットに、丸い眼鏡。後ろで結んだ栗色の髪が少し乱れている。両腕で抱えている分厚い紙の束には、付箋がびっしり貼られていた。


「玖城朔さんでしょうか?」


「そうだけど」


「私を助けてください!」


 いきなり頭を下げられた。


 彼女の肩越しに廊下を見る。追ってきた人間はいない。首にも腕にも、それらしい装置はついていなかった。ただ、袖口から見える細い手首に、赤い輪ゴムが1本食い込んでいる。


 こういう訪問は、前にもあった。借金のかたに参加させられた奴や、面倒事に巻き込まれた奴が、俺の噂を聞いて頼りに来る。だいたい、最初は「助けてください」しか言わない。


「何のゲームだ」


「え?」


「参加させられてるんだろ。あと何分ある?」


「あ、いえ! まだ3日あります!」


 3日か。72時間もあれば、対策も立てやすい。


「ルールは?」


「次の企画会議までに、新しいデスゲームを1本考えないといけないんです」


 扉を閉めた。


 閉まりきる直前、紙の束が隙間に差し込まれた。


「待ってください! お願いします! 134連勝の玖城さんなら、何かいいアイデアがあるんじゃないかと思って!」


「俺は出るほう。作るほうじゃない」


「でも、作るほうの考えていないことを、いつも思いつくじゃないですか!」


 言い返そうとしたが、反論が浮かばなかった。


 それは、まあ、そうだ。


 デスゲームで飯を食って4年。134回出て、134回勝った。金だけなら、もうしばらく働かなくてもいいくらいにはある。それでも募集要項を見ると、つい最後まで読んでしまう。


 主催者は、参加者がどうやって勝とうとするかまで考えてルールを作る。それでも、見落としはある。「他人に渡すな」と書いてあっても、「床に置くな」とは書いていない。なら、拾わせればいい。


 そういう、禁止したつもりで禁止できていないやり方を見つけるのが、たまらなく好きだった。


「……どこの会社?」


「ミナト遊戯企画です。花巻こはると申します」


「会社に言われて来たのか?」


「いえ、会社には内緒です。相談したら、自分で考えなさいって言われるので」


 言われる前から分かってるじゃねえか。


 俺は扉を開けた。挟まっていた企画書の角が、見事に潰れている。花巻はそこを指で伸ばしながら、期待に満ちた顔を上げた。


「相談、乗っていただけるんですか?」


「話を聞くだけな。あと、俺の住所はどこで知った?」


「参加申込書です」


「いや、個人情報の管理どうなってんだよ」


「ちゃんと、こちらに書いてあります。『業務上必要な場合、記載事項を社内で共有することがあります』と」


 女が紙の束から申込書の写しを出し、右下を指した。何か書いてある。文字だということまでは分かった。


「読ませる気あるのか、これ」


「拡大したものもございます」


「住所を使う前に、そっちを見せろ」


 入れるべきではなかったかもしれない。


 居間へ戻り、花巻を食卓へ座らせた。俺はカップの上の募集要項を取って食卓の端へ置き、蓋を開けた。向かいの椅子を引くと、彼女が書類を広げようとするので、そばを片手で持ち上げて場所を空けた。


「食事中でしたか。すみません」


「もう遅い」


「私、おそばは大好きです」


「そうか」


「地元の名産なんです」


 知らない女の子に地元の話を聞かされながら、伸びかけたそばを食う休日になった。


「それで、どんな案があるんだ? まったく何も考えてないわけじゃないんだろ」


「はい! わんこそば早食いゲームです!」


 箸を止めた。


「……わんこそば?」


「ご存じですか?」


「知ってるけど」


「小さいお椀に一口ずつおそばを入れて、食べ終わったら、給仕の人がすぐ次を入れてくれるんです。蓋を閉めるまで、どんどん――」


「知ってるって言っただろ」


「あ、すみません。知らない人には、普通のおそばと何が違うのかって聞かれるので」


 花巻は照れたように笑い、書類を1枚めくった。


 そこには、椅子とテーブルの図面があった。椅子からはベルトが伸びている。その横には、見覚えのある形の首輪。


 そばを置いた。


「それ、爆発するやつ?」


「はい!」


「わんこそばに?」


「デスゲームなので!」


 なるほど。俺の聞き方が悪かった。


 花巻は図面をこちらへ寄せた。さっきまで玄関で必死になっていたのが嘘のように、声が弾んでいる。


「6人で競います。最も多く食べた方が優勝です。ただ、食べたふりをして捨てる人がいたら、真面目に食べている方が不利になりますよね?」


「まあな」


「そこで、椅子とテーブルに重量センサーを入れました! 体重の変化と、おそばの減少量を照合するんです!」


 図面には、あちこちに数字が書き込まれていた。椅子の脚にも、テーブルの脚にも、線が何本も伸びている。そば屋の設備とは思えない。


「さらに、首輪にはのど越しセンサーを搭載しました!」


「のど越し……いるのか、それ?」


「もちろんです! 口に含んだだけで、食べたことにされたら困りますから」


「飲み込んだかまで監視するのか」


「はい! ちゃんと飲み込むまで得点にはなりません!」


 俺は、自分の首へ手をやった。


 何度も首輪をつけられてきたが、昼飯まで監視されたいとは思わない。花巻はその動きを見て、安心させるつもりらしく付け加えた。


「普通の呼吸では作動しませんよ」


「そこは当たり前であってほしい」


「器の出し入れも補正します。重量の検知精度は、0.0001グラムです」


「……ゼロ、何個言った?」


「小数点のあとにゼロが3個、最後が1です」


 箸についた汁を見た。


 たぶん、これだけで死ぬ。


「ちょっとでもこぼしたら、首輪が爆発しないか?」


「そうなんですよ!」


 なぜ嬉しそうなんだ。


「始まってすぐ、全員死んじゃって」


 花巻は、図面の下から別の紙を引っ張り出した。上のほうに〈結果報告〉と書いてある。6人分の欄に、同じ2文字が並んでいた。


 失格。


「それでゲームがサレンダーになっちゃって、部長にこっぴどく怒られました……」


「誰が降参したんだよ。全員死んでるだろ」


「そうなんです。優勝者も決められなくて」


 彼女はそこで初めて、しょんぼりした。


「新しい案を聞いたんだけどな」


 俺は結果報告から図面へ目を戻した。134連勝していても、汁を飛ばさずそばを食う訓練はしていない。今、箸で持ち上げた分を口へ入れようとしただけでも、かなり危うい。


 こいつのゲームには絶対に出ない。


「試してからやれよ」


「試しました!」


「じゃあ、何で」


「その時はゆっくり食べたので、うまくいったんです。計測値も全部合ってました」


「早食いのテストを、ゆっくり食ってやったのか?」


「装置のテストですから」


 花巻はそこだけ、きっぱりと言い切った。


 自分の失敗を誤魔化している顔ではない。本当に、装置は何も間違えなかったと思っている。


「本番でも計測は正確でした。こぼした瞬間に検知して、遅延もなく――」


「そこを誇るな。全員死んだところだぞ」


「はい。なので、次はもっと長く遊べるものを、と」


 俺はそばの容器を持ち直した。相談が終わるまで待っていたら、食い物ではなくなる。


 俺が紙を返そうとすると、花巻は両手で押さえた。


「でも、わんこそば自体は面白いんです。本当に。うちの町のお祭りだと、大人も子供も一緒にやって、食べたお椀を積み上げて。隣の人に負けたくなくて、もう1杯って」


「首輪もつけるのか?」


「地元ではつけませんよ!」


「当たり前だろ! 地元の祭りで人が爆発したら事件だろ!」


「だから、その楽しさをもっと大きな規模で――」


「地元の人は、途中でやめられるだろ」


 花巻の指が、紙の上で止まった。


「……蓋をすれば」


「お前のは?」


「蓋は禁止です。隠せてしまうので」


 楽しいところから順番に取り除いて、最後に爆薬をつけたのか。


 俺は図面の首輪を指で押さえた。首輪の下には、ずいぶん立派な椅子が描かれている。背もたれも肘掛けもある。座り心地はよさそうだ。


「椅子から立つのは」


「禁止です」


「器を替えるのは」


「指定のもの以外は禁止です」


「他の参加者に渡す」


「もちろん禁止です!」


「できること、そば食うだけじゃねえか」


「早食いゲームですから」


 花巻は少しむっとしたようだった。ここまで来て、ようやく俺と意見が違うことに気づいたらしい。


「でも、同じ条件で競わないと、不公平になりませんか?」


「同じ条件ならいいんだよ。その中で、何をするかを選ばせろって話」


「食べる速さを選べます」


「遅かったら死ぬだろ」


「はい」


「それは選ぶって言わない」


 俺は背もたれへ体を預けた。説明すればするほど、そばが伸びていく。花巻は赤いペンを出し、企画書の余白へ何か書き始めた。


 少し身を乗り出して見た。


〈選択肢を増やす〉


 ようやく伝わったか。


 その下に、もう一行増えた。


〈温・冷〉


「そばから離れろ」


 花巻が顔を上げた。


「冷たいほうが早く食べられると思うんですが」


「それで全員が冷たいの選んだら、また同じだろ」


「では、温かいほうの得点を高くして――」


「待て。そういうのじゃなくて」


 言いかけて、止まった。


 温かいほうが得点は高い。だが、食べにくい。冷たいほうは得点が低いかわりに、数を稼げる。どちらを選ぶかは、相手が何を選ぶかにもよる。


 いや。それでも、結局そばを食っている。


 食うことにこだわる必要はない。途中で変えられる権利を売るとか、相手の得点を引き受けるとか。何かを受け取れば得になるが、受け取りすぎると困る。そばではなく、金なら――。


「玖城さん?」


 顔を上げると、花巻がこちらを見ていた。


 俺は食卓の端に置いた募集要項を取った。裏は白い。ペンを取り、6つの丸を描いた。


「例えば、全員が金貨を持って始める。誰かに渡してもいいし、受け取らなくてもいい」


「お金を、受け取らないんですか?」


「そのほうがいい時もある。一度受け取った相手からは、次から断れなくなる」


 花巻は図面を脇へ寄せた。空いたところへ、俺が描いた6つの丸を置く。


「いちばん少ない奴が死ぬ。最下位が同じ枚数で並んでいたら、誰も死なない」


「では、少ない人に配れば助けられますね」


「片方にだけ配ったら?」


 花巻の目が、紙へ落ちた。


 俺は2つの丸へ同じ数字を書き、片方だけ1枚増やした。もう片方の丸を、ペン先で叩く。


「こっちが、1人で最下位になる」


「……お金をもらう人ではなくて、もらわなかった人が死ぬんですか」


「そう。だから、誰から受け取るかを考える。今くれる奴が、あとで何に使うつもりか」


 花巻は黙って紙を見ていた。


 俺は6つの丸を線で結び、1本を途中で止めた。渡した相手から必ず返してもらえるとは限らない。自分に返させるより、別の奴へ送らせたほうがいいこともある。


 どこまで相談を認めるか。手持ちの枚数は公開したほうがいい。誰が誰から受け取ったかまで公開すると、少し味気なくなる。


 ペンを持ったまま考えていると、花巻がそっと口を挟んだ。


「玖城さんって」


「うん?」


「結構、ひどいことを考えるんですね」


 俺は顔を上げた。


「お前にだけは言われたくない」


「私は、ちゃんと食べれば勝てるようにしたんです」


「ちゃんと食べた奴から死んだんだろ」


「こぼさなければ!」


「だから、それが無理だって言ってるんだよ!」


 花巻は自分の図面を引き戻しかけ、俺の紙をもう一度見た。比べるように視線を行き来させてから、赤いペンの蓋を外した。


「でも、これなら食べるのが苦手な人もできますね」


「食べないからな」


「お金を受け取るだけなら、体格も関係ありませんし」


「お前、まだわんこそばと比べてるだろ」


 彼女は返事をせず、俺が止めた線の先へ小さな矢印を足した。


「ここへ送ってもいいんですよね?」


 紙を見た。


 それをすると、助けた相手が次に困る。さっき受け取った1枚を返せばいいと思うだろうが、その返し先を変えられたらどうなる。


「……いい。送れることにする」


「では、これは?」


「ちょっと待て」


 俺は彼女の矢印の隣へ、もう1本線を引いた。こっちへ回されたら、俺ならどうする。渡す前に相手へ話をするか。先に受け取ってしまった奴を使うか。


 花巻が椅子を少し寄せた。2人のペン先が同じ丸へ向かい、ぶつかる。彼女が引っ込めた隙に、俺は数字を書き替えた。


「これなら、こいつは黙って見てない」


「誰かへ渡しますか?」


「たぶんな。でも、渡す先は――」


 言いながら、俺は笑っていた。


 分かっていて受け取る奴がいる。助けてもらったと思って、あとで気づく奴もいる。その場で相手の意図を読み、別の使い方を思いつく奴だっているはずだ。


 6つの丸のどれに自分を置いても、まだ考えることがあった。


 花巻は、俺の書いた線を1つずつ目で追っていた。そばの時のように一気に説明しようとはしない。時々、分からなくなったところを指で押さえ、そこから先だけを聞き直した。


 俺も答えた。そのたびに、別の条件を思いついた。


 紙が足りなくなった。


「裏、使っていいか?」


 花巻の書類を指すと、彼女は慌てて鞄を開けた。


「白い紙もあります! 念のため、100枚持ってきました」


「そんなに要らねえよ」


 3枚使った。


 途中で金貨を札へ変え、やっぱり金貨へ戻した。花巻が装置の話を始めたので止め、受け取りを断る方法だけ聞いた。できると言うから、そこへもう1つ条件を足した。


 ようやくペンを置く頃には、俺の昼飯から湯気が消えていた。


 箸を入れると、そばがひとまとまりになって持ち上がった。花巻もそれを見た。何か言いかけた口を、そっと閉じる。


「お前のせいだからな」


「……はい」


「そばが好きなんだろ。責任持って、店でうまいの食わせろ」


「地元に、すごくいいお店があるんです!」


「近所にしろ」


 花巻は笑った。来た時の、今にも泣きそうな顔とはずいぶん違っていた。俺が渡した紙を、角が折れないように揃えている。


「本当にありがとうございます。これなら会議に出せます」


「細かいところは、そっちで考えろよ。俺は、どんな装置が作れるかまでは知らないから」


「はい。そちらは任せてください」


 そこだけは、少しも迷わない返事だった。


 彼女が書類を鞄へ入れる間、俺は募集要項を表へ戻した。読もうとしていたゲームはまだ募集中だ。相談など受けず、こちらを先に読み終えていればよかった。


 けれど、目はさっき描いた6つの丸へ戻った。


 あの金貨を、自分なら最初に誰へ渡すだろう。


「玖城さん」


 呼ばれて顔を上げると、花巻が玄関へ行きかけたところで立ち止まっていた。


「次は、自分で考えてきますね!」


「そうしろ」


「今日のお話、忘れません」


 深々と頭を下げて、彼女は帰っていった。


 俺は扉の鍵をかけ、居間へ戻った。伸びきったそばと、あちこちに線を引いた紙が残っている。思ったより時間を取られたが、これで次の企画会議とやらは何とかなるだろう。


 椅子へ座り、箸を持った。


 そこで、手が止まった。


 次は、自分で考えてくる。


 ――来るのか。


────────── ここから付録 ──────────


企画メモ あなたの取り分


 玖城朔と花巻こはるが食卓でまとめたゲーム案。以下は、本編に登場した金貨の受け渡しを、開催用の条件へ整理したもの。


ゲームの概要


 6人の参加者は、それぞれ金貨10枚を持って始める。金貨は他人へ送れる。ただし、一度でも金貨を受け取った相手からの送金は、以後、拒否できなくなる。


 3回の決算を行い、そのたびに、金貨の所持枚数が単独で最下位の参加者が死亡する。最下位が2人以上並んでいる場合は、その回の死亡者はいない。最後まで生き残った参加者は、残った金貨を1枚10万円で換金できる。


 誰かへ金を渡せば、自分の取り分は減る。それでも渡したくなる理由がある。金をもらえば、所持枚数は増える。それでも受け取りたくない理由がある。


1回の進行


 一 相談時間は7分。生存者全員の所持枚数を共通画面に表示する。交渉、同盟、口約束、嘘は自由。ただし、口約束を運営が強制的に実行することはない。


 二 送金指定は1分。各自の端末から、生存している他の参加者1人と、送る枚数を秘密に指定する。送金しないことも選べる。枚数は1枚以上、その回の開始時に持っている枚数まで。その回に届く予定の金貨は使えない。指定は締切まで変更できるが、締切後は取り消せない。


 三 受領判断は1分。すべての送金指定を締め切ってから、各受取人に、誰から何枚届くかを同時に知らせる。複数人から届いた場合、それぞれについて受領か拒否を選ぶ。未回答は拒否として扱う。ただし、すでに拒否できない関係の相手から届く分は自動受領となる。受領判断中は会話も連絡もできない。


 四 決算。受領された送金だけを一斉に実行する。拒否された分は送り手の手元に残る。送金途中の一時的な残高では判定せず、すべての処理が終わったあとの所持枚数を比較する。


一度受け取った相手


 AがBから1枚以上受け取ると、Aには「Bからの受領を拒否できない」という関係が記録される。この関係は次の回から有効となり、終了まで消えない。BがAからの送金を断れなくなるわけではない。方向は別々に扱う。


 以後、BからAへの送金は、受領判断を待たず自動的に受領となる。枚数が大きすぎるという理由でも断れない。Bは送金を義務づけられてはいないので、Aを助け続ける必要もない。


 受領拒否の権利は売買も譲渡もできない。別の相手を経由して届いた金貨は、最後に送った人から受け取ったものとして記録する。金貨の出どころと、拒否できなくなる相手が一致するとは限らない。


公開される情報


 各回の開始時と決算後の所持枚数、敗退者、残りの回数は全員へ公開する。誰が誰へ何枚送ったか、誰が拒否したか、誰からの送金を断れなくなっているかは、該当する2人にだけ知らせる。


 つまり、誰かの金貨が増えたことは分かる。しかし、誰が助けたのか、その人が今後も送金を断れるのかは、本人たちの言葉を信じるしかない。送り手には自分の送金が受領されたか拒否されたかを知らせるが、相手のほかの受領判断は知らせない。


敗退と終了


 決算後、単独で最下位になった参加者の首輪が作動する。最下位が同数で並んだ場合、追加投票や抽選は行わず、全員が次の回へ進む。第3回でも同じ判定を適用し、その後にゲームを終了する。


 敗退者の金貨は運営が回収する。生存者へ配り直さない。敗退者は次の回の送金先には指定できず、その人との受領関係も以後は機能しない。


 全員が一切送金せず、10枚ずつ持ち続けることも合法。3回とも同数なら、6人全員が生還し、1人100万円を持って帰れる。必ず誰かを殺すための追加条件は設けない。金貨の偽造、端末への干渉、暴力による操作の強要は認めない。


このゲームで起こり得ること


 例えば、第3回の開始時に4人が残り、所持枚数が8、8、12、12だったとする。全員が何もしなければ、8枚の2人は同率最下位なので、誰も死なない。


 ところが、12枚の1人が8枚の片方に1枚だけ送り、受領されれば、所持枚数は9、8、11、12になる。ほかに送金が成立しなければ、何も受け取らなかった8枚の1人だけが死ぬ。


 1枚をもらった人は助かった。しかし、その人が受領を断れない関係になっていたなら、隣の人を殺すために利用されたことになる。送った人は、自分の賞金を10万円減らして、決算の結果を変えた。


 逆に、別の誰かが残る8枚の人へ1枚送れば、最下位を並ばせて死亡者をなくせるかもしれない。ただし、送金指定は他人の指定を見てから変更できない。誰が誰を助けるという約束を、本当に守るかが問題になる。


 金を受け取らない人は、他人の道具にされにくい。そのかわり、自分だけが取り残される危険がある。金を配る人は、拒否されれば企みが崩れ、受領されれば自分の残高が減る。贈り物をする側にも、される側にも、同じ1枚をめぐる別々の思惑がある。


企画書の余白


〈全員生還を防ぐ条件を追加?〉


 花巻の赤い字の横に、黒い字で一言だけ書かれている。


〈そのままでいい〉


企画書 わんこそば早食いゲーム


 企画担当:花巻こはる


 企画意図:地元の名産を全国へ! 次々におそばが追加される楽しさと、隣の人に負けたくない気持ちを、デスゲームでも味わっていただきたい。


 参加人数:6人。指定の椅子に座り、爆発式首輪を装着。制限時間内に最も多く食べた方が優勝。


 自慢の設備:椅子とテーブルの重量センサーで、おそばの減少量と体重の変化を照合。首輪ののど越しセンサーで飲み込みを確認。重量の検知精度は0.0001グラム。


 禁止事項:立つ、隠す、他人に渡す、指定外の器を使う、蓋をする、こぼす。違反を検知した場合、首輪が作動。


 実施結果:開始直後、全員失格。優勝者なし。


 担当者の所見:「計測装置は正常に作動しました」


 上司の意見:「装置は正常でも、企画は失敗です。次は、2杯目を出せるゲームを考えてください」


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